「馬と人の福祉」の時代~TCC Therapy Park竣工式&レセプションパーティー取材手記~

令和元年5月1日。

新しい時代の訪れとともに、TCC Therapy Parkは、大事な一歩目を踏み出した。

「こういう施設が欲しかったんですよ」

そう優しい口調で語るのは、JRAの角居勝彦調教師。

ウオッカ、ロジャーバローズといったダービー馬を輩出した名伯楽が「欲しかった」と評価するほどの施設が、このTCC Therapy Parkだ。

この日行われた竣工式では、栗東市長をはじめ多くの来賓が駆けつけ、施設のオープンを祝った。

TCC Japanの代表である山本高之さんは、挨拶でTCC Therapy Parkの「3つの顔」を挙げた。

ひとつは、怪我をしたり、次の行き先が決まっていない引退馬の一時避難所として──時間を稼ぐことにより、より多くの馬を次の居場所へ繋げる「日本初のホースシェルター」としての顔。

もうひとつは、ホースセラピーを利用した療育を行う、PONY KIDSという児童発達支援施設としての顔。

そして最後は、馬が活躍する町づくりという顔。

山本さんは「そんなTCC Therapy Parkは、人と馬の福祉活動を行っていくための施設であり、多くの人の協力により今日のこの日を迎えることが出来た」と、感謝の言葉を口にした。

その「協力」の中のひとつが「Save the Horses Campaign」と題されたクラウドファンディング。TCC Therapy Park設立に向けた支援を募るためのクラウドファンディングで、支援者には様々な特典が用意されていた。

例えば、特典の中に「モザイクアートへの参加」というものがある。そのモザイクアートは、2万枚もの写真からなる壮大な作品だ。

TCC Therapy Parkの入り口すぐ右手の壁に大きく掲げられていた。

馬だけでなく、家族やペットの写真など、さまざまな愛情が詰まった多くの写真からなるこの作品。見ていると、自然と穏やかな気持ちになった。

後に行われたレセプションパーティーでは、来場者が自分の写真を熱心に探している姿が印象的だった。

竣工式の後、施設を案内してくれたのはスタッフのソフィア・スワンソンさん。スワンソンに案内された厩舎には、2頭のサラブレッドの姿がいた。

人懐こく愛嬌たっぷりのラッキーハンター。

マイペースでどこかクールなメイショウナルト。

以前、ウマフリの記事でもご紹介した2頭だ。

対照的な2頭の隣り合った馬房は、やわらかな木の匂いに満ちていた。

「だんだん馬臭くなってきますよ」

そう声を掛けてくださったのは、スタッフの高田さん。

穏やかな笑顔とゆったりとした口調は、その場を和ませる。

ずっとここに居たいと思わせるような厩舎は、CLT工法という建築様式がとられており、夏は暑さを凌ぎやすく、冬は過ごしやすい湿度を保ってくれるそうだ。

厩舎の設計段階から、馬のことを第一に考えられていたのだろう。

厩舎長である船曳さんは、元騎手だ。

騎手を引退したのち児童福祉の仕事をしていたが、元騎手としての経験も同時に活かせるこのTCC Therapy Parkへと辿り着いたのだとか。

少し離れた馬房には、PONY KIDSで活躍中の一番星とライト。そして、京都競馬場からやって来たばかりのキングボーイの姿もあった。

作業療法士で児童発達支援管理責任者の礒脇さんは、一番星とライトの様子が気になるようだ。特に一番星はまだ新しい場所に慣れず、そわそわしていると仰っていた。

PONY KIDSでの療育への熱い想いを語る様子も印象的だ。

そして、支援者の皆さんも参加されてのレセプションパーティーがはじまった。

やさしい微笑みでテキパキと動かれていたのは、山本妃呂己さん。

山本代表の奥様で、理学療法士としてTCC Japanでも活躍されている。

竣工式からパーティーまで参加されていた福永祐一騎手の挨拶では、普段から馬を大切に思って騎乗されている姿勢もうかがえた。

「なかなか日本で馬事文化が普及していない状況のなか、こういった施設が増えることで世の中も変わっていく。一頭でも多くの馬がより幸せな余生を送れるんじゃないかなと思う。騎手も個人個人が、少しでもチカラになれればと騎乗しています」

また、角居調教師とお話させていただいた際には、何度か「山本代表が(理想を)現実のものにしてくれた」と繰り返されていた。

角居調教師自身、TCC Therapy Parkの構想には参加していたという。

しかし、それを現実のものにしたのは山本代表をはじめとするTCC Japanの皆さんであることは忘れてはいけない。

角居調教師はご自身のお名前の大きさを感じていらっしゃるようで、「でしゃばらないように、距離感を大事にしている」と語られていたのも印象的だった。

「成功モデルとして、TCC Therapy Parkを踏襲しながら、活動が広がっていけば。全国に同じようなことをしたい人はいる」

引退馬支援というと角居調教師の名が挙がることが多いが、活動を行っている人は全国各地に存在している。

TCC Therapy Parkも、まだまだ紹介しきれない多くのスタッフ、そして支援者の力によって成り立っている。

そのことを角居調教師はきちんと理解され、応援されているのだと感じた。


最後に2階のテラスから、TCC Therapy Park全体を眺めてみた。

眼前には近江富士。

馬場には馬が。

並んだ馬房では馬と人が触れ合っている。

それらを見守るように立っている、1本のカエデの木。

この場所から眺める景色は、胸にこみ上げてくるものがある。

これこそが、望んでいた世界なのかもしれない。

穏やかな時間の流れる、やさしい世界。

こんな場所がもっと増えれば、きっと馬と人はこれからも共存していける。

強く、強く、そう思った。

新しい時代が馬と人にとって素晴らしいものとなるよう、あの日TCC Therapy Parkにいた全員が思っていたはずだ。

それが、TCC Therapy Parkから栗東へ、栗東から全国へ、波紋のように広がっていってくれたら──。

そんな願いを胸に、多くの人に支えられてTCC Therapy Parkは、今日も明日も馬と人の福祉のために存在していく。

写真:笠原小百合、TCC Japan

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