[ヴィクトリアマイル]ストレイトガール、コイウタ、テンハッピーローズ…。波乱の立役者となった名牝たちを振り返る

2006年に創設されて以来、上半期における古馬牝馬の頂上決定戦の位置づけとなっているヴィクトリアマイル。年によっては現役トップクラスの牝馬が何頭も参戦し、ハイレベルな争いとなる事も多い。

一方で、JRAで開催されるGⅠの中では「荒れるレース」としても有名。2026年5月現在、歴代のGⅠレースの中でも最高配当の記録を保持している競走でもある。

今回は、その「波乱」という箇所にスポットを当て、荒れた年のヴィクトリアマイルを勝ち馬と共に振り返ってみたいと思う。

2007年:コイウタ(3連単配当 228万3960円)

2007年が2回目の開催であったヴィクトリアマイルだが、当時は東京芝1600mで行われる古馬牝馬の重賞はまだ歴史も浅く、傾向も掴みにくい状態にあった。

更に、この年の牝馬路線は絶対的な女王こそ不在だったが、各馬の実力が非常に高いレベルで拮抗していた。このヴィクトリアマイルにも前年の二冠牝馬カワカミプリンセスを筆頭に、グランプリホースのスイープトウショウや桜花賞馬キストゥヘヴンが出走。
それ以外にも、牝馬クラシックのタイトルに惜しくも手が届かなかったデアリングハートやアドマイヤキッス、コイウタなどが参戦しており、彼女たちがここで初のGⅠ制覇を決めてしまってもおかしくないといっていい陣容。レース自体もかなりの混戦模様となっていた。

ゲートが開くとアサヒライジングが逃げ、スタートしてから600m以降は11秒台の淡々としたラップを刻んでいく。人気のカワカミプリンセスやスイープトウショウは中団から進めていたが、一方でキストゥヘヴンやコイウタ、デアリングハートなど、前年の牝馬クラシックで好走した馬達は先行策を取っていた。

直線に向いたところで、各馬が前週の雨によって傷んだ馬場を嫌って外に持ち出す。が、その動きに逆らうようにコイウタの松岡正海騎手は、相棒を内に誘導した。そしてコイウタは荒れた芝でもきっと問題なく伸びてくれると踏んだ鞍上の作戦に応え、グイグイ脚を伸ばす。粘るアサヒライジングを残り100mで交わすと、デアリングハートやキストゥヘヴンの追撃もそのまま封じ込めて、先頭でゴール板を駆け抜けた。

人馬共に初のGⅠ制覇となったコイウタは12番人気。2着のアサヒライジングは9番人気で、3着のデアリングハートが8番人気だったこともあり、3連単の配当は228万3960円と大荒れの結果となった。これは2026年5月現在、レース史上2番目の高配当となっている。

ただ、勝利したコイウタから3着のデアリングハートまで、いずれも牝馬クラシックでは馬券圏内、それも1着からコンマ1秒差まで迫ったことのある実力馬。それでここまでの配当となったのだから、いかにこの年の古馬牝馬路線がハイレベルだったかが分かる結果ではないだろうか。

2014年:ヴィルシーナ(3連単配当:40万7940円)

大波乱となった2007年以降はウオッカやブエナビスタ、アパパネなど超のつく実力馬が参戦したこともあり比較的固い決着が続いていたが、2013年は6年ぶりに3連単の配当が10万円を超えた。そのヴィクトリアマイルを制したのがヴィルシーナで、1番人気の勝利ながら2,3着に人気薄の馬が飛び込み、やや波乱の結果となった。

それから1年の時が経ち、再びヴィクトリアマイルに出走してきたヴィルシーナ。しかし前年の勝利以降、勝利はおろか掲示板にも入れないレースが続き、このレースでの評価は18頭立ての11番人気にまで下がってしまっていた。

しかし、陣営は「良い時に見せていた勝負根性が無くなっている。前向きな気持ちが戻ってくれば復活できるかもしれない」と、彼女のメンタル面に不調の理由を感じ取っていたという。

そして、東京新聞杯で7か月ぶりに手綱を取った内田博幸騎手もそれを感じ、続く阪神牝馬Sでは生涯初の短距離戦で馬群に入れ、とにかく彼女の闘争心に火をつけることを狙った。

その目論見は見事成功し、ヴィクトリアマイル当日のパドックでヴィルシーナは大人しかった前走までとは打って変わってやる気に満ち溢れ、尻っぱねをする程までに復活。牝馬クラシックでライバルだったジェンティルドンナを相手に戦い続けた時のような気合が、ヴィルシーナの中には戻ってきていた。

ゲートが開くと、鞍上の内田博幸騎手に気合をつけられたヴィルシーナは、そのまま一気に先頭へ立っていく。道中も息を入れながら進め、直線に向いてきたところで再び加速した。

坂下で並びかけてきたケイアイエレガントに抜かせず、坂を上り切ったところで完全に競り落として抜け出す。しかし、今度は後方で脚を溜めていたメイショウマンボとストレイトガール、ホエールキャプチャが追撃を開始。だが、彼女たちにも馬体を並ばせぬまま、最後まで先頭を一度も譲らずにゴール板を通過。1年ぶりの勝利をレース史上初となる連覇で飾って見せた。

2着のメイショウマンボは3番人気だったが、3着のストレイトガールが6番人気と中穴の評価だったこともあって、3連単は40万7940円と波乱の結末に。とはいえ、GⅠ馬2頭のワンツーでこれだけ3連単の配当がつくというのは、かなり珍しいのではないだろうか。

この勝利を皮切りに、ヴィルシーナは本来の走りを取り戻した。次走の宝塚記念でも3着に好走。年末にはラストランとなった有馬記念でも4コーナーまで逃げ、牝馬クラシック路線で共に競ったジェンティルドンナが有終の美を飾る姿を後ろで見届けた。

そして、この年も出走していたストレイトガールとケイアイエレガントが、翌年のヴィクトリアマイルでとてつもない大波乱を巻き起こすこととなる。

2015年:ストレイトガール(3連単配当 2070万5810円)

牝馬路線のトップにいたヴィルシーナやジェンティルドンナが前年いっぱいでターフを去り、次点候補だったメイショウマンボは前年の秋から掲示板に載れない不振に陥っていた。

一方、4歳世代も年明け初戦の中山記念を勝利したオークス馬のヌーヴォレコルト以外は目立った成績をこの時点では挙げておらず、絶対的な女王は路線に不在と言っていい状態。そのヌーヴォレコルトが中山記念からそのままヴィクトリアマイルに転戦し、抜けた1番人気に支持されていた。

続く2番人気のディアデラマドレはマイラーズCで31.9秒の末脚を繰り出しており、前年の府中牝馬Sも勝利していたことから、直線の長い東京でこそ真価を発揮できると考えられて上位人気に。後ろから速い末脚を使える2頭が戦前、高い支持を集めていた。

だが当時、東京競馬場の芝はかなり速い時計が出る馬場で、見た目以上に前が残ると言ってもいい状態。それ故に、「単騎で後続を離して逃げたい馬」や「とにかくスピードのある馬」にとっては非常に有利であった。その条件を穴馬が満たしていたからこそ、このレースは歴史に残る大波乱の結末を迎えることとなる。

レースは大外から最低人気のミナレットが快調に飛ばし、2番手につけた12番人気のケイアイエレガントを離して逃げて行く。上位人気馬はレッドリヴェールとストレイトガール以外は中団以降に控え、脚を溜めて行く展開に。

600mの通過が34.3秒と速い流れとなる中、3コーナー付近でミナレットはさらに後続との差を広げた。これについていく馬は当然おらず、ミナレットは単騎先頭で直線に向いてきた。

しかし、坂下に差し掛かっても、厳しいペースで逃げたはずのミナレットの脚が止まらない。そして彼女に迫るのは、同じく番手から速いラップを刻んだケイアイエレガントのみで、1,2番人気の両頭を含めた後続集団は全く上がって来なかった。

200mのハロン棒を通過したところで、ようやく3番手からストレイトガールが抜け出して一気に先頭へ並びかけて行く。上り3ハロン33.0秒の怒涛の末脚でゴール前僅かにケイアイエレガントを捉え、前年3着に終わった悔しさを晴らすGⅠ制覇となった。

逃げた人気薄の2頭が2,3着に残ったことで、3連単は4896通り中の4140番人気で決着。払戻金額は2070万5810円という超がつくほどの大波乱となった。この金額は2026年5月現在でも、GⅠレースで記録された史上最高の払戻金額である。

そして、この前残りのペースを先行集団から抜け出し、当時のレースレコードタイの時計で勝ち切ったストレイトガールの実力は確かであった。6歳でGⅠ初制覇を挙げた同馬だが、秋には短距離GⅠのスプリンターズSを制して二階級制覇を達成。翌年もヴィクトリアマイルを勝利し、7歳牝馬としてJRA史上初となるGⅠ制覇と同レース連覇という偉業を事も無げにやってのけて見せたのであった。

2017年:アドマイヤリード(3連単配当 91万8700円)

この年のヴィクトリアマイルの前評判は「ミッキークイーン1強」であった。

2年前に牝馬二冠を達成し、前年の同レースでもストレイトガールの2着に入線。その後もエリザベス女王杯で3着となり、牡馬相手の有馬記念でも5着となった実力は確かと考えられており、2番人気以下を大きく引き離した1.9倍の1番人気に推されていた。

さらに、上位人気に推されていたレッツゴードンキとルージュバック、クイーンズリングもミッキークイーンと同世代の実力馬で、4番人気のスマートレイアーは7歳馬。4歳世代の最上位人気が6番人気のアドマイヤリードだったことを考えると、この年は5歳世代が優勢で、世代交代はないと思われていたのかもしれない。

ゲートが開くと、内からソルヴェイグが逃げてレースを作る。これに続いたのが近走で先行策に脚質を変えたスマートレイアーで、人気のミッキークイーンとルージュバックはスタート後にやや包まれて後方からとなっていた。

一方、アドマイヤリードは周囲に馬がいない中団を気分良く進め、ストレスなく道中を通過。直線で横いっぱいに馬群が広がった際も、彼女に跨るC.ルメール騎手は焦ることなく相棒を馬場の真ん中へ誘導し、坂の上りでスマートレイアーとジュールポレールの間へ僅かにできたスペースを突く判断を取った。それに呼応して、アドマイヤリードは確実に脚を伸ばして先頭へ。外から急追するデンコウアンジュを抑え、先頭でゴールを駆け抜けた。

終わってみれば1着のアドマイヤリードから3着のジュールポレールまで、全て上位人気に推されていなかった4歳馬であった。

前年の桜花賞、オークスを制した2頭が戦線を離脱していたのに加え、牝馬クラシックの勝ち馬がこのレースに出走していなかったことも手伝って、4歳牝馬全体が低い評価となっていたかもしれない。

だが、秋華賞馬のヴィブロスはこの年のドバイターフを勝利し、翌年のヴィクトリアマイルもこのレースで3着だったジュールポレールが制したことを考えるなら、世代レベルの高さを証明する決着だったと言えるだろう。

全てが分かった今、このレースの払戻金額91万8700円を改めて見ると、「取れたかもなぁ」とたらればを言いたくなる。

2024年:テンハッピーローズ(3連単配当 91万6640円)

前年の三冠牝馬リバティアイランドはドバイ帰りで体調が整わず出走を回避。とはいえ、秋華賞で彼女にコンマ1秒まで迫ったマスクトディーヴァと、秋にマイルCSを制し、ドバイターフでもハナ差の2着まで追い込んだナミュールが参戦したことで、人気は完全に2強体勢に。2倍台のオッズを2頭で分け合う裏で、3番人気のウンブライルは9.4倍と大きく離された人気構成となっていた。

しかし、かつてメジロマックイーンとトウカイテイオーの天皇賞(春)がそうであったように、「二強対決は二強で決まらない」と言う格言もある。

そしてそういうレースは、時に予想もつかないような大穴馬が突っ込んでくることもある。

スタートでナミュールが出遅れ、いきなり波乱の幕開けとなった2024年のヴィクトリアマイル。コンクシェルがいつも通り逃げ、それをフィールシンパシーが追いかける。この2頭が作り出した流れは600m通過が33.8秒とかなりのハイペースとなった。しかしマスクトディーヴァは後方に控え、出遅れたナミュールも無理にポジションを上げることはせずしっかりと脚を溜めている。人気両頭とも、直線に向いた時の末脚勝負に何ら不安は無いように見えた。

だが、直線で馬群を突こうとしたマスクトディーヴァは、左右両側から挟まれて進路を失くした。後方で溜めていたナミュールも、出遅れの影響かそこまで速い脚を使えていない。その間に抜け出したフィアスプライドが先頭で坂の上りに差し掛かっていく。これはこのまま勝負あったかと誰もが思った時、馬場の真ん中をテンハッピーローズが一気に切り裂いて先頭に立った。

栗毛の綺麗な馬体を躍動させて抜け出した彼女に迫れるものは無く、そのまま1.1/4馬身抜け出して勝利。鞍上の津村明秀騎手と共にGⅠ初制覇となった。

彼女の単勝人気はなんと15頭立て14番人気の208.6倍。このオッズでのGⅠ勝利記録は2026年5月現在、GⅠでは歴代4位である。

ブービー人気の彼女が1着となったことで、3連単の配当は91万6640円を記録。ただ、2,3着は人気馬であったため、単勝オッズの割にはそこまで配当が跳ねていないと思う方もいるかもしれない。しかしこのレース、4,5着には11番人気のドゥアイズ、13番人気のルージュリナージュが入線していた。

もしこの2頭が着内に入り、14番人気→11番人気→13番人気で入線となっていたら、3連単の配当はなんと1568万2330円。2015年のヴィクトリアマイルに迫る金額となっていたのだから、やはり低人気馬の激走はとんでもない配当を生み出すきっかけとなる。

そして勝利したテンハッピーローズは同年の秋、アメリカのブリーダーズCマイルに遠征。好位で脚を溜めると直線は先頭で抜け出し、見せ場十分の4着に入線したその姿に、声を枯らして応援したファンも少なくなかったのではないか。

このレースを最後に繫殖入りしたテンハッピーローズ。その産駒の走りを、楽しみに待ちたい。

写真:Horse Memorys、はねひろ(@hanehiro_deep)、かぼす、I.Natsume

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