樫の女王を決める伝統の一戦、優駿牝馬。
3歳牝馬の頂上決戦ということもあって、これまで数多くの名勝負が繰り広げられてきた。記憶に新しいオークスと言えば2018年・アーモンドアイが制したオークスだろう。昨年クラシック戦線を1度も落とすことなく駆け回り、牝馬三冠達成後には驚異的なタイムでジャパンカップを制覇──。
さらには翌2019年にドバイターフを制し、名実ともに日本の最強牝馬にまで駆け上がった。
しかしそんなアーモンドアイでも、オークス時点では──少しばかりではあるが──不安点も残っていたように思う。
3歳春の始動戦だったシンザン記念を圧勝し、臨んだ桜花賞。
そこでアーモンドアイは、桁違いのパフォーマンスを見せた。
2歳女王ラッキーライラックを、次元の違う脚で差し切ったこの馬に、多くの競馬ファンが度肝を抜かれたに違いない。
しかし次走のオークスは未経験距離・2400mのレース。
アーモンドアイにはその点において、一部で不安の声が上がっていた事を記憶している。
もちろん今までも、多くの馬が距離適性を疑問視され、その疑問を振り払ってオークスを制している。
しかし、今までの距離不安とは少し違う理由が、アーモンドアイにはあった。
アーモンドアイの父は、短距離の名馬ロードカナロア。
カナロアはマイル以下のレースを主戦場とし、日本・香港を駆け巡った。そんな名短距離馬の血を引くアーモンドアイにとって、2400mという距離は長すぎるのではないかと指摘されていたのだ。
「距離不安」という意味では、過去の有力馬の中でもかなり強い部類に入っていたのではないだろうか。
そして迎えた、オークス当日。
アーモンドアイに対する競馬ファンの評価は「二冠達成」を期待するもの……つまりは単勝1.7倍の1番人気だった。
桜花賞で1番人気だったラッキーライラックは2番人気と、評価の上では逆転。多くの視線が府中のチャンピオンコースのゲートに向く中、レースがスタート。
1コーナーまでの直線で先行争いを繰り広げる各馬だったが、ここで驚きの出来事があった。
それまでは後方待機策だったアーモンドアイが、先行集団にとりついていたのだ。
距離不足がささやかれるなかで、まさかの先行。ややどよめきがあったが、それでもこの馬には関係なかった。
そのままスムーズにレースを進め、直線に向くと、あの桜花賞で見せた脚が爆発する。
先に抜け出した3番人気のリリーノーブルを、軽い手応えで並ぶ間もなく交わす。そのまま後続を抑えきって先頭でゴール板を駆け抜けた。
まさに危なげない競馬での、完勝であった。
残り600m33.2の脚は、桜花賞と同タイム。距離不安などこの馬にとって全く関係なかったのだった。
圧巻のパフォーマンスで制したオークス。不安も多く残っていたが、結果的には世代最強を証明した形となった。どこまでこの馬は強くなり、今度はどんなパフォーマンスを見せてくれるのだろうか……オークスを目にした多くの人がら世界を意識したに違いない。
「世代最強」を証明したアーモンドアイは、そうして順調に「現役最強」「世界最強」への道を歩み始めたのだった。
写真:かぼす