[重賞回顧]現役最強マイラーから史上最強マイラーへ。早目先頭から危なげなく押し切ったジャンタルマンタルが、3年連続のGⅠ制覇!~2025年・安田記念~

春のマイル王を決める安田記念。2025年から宝塚記念が翌週におこなわれるため、2000mを得意とする馬の参戦は今後減少しそうではあるものの、国内外のGⅠ馬はもちろん、3歳ベストマイラーの称号を手にした馬、スプリントGⅠ勝ち馬らが参戦。さらに、4歳から8歳まで5世代のバラエティー豊かな18頭が顔を揃えた。

最終的にオッズ10倍を切ったのは4頭で、そのうち3頭に人気は集中。その中で、7歳馬ソウルラッシュが1番人気に推された。

4歳時に4連勝でマイラーズCを制したソウルラッシュ。その後、GⅠではやや物足りない内容が続いたものの、5歳秋のマイルCSで2着に好走すると、2024年の同レースでGⅠ初制覇。さらに、4月のドバイターフでは、世界最強クラスの香港馬ロマンチックウォリアーとの大接戦を制し、2つ目のビッグタイトルを手にした。

5歳秋以降は5着以下がなく、特にこの1年は7戦すべて3着内と安定。帰国初戦となる今回は、3度目のビッグタイトル獲得と、秋春マイルGⅠ統一が期待されていた。

これに続いたのがジャンタルマンタル。

デビュー3連勝で朝日杯フューチュリティSを制したジャンタルマンタルは、その後、NHKマイルCで2度目のGⅠ制覇。3歳ベストマイラーの称号を手にした。

ところが、秋初戦の富士Sを熱発で回避すると、7ヶ月ぶりの実戦となった香港マイルは13着。生涯初の大敗を喫してしまった。

ただ、国内のレースに限れば4着以下はなく、大敗した前走も敗因は明確。3年連続3度目のビッグタイトル獲得なるか、大きな注目を集めていた。

そして、僅かの差で3番人気となったのがシックスペンスだった。

1800mのGⅡを3勝しているシックスペンス。GⅠの舞台では、ダービー9着、大阪杯7着と結果が出ていないものの、2走前に中山記念をレコードで制しており、一流マイラーと互角に渡り合ってもなんら不思議ではない。

実際、条件戦とはいえ芝1600mは2戦2勝と得意舞台。さらに、今回は過去4戦全勝のクリストフ・ルメール騎手とコンビ復活が叶い、悲願のGⅠ制覇が懸かっていた。

以下、2023年のエリザベス女王杯を制したブレイディヴェーグ。前走の東京新聞杯で重賞初制覇を成し遂げたウォーターリヒトの順で人気は続いた。

レース概況

ゲートが開くと、シャンパンカラーが大きく出遅れ。それ以外の17頭は、揃ったスタートを切った。

逃げ馬不在の中、飛び出したのはマッドクールとウインマーベルの2枠2頭で、シックスペンスとジャンタルマンタルが3番手を併走。その後ろも、レッドモンレーヴとエコロヴァルツの2頭が併走するところ、これらを交わしたロングランが3番手まで上昇し、トロヴァトーレ、ブレイディヴェーグ、ガイアフォース、ダディーズビビッドと、9頭が一団となった。

一方、中団後ろに位置していたのがサクラトゥジュールで、人気のソウルラッシュは、そこから半馬身差の13番手を追走。さらに、1馬身差のインにグラティアス、中にウォーターリヒト、外にジュンブロッサムと続き、ホウオウリアリティとシャンパンカラーが最後方につけていた。

600m通過は35秒0、800m通過46秒7とミドルペースで、前から後ろまでは13、4馬身の差。そこまで縦長の隊列にはならず、3~4コーナー中間から4コーナーにかけても大きな動きはないまま、レースは直線勝負を迎えた。

直線に入ると、マッドクールがコーナリングで単独先頭。2番手ウインマーベル、3番手ジャンタルマンタルの順で坂を駆け上がり、その後、坂上でスパートしたジャンタルマンタルが残り200mで先頭に立った。

これに対し、後続から末脚を伸ばしたのが、ソウルラッシュとブレイディヴェーグ、ガイアフォースで、粘るウインマーベルも合わせて2番手は4頭の争いとなったものの、その間にセーフティーリードを築いていたジャンタルマンタルが1着でゴールイン。1馬身1/2離れた激戦の2着争いを制したのはガイアフォースで、クビ差3着にソウルラッシュが続いた。

良馬場の勝ち時計は1分32秒7。好位から抜け出したジャンタルマンタルが、3年連続となるGⅠ3勝目。NHKマイルC勝ち馬として初めて安田記念を制し、見事、現役最強マイラーの称号を手にした。

各馬短評

1着 ジャンタルマンタル

最大の武器であるセンスの良さがこの日も光り、五分のスタートから難なく好位を確保。途中、外から来た馬と接触しエキサイトする場面はあったものの、ペースも味方につけ、直線早目に抜け出し勝利。1馬身1/2差以上の完勝だった。

王道ともいえる先行抜け出しの競馬で、ほぼ毎回不利を被ることなく安定して力を発揮。そのため、熱発明けだった前走の香港マイル以外、国内のレースでは4着以下がない。

朝日杯フューチュリティS、NHKマイルC、安田記念をすべて制した馬は史上初。5月のヴィクトリアマイルを勝利したアスコリピチェーノとの対決は1年間実現していないものの、現役最強マイラーといって間違いなく、今後は史上最強マイラーを目指す戦いが続いていく。

2着 ガイアフォース

過去2年の4着馬で、道中はジャンタルマンタルの2~3馬身後方に位置。3コーナーで僅かにゴチャつき、さらに、直線に向いてすぐのところで外に持ち出さなければならないロスがあったものの、しぶとく末脚を伸ばし激戦の2着争いを制した。

鞍上の吉村誠之助騎手にとってはNHKマイルCに続いて悔しい結果となってしまったが、デビュー2年目とは思えない称賛されるべき騎乗。初ブリンカーもプラスに出た。

一方、血統をみると父はキタサンブラックで、オークスから3週連続ブラックタイド系種牡馬の産駒がGⅠで連対したことになる。

3着 ソウルラッシュ

五分のスタートを切ったものの、2ハロン目でペースが上がると先行集団から遅れはじめ、そこからは鞍上の浜中俊騎手がやや促しながらの追走。その後、直線で差を詰めたものの瞬発力勝負では分が悪く、序盤の位置取りも響いて3着が精一杯だった。

展開に泣いた一頭で、人気を下回る着順でも好走といえる内容。現状の充実ぶりを考えると、マイル戦はもちろん、2000m戦でも好勝負するのではないだろうか。

レース総評

レース前週まで10週連続週末に雨が降った東京は、当週の火曜日も23ミリの雨量を計測。安田記念当日も、朝4時頃と7時頃に雨が降ったものの、こちらは雨量計に計測されない程度の弱い雨で、土日ともに終日良馬場。レース当日のクッション値は9.5と標準で、含水率は4コーナーが15.0%、ゴール前は14.4%だった。

また、芝1800mでおこなわれた当日5レースの2歳新馬戦は、1分46秒8と素晴らしいタイムで決着。さらに、安田記念と同じ芝1600mでおこなわれた8レースの1勝クラスは1分33秒5と、まずまずのタイムだった。

そんな中おこなわれた安田記念は逃げ馬不在のメンバー構成で、前半800m通過46秒7は、ややスロー寄りのミドルペース。一方、同後半は46秒0=勝ち時計は1分32秒7で、意外にも前後半の差は0秒7しかなかったものの、どちらかといえば瞬発力が要求されるレースだった。

そのため、道中はさほど縦長の隊列にならなくても、さすがに後方一気は厳しく、メンバー中最速の上がり33秒6で6着まで追い込んだシャンパンカラーは、大出遅れが惜しまれる内容。人気のソウルラッシュも展開に泣いた一頭だった。

一方、勝ったジャンタルマンタルはパレスマリス産駒の持ち込み馬。パレスマリスの全弟には、2023年の天皇賞(春)を制し宝塚記念にも登録のあるジャスティンパレスや、同年のステイヤーズSを制したアイアンバローズがおり、さらに、前述した当日8レースの1勝クラスを勝ち上がったキングノジョーは12歳下の半弟である。

また、パレスマリスは2024年から日本で供用されており、種付けシーズン前に重賞を相次いで制したジャンタルマンタルやノーブルロジャーの活躍もあって、同年の種付け頭数262頭は、日本で種付けをおこなった種牡馬の中で最多。気の早い話だが、この先ジャンタルマンタルも無事に現役生活を終えて種牡馬入りすれば、間違いなく人気種牡馬となるだろう。

そのジャンタルマンタルの武器は、なんといってもセンスの良さだろう。ダービー馬クロワデュノールと同様、五分のスタートから難なく好位を確保し、直線でほぼ不利を受けずに抜け出す能力は、ある意味、競馬で最も必要とされる能力といっても過言ではない。

逆に、力を発揮できないレースがあるとすればハイペースに巻き込まれた時で、3走前の皐月賞がまさにそうだったが、それでもゴール寸前まで先頭をキープ。結果は、勝ち馬と0秒1差の3着で、決して得意とはいえない2000m戦であったことを考えれば勝ちに等しい内容だった。

また、NHKマイルC勝ち馬として初めて安田記念を制した点も、特筆すべきポイントといえるだろう。

NHKマイルCは、エルコンドルパサーやキングカメハメハなど、歴史的名馬のGⅠ初制覇の舞台となった一方、レースレベルが高くない年もあり、勝ち馬が古馬になって低迷することもしばしば。ただ、ジャンタルマンタルが勝利した際の2着馬は、先日のヴィクトリアマイルを制したアスコリピチェーノで、このレースでは直線、同馬の進路がなくなる不利があったものの、それでもジャンタルマンタルの勝利は揺るぎなく、レースレベルは間違いなく高かった。

現役最強マイラーの座に就いたジャンタルマンタルにこの先待ち受けるのは、史上最強マイラーを目指す戦い。ただ、同馬のセンスの良さは歴代の名マイラーと比べても遜色なく、それも決して夢物語ではない。

写真:s1nihs

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