「もしもだれか他人になることができるとしたら、だれになりたいか?」
競馬ファンにこんな問いかけをしたら、まちがいなく上位に来る人物のひとりに金子真人オーナーがいるだろう。
馬主名義・金子真人HDといえば、キングカメハメハ、ディープインパクト、マカヒキ、ワグネリアン、2000年以降のダービー馬4頭を筆頭に活躍馬は数え切れない、いわゆる『馬運の強い人』である。
あのディープインパクトを7000万円で購入──これはその年の当歳部門に上場されたサンデーサイレンス産駒13頭中9番目の価格だった。馬の運の強さをあらわすたとえとしては有名な話だ。
しかしながら、競馬ファンが金子真人オーナーがなりたい理由は、その強運のみを羨んでのものではない。
たとえばワグネリアンは父ディープインパクト、母ミスアンコール、母の父キングカメハメハ、母の母ブロードアピールと、血統表の左側は金子真人HDの勝負服で走った馬ばかり。いい馬をたくさん所有しているだけではなく、それらの血をかけ合わせ、自らの勝負服で血脈を広げる。競馬ファンが憧れる壮大なロマンを追う『リアルダビスタな人』それが金子真人オーナーなのだ。
なってみないかと問われれば、私は「是非」と即答したい。
金子真人HDは2020年セレクトセールでディープインパクト産駒アブソリュートレディの19を2億2千万円、キングカメハメハ産駒ヒストリックレディの19を1億1500万円で落札した。いずれも牡馬であり、両血脈の後継馬を探しているのではなかろうか。マカヒキやワグネリアンは、金子真人HD所有のディープインパクト後継馬としてあげられる。しかしそう簡単にはいかない、それが馬の世界。金子真人オーナーはより強く、そのことを認識しているにちがいない。
血を継ぐものは、サンデーサイレンスのように多いにこしたことはない。
それはあのディープインパクトでも、そしてキングカメハメハでも、だ。
そして、キングカメハメハの血を継ぐ金子真人HDの勝負服で走った馬、それがラブリーデイである。
父キングカメハメハ、母ポップコーンジャズはいずれも同名義、ラブリーデイもまた金子真人オーナーの夢のかたまりなのだ。
初陣は2012年8月19日、「すばらしいお天気の一日」という馬名由来にふさわしい夏空だった。
断然の1番人気ディープインパクト産駒インパラトールに対してラブリーデイは3番人気、最終的な単勝オッズは10倍を超えた。レースは使いだしでややもたつくキングカメハメハ産駒らしく発馬で後手を踏む。だが8枠だったことで後方から素早く器用に追いあげ、先行集団の直後にいたインパラトールの外に並んだ。ラブリーデイにとって最大の武器である器用さの片りんがみえる。3角では小回りコースにやや戸惑いつつも4角でエンジンがかかると外をまくり、キングカメハメハ産駒特有の持続力を発揮して勝利した。
つづく秋の阪神・野路菊Sと連勝後、2歳GⅠを目指し距離を1400mに短縮した京王杯2歳S2着、朝日杯FS7着、アーリントンC5着とマイル戦に対応できないままリズムを崩したラブリーデイは1000m通過58秒0のハイペースでロゴタイプが勝った皐月賞15着を経て、日本ダービーに挑戦した。マイルから2000mのスピードを求められるカテゴリーに対応できなかったラブリーデイは17番人気ながら7着と健闘。キズナとはたった0秒4差だった。スピードより器用さと持続力に強みがあるラブリーデイが2000m前後のレースを目指すきっかけが、日本ダービーだった。
夏は休養せずに初陣を飾った小倉、雨の小倉記念に参戦。この日は好発から絶好位のインコースをキープ、メイショウナルトの早めの仕掛けに器用に反応、先に抜け出した同馬を最後まで追い詰めた。暮れの中京金鯱賞も2着。2000m重賞連続2着の歯がゆさを払しょくできたのは5歳はじめの中山金杯。日が傾きつつある青い冬の空の下、皐月賞と同舞台でかつて後塵を拝したロゴタイプが先に抜け出すところをきっちり捕らえた。2年越しのリベンジを果たしたラブリーデイの血が開花した瞬間だった。
京都記念も勝ち、距離が長かった阪神大賞典、天皇賞(春)は敗れたが、2000mの鳴尾記念に勝利、そして迎えたサマーグランプリ宝塚記念。当日は夏空が広がっていた。ゴールドシップがゲートで吠えて大出遅れしてしまったレース、ラブリーデイは伏兵レッドデイヴィスの逃げるスローペースのなかで番手を確保。直線で先頭に立ち、後続を完封した。操縦性の高さ、器用さ、そしてトップギアに入ると止まらない持続力、そのすべてが凝縮したレースだった。
その後は京都大賞典、天皇賞(秋)と勝ち、鳴尾記念から4連勝。きっかけをつかむと一気に走るキングカメハメハ産駒らしい成績で5歳シーズンは【6-0-1-3】だった。
5歳での素質開花に晩成型という評価がついてくるのはやむを得ないが、きっかけひとつで大化けするキングカメハメハ産駒、そのきっかけはいつ訪れるかわからない。ラブリーデイは5歳だったが、3歳で化ける産駒がいないとは限らない。そうは簡単ではない馬の世界、早計な評価づけは禁物である。
金子真人オーナーのリアルダビスタを体現するラブリーデイ、キングカメハメハの血流を継ぎ、オーナーの夢、その先へと導く存在になれるだろうか。