
2019年の終わりから毎週末の重賞を回顧する記事を書くようになった。振り返る記事は基本的に当然ながら勝ち馬を主役に展開する。なぜなら、競馬は勝つことが第一であり、勝ち馬こそがそのレースの最高だからだ。そうでなければ競馬の価値がおかしくなる。一頭の馬に関わる人々はみな、ただ1着でゴールすることにすべてを注いでいる。その情熱を讃えなくては回顧は成立しない。
だが、その向こうには惜しくも敗れた馬たちもいる。「惜しくもあと一歩足りなかった」「完璧な競馬だったが、相手が悪かった」もしくは「あの不利さえなければ」そんな言葉を幾度書いてきたことか。そのなかでも「負けて強しの競馬だった」というフレーズをつい多用してしまうことがある。もちろん、それは讃えるフレーズではあるけれど、どこか虚しい気分になる。なぜなら、敗者である事実は動かないから。強かろうかなんだろうが、負けてしまえば、先へ進めない。目の前の壁をぶち破れない悔しさを癒す言葉としてふさわしいのかと疑問を抱いてしまう。どちらかというと、書き手の都合のいいまとめ言葉にすぎないのではないか。記事はそれで完結できるかもしれないが、目の前の壁は依然として立ちはだかったまま。私はつねにその背中を押す言葉を探している。
競馬に出会った頃にステイゴールドという名馬に心を奪われてしまったせいか、惜敗ばかりを繰り返す善戦マンにどうしても感情移入してしまう。どうやっても記事に歯がゆさが滲み、毎度冷静な分析を欠いてしまう。私が重賞回顧の記事を書きはじめた2019年以降でいえば、ソウルラッシュは間違いなくその代表格だった。何度も壁に弾かれても魂で突き進むソウルラッシュの諦めの悪さに知らず知らず心を奪われていった。

4歳春マイラーズCで重賞初制覇を飾るまでは順調だった。昇級初戦でGⅡを勝つわけだから、能力は一級品。ハイペースで上がりを要する戦いのなか、上がり34秒1を繰り出し、4コーナー13番手から追い込んだ。上がり34秒1は決して展開に恵まれていない。これならGⅠだって。そう思わせてからが長かった。安田記念13着、マイルCS4着。直線で不利を受けるなど、4歳時は力を出し切れないレースもあった。
5歳春の安田記念ではスタートで遅れをとり、秋は59キロを背負った京成杯AH1着。次走マイルCSでは3番人気に推され、主役の一頭としてGⅠの舞台に立つ。スタートで躓く場面こそあったが、その後はリカバーし、道中は中団追走。直線では馬群を切り裂くように鋭く伸びて先頭へ。ついにGⅠ制覇の時が来た。そんな確信がゴール前、一瞬で消されてしまう。藤岡康太騎手とナミュールの究極の瞬発力にしてやられた。代打騎乗であれほどの末脚を引き出した藤岡康太の腕を讃えるしかない一方、完璧な競馬で押し切れなかったソウルラッシュにかける言葉がなかった。それこそ「負けて強し」と書いてしまった記憶がある。
マイル王の称号まであと一歩。最後の壁を破れない日々は6歳になっても変わらない。変わらず諦めの悪さで果敢に挑むも、安田記念3着。前には前年敗れたナミュールと香港の英雄ロマンチックウォリアーがいた。いくら末脚を伸ばしても、どうしたって足りない。挑戦者として姿勢を崩すことなく、諦めずに頂点へ手を伸ばす姿。横綱に幾度も挑戦するも叶わず、大関で引退した力士が「手をいっぱいに伸ばしたけど、届きませんでした」と語ったのを耳にし、ソウルラッシュに重ねてしまう自分がいた。もしかしたら、マイル王にはもうなれないかもしれない。善戦マンこそ報われてほしい。ステイゴールドがそうだったように、ソウルラッシュの父ルーラーシップだって香港でGⅠをぶっちぎった。だからソウルラッシュにもそんな歓喜の時が来るはずだ。そんな願いと大関のコメントが複雑に絡み合う。そんな秋、マイルCSを迎える。
休み明けの富士S2着は4歳と同じ臨戦過程だった。ソウルラッシュの人気は4番人気。前年より一つ人気を落とした。鞍上は富士Sからコンビを組む団野大成騎手。若武者とベテラン。その融合が最後のピースになった。スタートを決め、中団馬群の後ろにつけたソウルラッシュは4コーナー手前の下り坂を利用し、じわじわ前を追いかける。その勢いと手応えに震えた。

とてつもないことになる。そんな予感はまさに現実に変わっていく。大外を豪快に駆け抜けていくソウルラッシュに抵抗できる馬はいなかった。後ろから飛んでくる馬もいない。その走りは諦めずに戦ってきた魂の解放だ。鞍上も叫んでいたが、ソウルラッシュの叫び声さえも聞こえてくるかのようだった。負けても強いじゃダメなんだ。強ければ勝たなければいけないんだ。いや、強いから勝つのだ。競馬の基本に立ち返るかのような想いで私はそのゴールを見つめていた。

6歳秋、ついに手にしたマイル王の称号。だが、この物語にはまだ続きがあった。魂を解き放ったソウルラッシュには倒さねばならない馬がいた。それが安田記念で敗れた同世代の英雄ロマンチックウォリアーだった。日本でも香港でもなく、遠く中東ドバイの地で再戦の機会を得た。2025年4月5日ドバイターフ。サウジCでフォーエバーヤングに敗れたロマンチックウォリアーとて日本調教馬に連敗を喫するわけにはいかない。ましてや今回はダートではなく、芝。負けられない。3番手につけるロマンチックウォリアーとその真後ろで相手を絞るソウルラッシュ。先に仕掛けたのはロマンチックウォリアー。直線入り口で逃げるメイショウタバルに並びかけていく。ソウルラッシュはその抜けたスペースを狙っていた。残り200mで満を持して先頭に立ったロマンチックウォリアーの外をソウルラッシュが攻める。諦めが悪いソウルラッシュの脚は簡単にはあがらない。それどころか一完歩ごとにロマンチックウォリアーとの差を着実に詰めていく。振り切らんとするロマンチックウォリアーも激しい抵抗をみせる。この形では負けられない。押し切るか差し切るか。中東の夜空に閃光を放つかのような攻防だった。最後のゴール板、魂の突撃が英雄をとらえた。あと一歩足りない。どうしたって詰めが甘い。過去の評価がすべて覆された瞬間でもあった。
ソウルラッシュがロマンチックウォリアーを差し切った。
そう書けるときがくるとは。幾度も壁にはね返され、その度に強くなる。晩成の善戦マンの覚醒には、いつも勇気をもらう。私も諦めの悪さで負けたくない。諦めずに挑み続ければ、壁はいずれ崩れる。いや、壁を突き抜けられる。ソウルラッシュの競走生活とそれを支え続けたホースマンたちに改めて感謝したい。最高の物語をみせてもらった。

![[インタビュー]「競走馬の引退後には多くの選択肢があることを知ってほしい」太田篤志さん(Yogiboヴェルサイユリゾートファーム)の語る想い](https://uma-furi.com/wp-content/uploads/2026/01/IMG_5627-300x225.jpeg)