日本初のホースシェルターを作ろう!「Save the Horses Campaign」からはじまる引退馬支援

私が会場に辿り着いた時、既に50名を超える人が集まっていた。
会場の「KAITEKI CAFE」では、司会の方が進行を始めていたが、どうやらパーティーの乾杯の音頭には間に合ったようだった。
ドリンクを受け取ると、慣れない場所に緊張で少し体を強張らせながらも、はじめて会う人々の中へと紛れ込んでいく。

ひとりぼっちで、心細かった。
──けれど、きっと大丈夫。
今夜、このパーティーに集った人々の間には、共有している合言葉があるからだ。

「日本初のホースシェルターを作ろう」

そう、ここにいるのは、同じ想いを持った仲間たち……そう思うと、少しずつ緊張がほぐれていった。

「ホースシェルター」とは?

聞き慣れない人も多いだろう、ホースシェルター。
それもそのはずで、日本にはまだ存在しない施設なのである。
ホースシェルターとは、行き先の決まっていない引退直後の馬を受け入れる場所のことを指す。

一時休養のための「時間」と「場所」を提供することで、より多くの馬をセカンドキャリアに繋げていくという。

なぜ、そういった施設が必要なのだろうか?
それは、引退馬の馬生を少しでも良いものにするため、である。

競走馬の引退後について、厳しい現実が待ってることは多くのファンの知るところではないだろうか。
競走馬を引退して、種牡馬や繁殖牝馬・乗馬として活躍出来るのは、ほんの一握り。
その他の多くの引退馬は、廃用、あるいは行方不明となってしまうのが、サラブレッドたちを待ち受ける悲しい現実だ。

好きな馬を引退後もずっとチェックして見守ろうとすると、そうした状況をしばしば突きつけられる事になる。
あまり深く追うのは、辛くなるばかり……そうなりたくなければ……そんな雰囲気が、暗黙の了解のように、ファンの間で流れていく。

しかし、それを暗黙の了解のままにしていてよいのだろうか?
競走馬の引退後の幸せを願い、見守っていくことは出来ないのだろうかという考えから生まれたのが、ホースシェルターだ。

競走馬は登録を抹消されると、行き先が決まらなくても厩舎を出なければならず、その後行方がわからなくなることが多い。
そこで、一時的に引退馬を預かることで、より多くの馬を第二の馬生に繋げていく役割を果たすのが、ホースシェルターというわけだ。

合言葉は「日本初のホースシェルターを作ろう」

日本初のホースシェルターとして誕生する「TCC Therapy Park」は、引退馬支援やホースセラピー活動を行っている「TCC JAPAN」が立案者だ。
「TCC JAPAN」は「馬のまち栗東」(滋賀県栗東市)に拠点を置き、「馬と共に社会をゆたかに」する活動を続けている団体で、「引退馬ファンクラブTCCFANS」と言えば、聞いたことがある人もいるだろう。

現在、京成杯勝ち馬のベルーフやチャレンジカップ優勝のフルーキーなどがTCCホースとして管理されている。
そんな「TCC JAPAN」が建設中の“日本初のホースシェルター”が「TCC Therapy Park」であり、その建設にむけた支援を募っているのが「Save the Horses Campaign」だ。

要するに「日本初のホースシェルター」建設のための支援が出来る、モザイクアート参加型クラウドファンディングである。

「あなたの支援がシェルターを実現し、セカンドキャリアに繋げる」
そう掲げられたこのキャンペーン。
ここではひとつ、面白い試みがされている。

このキャンペーンの支援をすると、返礼品の他、写真を投稿出来るのだが、その投稿された写真は、縦2m横4mの大きなモザイクアートモニュメントの一部となり、完成した「TCC Therapy Park」内に掲示されるというのだ。
TCCのシンボルマークでもある『馬の一生のサイクルと人との関わり』をイメージした、モザイクアート。

返礼品だけではなく、自身も参加している実感を得ることが出来る内容となっているのは、なんとも嬉しい仕組みではないだろうか。

そんなキャンペーンの第一弾となったのが、「Save the Horses Campaign」キックオフチャリティーパーティーであり、私も参加を決意した。そして、冒頭のシーンへと繋がる。

もっと何か出来るのでは?から、一歩を踏み出せた。

パーティーに集まったのは、クラウドファンディングで支援をした50名を超える人たち。
TCC会員の人も、そうでない人も、「日本初のホースシェルターを作ろう」という想いは同じ。友人や仲間と参加している人もいれば、私のように単身で乗り込んできた人も見受けられた。

私は、引退馬支援について以前から興味はあったが、なかなか動くことが出来ないでいた。

TCC会員ではあるが、だからといってTCCホースの一口を持っているわけでもない。
だから、競馬を応援していて、ふと『もっと、自分に出来ることがあるのではないだろうか?』と感じる瞬間が、何度かあった。

それでも実際に何も出来ていなかったのは、何をしたらいいのか、具体的な行動が見えてこなかったからだ。
TCCホースの一口になるのも良いのだが、その1頭のみではなく、私はもっと多くの引退馬を支えられる方法はないのかと模索していた。

しかし、支援の対象を広げると、実際の行動は漠然としたものになってしまう。
それに加えて、金銭的な支援には限界があるし、自分の想いや身の丈にあった支援の方法を見つけられずにいたのだ。

そんなとき、TCC会員に送られたメールの案内を見て「Save the Horses Campaign」を知った。
軽い気持ちでサイトを覗いてみると、そこでホースシェルターという存在に衝撃を受けた。

「こんな方法があったのか!」
「ぜひ、実現して欲しい!」

「Save the Horses Campaign」は、私がしたかった支援の理想の形に、限りなく近かった。
また、クラウドファンディングという方法にも気軽さがあり、どこか親しみが湧いた。
支援したいと思い立ってからは、勢いに任せて動いた。

引退馬支援や今回のキャンペーンについて出来る限りの知識を詰め込み、まずは思い切ってパーティーに参加してみることにした。
引退馬支援にどんな人たちが参加しているのか、実際に会ってみたいという想いもあった。

小さくても、まずはとにかく一歩を踏み出してみよう──そんな想いから、私はこのパーティーの扉を開けた。

情熱を感じるスピーチに、心打たれる。

パーティーは、TCC代表である山本氏の挨拶からはじまった。
「TCC Therapy Park」は、JRA栗東トレーニングセンターからほど近い立地に建設中だ。
それは、少しでも早く引退馬を移動させるためにも、理に適った立地と言える。栗東という土地は、ホースシェルターとして活用するのにぴったりな場所だろう。

「栗東から、全国に、世界に誇れる馬文化を作っていこう」
そう語る山本氏の瞳は、誰よりも強い光を放っているように見えた。

さらに、ブラストワンピースで有馬記念を制したばかりの大竹調教師も来場されていて、興味深い話が聞けた。
特に、TCCホースである元管理馬のシュプレームについてのお話には、会場にいる全員が真剣に耳を傾けていたように思う。

そのお話にあがった「馬の可能性は無限である」というメッセージは、やはり力強いもので、強く心を打たれる一言だった。馬を心から大切に想い、尊敬し、だからこそ現状をなんとかしたいという真摯な想い。
強くてあたたかいその想いにリアルに触れることで、私の中の引退馬支援への想いも強くなっていくのを感じた。

料理ももちろん「競走馬」関連。

パーティーは立食形式で、パンとペースト、パスタ、デザートなどの料理が並んだテーブルは賑わっていた。
参加者は料理を取るのに列をなし、その間も前後の人と話をするなど、終始和やかな雰囲気が流れていた。

1番人気は、マッシュルームを使った料理だ。
何故ならば、そのマッシュルームはTCCホースであるベルーフの預託されている、ジオファーム八幡平のマッシュルームだからだ。

会場内でもこのマッシュルームの説明がされたり「ベルーフマッシュ」を使った料理の投稿画像が流れている。
私も欲張りすぎない程度に「ベルーフマッシュ」を堪能した。

こうした料理をとっても、引退馬のその後の道はまだまだ模索出来るのだと考えさせてくれる。

各テーブルが盛り上がってきたところで、お待ちかねのビンゴ大会がはじまる。
このキャンペーンを支持している福永祐一騎手、YGGオーナーズクラブの提供のもと、豪華景品が用意された。

注目は、福永祐一騎手2000勝達成時のパーカーや、クオカードなど。

はじめはなかなかビンゴが出なかったが、次第にビンゴの声があがりはじめ、一体感が高まっていく。
「なかなか揃わないですねえ」
などと、近くにいた人と話すきっかけにもなった。

……が、私は結局、最後までビンゴにならず同じテーブルにいた人たちに慰められつつ、参加賞のクリアファイルをいただいた。

また、パーティーにはドレスコードがあったが、なにも難しいものではなく「馬モチーフのものを何か身につけること」というシンプルなものだった。

わたしは小さな蹄鉄をあしらったネックレスを身につけたが、ここにも各参加者の個性が表れていて興味深い。トートバッグ、帽子、缶バッジ……中には腰にアイドルホースのぬいぐるみを下げている人もいた。

さらにそこから話題も広がったりと、ドレスコードはパーティーの盛り上がりに一役買っていたようだ。
そして、それを見ていて感じたことがある。

馬が好き。
引退馬を、幸せに。

全員が直接その言葉を口にしなくとも、パーティーのあの空間では、その想いは通じ合っている──そんな気がした。そして最後には、参加者全員による集合写真を撮影。
はじめのTCCスタッフから、会場の「KAITEKI CAFE」スタッフへカメラマンが変わると、その手際の良さに皆が感心し、大いに笑った。

最後の最後まで楽しい気持ちで、笑顔のまま会場を後にした。

様々な人が抱く、ひとつの想い。

パーティー参加者は、長年の競馬ファンもいれば、3ヶ月前から競馬を好きになったという人もいた。
共通しているのは、「日本初のホースシェルターを作ろう」という願い。
そしてそのために実際に行動出来る意思を持っている、ということだ。

引退馬支援について日頃思うところはあれど、なかなか行動に移せない人は多いと思う。
私も、その中の一人だった。

私を取り巻く環境は、TCCホースのような定期的な支援は難しいのが現状だ。
経済面や家族の理解など、その壁は誰しもが簡単に越えられるようなものではない。
けれど、今回のキャンペーンのような機会であれば、乗り越えるべき壁はぐんと低くなるのではないだろうか。

引退馬支援、そのひとつの形として「Save the Horses Campaign」に参加してみたのは、非常に良い選択だったと思う。

支援の形は人それぞれ。
定期的な支援が難しければ、出来る範囲で。

私は、これからもそうして支援を続けていきたいと思っている。
このように支援への想いが変わったことも、参加してみて良かった点だ。

小さな一歩だと思っていたものは、実は大きな一歩だった。
そのことに気づけたことも、私にとって大きな収穫だと言えるだろう。

引退馬支援が気になるが実際に行動したいがどうしたらいいのかわからない人は、少なくないはずだ。
そんな人にはぜひ、その一歩として「Save the Horses Campaign」をおすすめしたい。
私がそうだったように、はじめの一歩にはもってこいの支援の方法だと思う。
「TCC Therapy Park」は、きっと、私たちの願いを形にしてくれるはずだ。

そして、1頭でも多くの引退馬に、明るい未来を──日本初のホースシェルターはそれを実現してくれると、そう、信じている。

その活動を、これからも真剣に、見つめ続けていきたい。

写真:TCC JAPAN、笠原小百合

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