[重賞回顧]黄金配合の堅実派キープカルムが二冠馬を撃破し重賞初制覇!~2025年・しらさぎS~

サマーマイルシリーズの開幕を告げるしらさぎSは、2024年までおこなわれていたリステッドの米子Sを前身とする新設重賞。夏競馬におけるマイル路線の拡充を図るため、2025年からGⅢに格上げされ名称も変更された。

その記念すべき第1回目のレースに、前週の宝塚記念に出走していてもおかしくないようなGⅠウイナーやGⅡを複数勝利した馬が参戦。レース当日はフリーパスの日ということもあって、盛り上がりをみせた。

ただ、それら実績上位の馬が断然人気とはならず、最終的に5頭がオッズ10倍を切る大混戦。それでも、1番人気に推されたのはチェルヴィニアだった。

2023年のアルテミスSで重賞初制覇を成し遂げたチェルヴィニアは、それ以来の実戦となった桜花賞こそ13着と敗れるも、続くオークスで一気に巻き返しGⅠ初制覇。さらに、5ヶ月の休養をはさんで出走した秋華賞も制し二冠を達成した。

その後、ジャパンC4着、京都記念9着、ドバイシーマクラシック6着と結果が出ていないものの、今回のメンバーでは実績断然。復活勝利が期待されていた。

僅かの差でこれに続いたのがレーベンスティールだった。

2023年のセントライト記念で皐月賞馬ソールオリエンスを破り、重賞初制覇を成し遂げたレーベンスティール。そこから2戦連続で大敗を喫するも、エプソムCで復活の勝利をあげ、さらに秋初戦のオールカマーで3つ目の重賞タイトルを獲得した。

その後、天皇賞(秋)と前走のアメリカジョッキークラブCは8、12着と結果が出なかったものの、前走時に騎乗したクリストフ・ルメール騎手は「現状では距離が長い」とレース後にコメントしており、今回がキャリア初のマイル戦。この馬もまた復活の重賞制覇が期待されていた。

そして、3番人気に推されたのがデビットバローズだった。

初勝利を手にするまで4戦を要するも、そこから一気に3連勝し、3勝クラスも3戦で突破した6歳馬デビットバローズ。ロードカナロア産駒の本馬がマイル戦に初めて出走したのは意外にも3走前の洛陽Sで、結果は勝ち馬から0秒1差2着と惜しい内容だった。

今回の舞台となる阪神外回りは、古馬になってから3戦2勝2着1回とすべて好走。二冠牝馬を撃破して待望の重賞初制覇なるか。注目を集めていた。

以下、前走3勝クラスの夢洲Sを快勝し、オープン入りした良血馬シヴァース。前走のダービー卿チャレンジTで3着と好走し、半妹カムニャックが5月のオークスを制したキープカルムの順で人気は続いた。

レース概況

ゲートが開くと、全馬きれいなスタートから7頭ほどがいく構えを見せる中、デビットバローズとニホンピロキーフが併せ馬のような形で先頭。その後、ニホンピロキーフの単騎逃げとなった。

1馬身差の3番手は、ダイシンヤマト、レーベンスティール、タシットが併走し、シヴァースを挟んだ中団も、キープカルム、ダディーズビビッド、チェルヴィニア、ダンツエランの4頭が併走状態。さらにそこから1馬身差の後方も、ボルザコフスキー、ラケマーダ、コレペティトールと3頭が横一線で、4馬身離れた最後方をマテンロウオリオンが追走していた。

600m通過は35秒1、800通過も47秒2と遅く、マテンロウオリオン以外の13頭は6~7馬身差とほぼ一団。その後、3~4コーナー中間でコレペティトールが上昇を開始し先団に取り付くも、それ以外に大きな動きはないままレースは直線勝負を迎えた。

直線に入ると、デビットバローズがニホンピロキーフに再び並びかけようとするところ、内柵沿いからダイシンヤマト。馬場の中央から狭いスペースをこじ開けてきたキープカルム。同じく僅かな隙間を割って出てきたチェルヴィニアが外から末脚を伸ばし、坂を上り切ってからはキープカルムとチェルヴィニアの一騎討ちとなった。

この争いを制したのはキープカルム。ゴール前50mでもう一段加速しチェルヴィニアを突き放すと、最後は1馬身差をつけ先頭ゴールイン。チェルヴィニアは惜しくも2着で、伏兵コレペティトールがそこから1馬身1/2離れた接戦の3着争いを制した。

良馬場の勝ち時計は1分33秒0。道悪に泣いた2走前以外はすべて掲示板を確保してきた堅実派キープカルムが、重賞初制覇を成し遂げた。

各馬短評

1着 キープカルム

道中は中団やや後ろのインに構え末脚温存。直線に向いてしばらく進路がなかったものの、僅かな隙間をこじ開けると鋭く伸び、チェルヴィニアに並びかけられたところでもう一伸びして勝利をもぎ取った。

デビュー以来3ヶ月半以上休んだことがなく、4歳馬ながらタフに走り続けて今回が15戦目。大きく崩れたのは道悪に泣いた2走前の東風S9着だけで、それ以外はすべて掲示板を確保しており、今後もマイル路線で堅実な走りを続けるだろう。

2着 チェルヴィニア

序盤は勝ち馬とほぼ併走状態で、中間点付近では1馬身半前に位置。その後、この馬もまた直線で進路をなくしかけたものの、キープカルムから1頭挟んだ外にスペースを見つけ末脚を伸ばしたが、実質の斤量2キロ差(勝ち馬と同じ57キロも、牝馬アローワンスで実質2キロ差)が響いたか、最後の最後で伸び負けてしまった。それでも、復活の兆しは十分に見せたいっていい内容だった。

アルテミスS1着に対して桜花賞は13着と、これまでマイルの重賞で十分な実績を残してきたとは言い難いものの、今後に目処がつく内容。ただ、この馬にとって最も力を発揮できる舞台は、やはり直線の長い競馬場での2000mか2400mだろう。

3着 コレペティトール

2024年の京都金杯を勝利して以降スランプに陥っていたものの、7年ぶりに平地重賞に騎乗した井上敏樹騎手とのコンビでいきなり激走。ただ、このレースまで距離短縮時は5戦3勝で、さらに、今回と同じ右回りかつ直線が長い(360m以上)コースでは6戦2勝3着1回と決して悪い成績ではなかった。

この中間は障害練習を取り入れ、6月5日には試験にも合格。鞍上のコメントどおり練習の効果はあったようで、当初の予定どおり障害に転向するのか。それとも、引き続き平地競走に出走するのか。今後が注目される。

レース総評

レース当週は開催最終週でBコースを使用。内回り3コーナーと直線の内柵沿いに軽い傷みがみられたものの、それもコース替わりによってカバーされた。また、気温が高いため洋芝の衰退が早く見た目は悪いものの、逆に野芝の生育が良くしっかりとした状態だった。

それでも、レース前日は馬場が乾いたため、夕方に芝の生育管理のための散水をおこない、迎えたレース当日はクッション値が9.0と標準の値。含水率は、ゴール前が11.9%。4コーナーは9.3%だった。

タイム面では、3レースの3歳未勝利戦が、同じ芝1600mで1分33秒8とまずまずの時計。一方、前半800m通過が47秒2、同後半が45秒8の上がり勝負となり、1分33秒0で決着したしらさぎSはそれと0秒8しか違わないため、タイム面に関しては平凡だったといわざるを得ない。

勝ったキープカルムはロードカナロア産駒で、母の父はサクラバクシンオー。この「父ロードカナロア×母父サクラバクシンオー」の組み合わせは、近年、重賞勝ち馬が続出している「黄金配合」で、サトノレーヴとファストフォースが高松宮記念を制し、テイエムトッキュウがカペラSを勝利するなど、3頭でJRAの重賞を計6勝。他、オープン馬も複数出ており、キープカルムが4頭目の重賞ウイナーとなったが、マイルの重賞勝利は今回が初めてだった。

一方、ブラックタイド産駒の半妹カムニャックは1ヶ月前にオークスを制したばかりで、この「父ブラックタイド×母父サクラバクシンオー」の組み合わせは、GⅠ7勝の名馬キタサンブラックと同じ。また、2頭の3代母ダンスパートナーも同じくオークス馬で、その全弟ダンスインザダークは菊花賞を、全妹ダンスインザムードは桜花賞とヴィクトリアマイルを勝利するなど名門の出身。ダンスインザムード以降、一族からビッグタイトルを獲得する馬は出ていなかったものの、ここ最近、急激に勢いを取り戻している。

キープカルムに話を元に戻すと、良馬場であれば終い確実に伸びる末脚が武器で、成績も安定。大半のレースで上位の上がりをマークしており、2歳から3歳春にかけて敗れたのは、ジャンタルマンタル、シンエンペラー、メイショウタバルと、後のGⅠ馬やGⅠ2着馬が相手だった。

また、これまで3ヶ月半以上の休養をはさんだことがなく、タフに走り続けられる点もこの馬のセールスポイント。逆に課題は、たまにのそっと出るスタートだが、父、母父ともGⅠ初制覇は4歳秋で、キープカルムの本格化もおそらくこれから。1600mはもちろん、さらなる成長があれば、1200mや2000mの重賞で好走してもなんら不思議ではない。

写真:RINOT

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