![[パーフェクト種牡馬辞典]真珠くん、海を渡る。パールシークレットが日本にやってくるまでの大冒険](https://uma-furi.com/wp-content/uploads/2026/05/IMG_8225.jpeg)
競走馬の祖先は、元をたどれば3頭の三大始祖から始まっている。ゴドルフィンアラビアン(もしくはゴドルフィンバルブ)にダーレーアラビアン、そしてバイアリーターク。この3頭からエクリプスやマッチェム、ヘロドといった種牡馬に血が紡がれ、そこから長い時間をかけてサラブレッドは大きく枝葉を広げていった。
しかし、大繫栄を見せたダーレーアラビアン系や、北南米で現存しているゴドルフィンアラビアン系の裏で、バイアリータークの血は次第に衰退。今や世界各国でもほぼ少ない割合となっている。そんな希少なバイアリータークの血を後世に遺すために、大狩部牧場が海外からパールシークレットという馬を導入した。
今回は、パールシークレットもとい真珠くんが、どのような経緯で海を渡り、我が国にやって来たのかというお話を、大狩部牧場代表の下村優樹氏に語っていただいた。
生産牧場の使命とはなにか。大狩部牧場代表の下村優樹氏は端的にこう表現する。
「生産馬の個性を大切にし、丈夫な馬をつくることです」。個性とは様々だ。体型、気性、成長のスピード。一頭として同じ馬はいない。生産馬たちの個性をとらえ、長所を伸ばし、心身とも充実した日々を送らせる。そしてサラブレッドを売る生産牧場にとってもっとも困るのは競走馬になれないこと。競馬という過酷な競技に耐えられる頑健さは欠かせない。それは昼夜放牧や育成期間の鍛錬などで養っていくこともできるが、生産馬がもって生まれた素養によるところも大きい。個性も丈夫さも設計図のなかにある。それが血統だ。大手牧場での勤務経験がある下村さんはインブリードの難しさを肌で体感してきた。ポテンシャルの高さと体質のアンバランスさはインブリード特有の悩みの種でもあった。
血の更新。その必要性をかねてより下村さんは考えてきた。だが、それは簡単なことではない。サンデーサイレンスとキングマンボの血が大半を占める日本の血統図のなかで、新たな血を入れるにはどうすればいいのか。真珠くんこと、パールシークレットはその可能性を追い求めたひとつだった。
サラブレッドのお尻フェチだという下村さんは世界中の種牡馬の馬体写真を眺め、理想のお尻を探していた。なぜお尻に注目するのか。経験上、立派なお尻はトモのつくりがいい証拠であり、それは推進力の源になる。丈夫で走る馬の決め手といってもいい。パールシークレットのお尻に下村さんは目を奪われた。調べてみると、これが希少なバイアリーターク系。それもかつて世界で繁栄していたヘロド系の末裔だった。一時期、世界中でアホヌーラの血を持つ馬たちが走っていた。パールシークレットの3代父はそのアホヌーラ。立派なお尻と希少な血は魅力にあふれており、下村さんは日本に輸入することを決めた。

交渉に先立ち、下村さんは日本とイギリスそれぞれに代理人をつけた。大狩部牧場の業務もあるので、交渉はその代理人に任せることにした。その当時、パールシークレットはイギリス南西部の山奥にある牧場にいた。マイナーな種牡馬2頭と一緒に過ごしていたようで、まず牧場と連絡がとれなかった。そうなると、所有者はその牧場なのか、別にオーナーがいるのかもさっぱりわからない。競馬に詳しい日本の代理人にパールシークレットが欲しいと伝えると、「この馬、どこにいるの?」と驚かれた。そこから現地の代理人に話をもっていっても、「これ、タダでもらえるんじゃないか。むしろ、日本に持っていってくれるなら、オーナーも大喜びだよ」そんな反応だった。
ところがこれがすんなりいかなかった。代理人は牧場の住所を調べ、直接、訪問することにした。その言葉によると「あまりに山奥すぎて本当に牧場に着くかどうかわからなかった」。パールシークレットは世界から隔絶されたまるで孤立したような場所にいた。そこは貴族の時代を思わせる古き良き構造の牧場だった。高齢の牧場長に日本へ輸入したいという話をすると、すでに記憶があやふやで、所有者がだれなのかすらおぼつかなかった。とにかくオーナーと話をしてくれといわれたという。代理人が色々と調べると、パールシークレットの所有者は一人ではなかった。なんと8名もいたのだ。これはややこしい。それも所有者がそれぞれ自分の繁殖牝馬にパールシークレットを種付けしており、種付け数こそ減少傾向だったが、バイアリーターク系の血の大切さを認識し、地道にその血をつないでいこうとしていた。同じ志をもったホースマンがイギリスにもいた。ただ、話をしようにも所有者は近くにおらず、バカンスにでているなど一向につかまらない。それも契約は代表者がサインすればOKとなっておらず、8人全員の同意がなければ締結に至らない。懸命に代理人が動き、連絡をとっても「売れないことはないけどね……」そんな反応ばかりだった。下村さんは熱意を伝えてしつこくいきたかったが、現地ではしつこくされるとへそを曲げかねない。なんとかタイミングをみて粘り強く交渉を重ねるしかなかった。「日本に導入できれば、繁殖牝馬は責任をもって用意する。海外の方が産駒を欲しいと言われたら、誠実に対応する。だから日本に託してほしい」とメッセージを送り続けた。数カ月かかった交渉の末、ようやく契約は結ばれ、パールシークレットは海を渡ることになった。

といっても、すぐには海を渡れない。次は輸入にあたり保険に入る。そのための基準が非常に細かく、毎年の種付け頭数、空胎時とその年出産した繁殖の受胎率などきっちり調べられる。保険加入とその後の検疫と数々の段階を踏み、真珠くん(パールシークレット)は日本にやってきた。下村さんはよく売ってくれたなと回想する。「社台スタリオンステーションがオファーしたわけでもなく、オオカリベファームってどこだってなったはずなんです」。それでも熱意が通じた。バイアリータークの血を残したいという共通の使命があったからこそだろう。真珠くんには日英のホースマンの熱き志が託されている。

2026年2月、大狩部牧場で真珠くんの日本初年度産駒が誕生した。母はシンギュラチャーム。毛色は母と同じだが、恵まれた馬格や体形は父パールシークレット譲り。同じ時期に生まれた友だちと大狩部牧場の放牧地を無邪気に駆け回り、色々なことを吸収している。人懐っこいその姿は無限の可能性しかない。バイアリータークの血を受け継ぐ個性を楽しみにしよう。
(文・勝木淳)
血統評論家の栗山求氏・望田潤氏の監修で知られる種牡馬の解説書『パーフェクト種牡馬辞典』の2026-2027年版。栗山求氏・望田潤氏による主要72頭の血統チェックをはじめ、POGファン必見2026年産駒デビューの新種牡馬の紹介など見どころたっぷりの一冊になる。巻頭の特別鼎談には、特別ゲストの三輪圭祐さんが9年連続で参戦する。
さらに今年からはウマフリ編集部が参戦! 『競馬の楽しさを、すべての人へ』をモットーにするウマフリの面々が担当した『新種牡馬コーナー』は独自視点での構成、編集となる。また、2026年新種牡馬厳選4頭では治郎丸敬之氏の「馬体は語る」による分析が掲載される。2025年ランキングで2年連続1位に輝いたキズナをはじめ、ランキング上位10頭は辻三蔵氏による産駒調教分析、久保和功氏による馬体分析、競馬映像ディレクター美野真一氏による撮影時の種牡馬エピソードなど4ページで紹介していいく。
データは主要馬についていわゆる一口馬主クラブ募集平均価格やセリ平均価格との回収率など、愛馬選び必須の情報を掲載。レーダーチャート項目は新馬デビュー時期、堅実、健康度などPOG必須のファクターを揃えた。競馬道OnLineデータによる詳細なデータ分析をプラスも必読の、全362頭種牡馬総合分析書となる。



■監修者プロフィール
◯栗山求(くりやま もとむ)
1968年青森生まれ。東京育ち。大学在学中の89年に競馬新聞社に入社し、血統専門誌『週刊競馬通信』の編集長を務める。96年に『驚異の血統データ事典』(日本文芸社)を上梓。97年退社。
現在は『netkeiba.com』『優駿』、毎年春に刊行される『POGの達人』『競馬王のPOG本』などさまざまな媒体に寄稿するほか、グリーンチャンネル「日曜レース展望KEIBAコンシェルジュ」にレギュラー出演中。
16年に『血統史たらればなし』(KADOKAWA)を上梓。10年に株式会社ミエスクを設立し、血統・配合の総合競馬サイト「血統屋」を主宰する。
◯望田潤(もちだ じゅん)
1966年京都府生まれ。育成牧場従業員を経て競馬通信社に在籍、そこで笠雄二郎著『日本サラブレッド配合史』の影響を強く受ける。
現在はフリーで、競馬情報サイト「血統屋」『netkeiba.com』、月刊誌『サラブレ』『UMAJIN』『エクリプス』などでレース予想やコラムを執筆中。大手馬主の配合アドバイザーも務める。
■編集プロフィール
◯競馬道 OnLine 編集部
競馬道OnLineは「競馬ブック」と提携して競馬データの販売、情報配信を行う。
◯ウマフリ編集部
競馬ライター・編集者の緒方きしんが運営する読み物特化型競馬メディア。広告や馬券予想、有料記事配信を行わず、名馬紹介記事、名勝負回顧、競馬関係者インタビューなど、競馬の “面白さ”と “物語” に焦点を当てたコンテンツを配信。主な編著作に「サラブレッド大辞典」(カンゼン)、「ゴールドシップ伝説 愛さずにいられない反逆児」(星海社新書)、「名馬コレクション 純白の奇跡」(ガイドワークス)など。
■書籍情報
| 製品名 | パーフェクト種牡馬辞典2026-2027――一口馬主・馬券・POG攻略は万全!血統で競馬に勝つ! (競馬主義別冊) |
|---|---|
| 監修 | 栗山求、望田潤 |
| 編集 | 競馬道OnLine編集部、ウマフリ編集部 |
| 発売日 | 2026年3月16日 |
| 価格 | 3,190円 (税込) |
| ページ数 | 258ページ |
| 出版社 | 自由国民社 |


