2021年に入り、クロフネやジャングルポケット、アブクマポーロ、エイシンサニー、シーザリオが亡くなり、大変悲しい訃報が相次ぎ、遂にはネオユニヴァースも亡くなってしまった。現役時には、2003年の皐月賞とダービーの二冠を達成。ミルコ・デムーロ騎手に、外国人騎手としては初となるダービージョッキーの称号をもたらした名馬である。
翌年、残念ながらケガのため現役を引退したものの、種牡馬入りすると、初年度産駒からいきなりの大活躍。2世代目と合わせて、牡馬クラシック勝ち馬を3頭も輩出した実績は、間違いなく大偉業だったといえる。
そんなネオユニヴァースは、現役時にスプリングステークスを制しているが、今回は、その初年度産駒が勝利した、2009年のスプリングステークスを振り返りたい。
この年の出走頭数はフルゲートの16頭と揃ったが、人気は3頭に集中していた。
その中で、やや抜けた1番人気に支持されたのは、アンライバルド。
1996年のダービー馬フサイチコンコルドや、京成杯勝ちのボーンキング、種牡馬としてカンパニーを輩出したミラクルアドマイヤ、皐月賞馬ヴィクトリーとGⅠ2着3回のリンカーンの母となったグレースアドマイヤを兄姉に持ち、近親にも活躍馬が多数いる良血馬である。
また、アンライバルドの父は、この世代が初年度産駒となるネオユニヴァースだったが、母のバレークイーンは、どの種牡馬と配合しても産駒が活躍し、今日の日本を代表する牝系の礎となった名牝だった。
そんなアンライバルドのデビュー戦は、10月京都の芝1800m。
後にクラシックを勝つブエナビスタとスリーロールス、ダービーで2着となるリーチザクラウンが揃った「伝説の新馬戦」を快勝する。続く京都2歳ステークスこそ3着に敗れたものの、西の出世レースといわれる若駒ステークスを3馬身半差で圧勝し、ここに臨んでいた。
一方、2番人気となったのはフィフスペトル。
父は、ネオユニヴァースの翌年にダービーを制し、同じくこの世代が初年度産駒となったキングカメハメハである。前年7月に函館でデビューし新馬戦を快勝すると、1ヶ月後の函館2歳ステークスも連勝、世代最初の重賞ウイナーとなった。その後、京王杯2歳ステークスと朝日杯フューチュリティステークスで2着に惜敗し、今回はそれ以来3ヶ月ぶりのレースとなった。
そして、3番人気に続いたのはリクエストソング。新馬戦こそ敗れたものの、未勝利戦と福寿草特別を連勝し、前走はGⅢのきさらぎ賞でリーチザクラウンの2着に好走。4戦すべてで連対していて、このレースでも期待を集めた。
ゲートが開くと、キタサンガイセンが少しあおるようなスタートで後方からの競馬を余儀なくされてしまう。
一方で、先行争いは激しくなり、リスペクトキャット・レッドスパーダ・セイクリムズンの3頭が並んで1コーナーへと進入。最終的には、3頭の中で最内にいたリスペクトキャットがコーナリングで1馬身半のリードを取って先行争いは決着し、各馬2コーナーから向正面へと入った。
すると、激しくなった先行争いから一転してペースが一気に落ち、馬群もほぼひとかたまりに。上位人気馬では、リクエストソングが5番手につけ、アンライバルドとフィフスペトルはちょうど馬群の真ん中で併走していたが、3頭ともややいきたがるような素振りを見せていた。
1000m通過は、1分2秒6のスロー。そのまま各馬は3コーナーを回るも、依然ペースは上がらないままだったが、残り600mの標識を過ぎたところで、後方に構えていた8枠の2頭、セイクリッドバレーとサイオンが外からマクり気味に先行集団へと取り付き、一気にペースが上がりはじめた。
すると、アンライバルドもそれに呼応するように2頭とともにポジションを上げ、16頭はさらに密集しながら4コーナーを回り、最後の直線へと入った。
迎えた直線。逃げるリスペクトキャットを、レッドスパーダが捉えにかかるが、先行集団の外側へと取り付いていたアンライバルドが、坂の手前でまとめて交わして先頭に立つ。ただ、レッドスパーダも激しく抵抗して必死でこれに食らいつき、後続からはフィフスペトルとサンカルロも勢いよく迫ってきた。
しかし、坂を上ってから底力を見せたアンライバルドが最後に強さを見せ、ぐいっとレッドスパーダの前に出て、半馬身差をつけ1着でゴールイン。2着にレッドスパーダ、3着にフィフスペトルの順で入線した。
勝ったアンライバルドはこれが重賞初制覇となり、母の産駒としては3頭目の重賞ウイナーとなった。そして、2003年にこのレースを勝利した父ネオユニヴァースとの親子制覇も同時に達成した。
また、ここから数年後の話にはなるものの、敗れた馬も後に活躍。
レッドスパーダ、フィフスペトル、サンカルロ、セイクリムズン、セイクリッドバレーは、後にGⅠで連対を果たしたり、複数の重賞を勝利するなど、結果的には好メンバーが揃った一戦でもあった。
そんな価値あるレースに勝利したアンライバルドは、そこから予定通り、本番の皐月賞へと駒を進めた。
人気面では、同じネオユニヴァース産駒のロジユニヴァースと、新馬戦で快勝したリーチザクラウンに1、2番人気を譲ったものの、レースではスプリングステークス以上の強さを見せつけた。
この年の皐月賞は、終始よどみないペースで道中は流れ、先行馬にとっては息が入らない厳しい展開となった。そんな中、アンライバルドは、ライバル2頭を前に見て中団のやや後ろに構える。すると、4コーナーでは、前哨戦と同じく馬群の外をまくり気味に上がって先行集団へとりつき、直線に向くと早くも先頭に立って、あっという間に3馬身とリードを広げた。
そこからは、懸命に追い込むトライアンフマーチとセイウンワンダーにやや差を詰められたものの、余裕たっぷりに押し切ってGⅠ初制覇を達成。前走に続き、このレースでも父ネオユニヴァースとの親仔制覇を達成し、また、兄のフサイチコンコルドに続いて、牡馬クラシックの兄弟制覇の偉業を成し遂げたのだった。
ところが──。
二冠達成確実と思われた次走の日本ダービーから、それまではこれ以上ないほど潤滑に回っていたアンライバルドの歯車は、なぜか一気に狂ってしまう。
迎えたこの年のダービーは、直前に降った豪雨の影響で、40年ぶりとなる不良馬場で行われることとなった。
そんな過酷な条件の中、レースは、NHKマイルカップを制したジョーカプチーノがハイペースで逃げ、リーチザクラウンが2番手、ロジユニヴァースは3番手につけた。一方で、単勝2.1倍の圧倒的な1番人気に推さていれたアンライバルドは、後ろから4~5番手あたりをじっくりと追走していた。
しかし、勝負所で逃げるジョーカプチーノを捉え、抜群の手応えで後続との差を広げにかかった先行2頭とは対照的に、アンライバルドには道悪が堪えたのか、既に直線入口では反応がなかった。その後も、為す術なしといった感じで馬群に沈んでしまい、結局、勝ったロジユニヴァースからは、2秒3も離れた12着に大敗してしまうのだった。
秋に入ってもそのショックを引きずるように神戸新聞杯で4着に敗れると、菊花賞と有馬記念では連続して15着に大敗。さらに、年明けには左前脚に屈腱炎が判明して1年半の休養を余儀なくされてしまう。
その後、復帰レースとなった金鯱賞では、まずまずの見せ場を作って5着に健闘したが、秋にオールカマーを目指す過程で屈腱炎が再発し、わずかキャリア10戦で引退が決定。種牡馬入りが発表された。
父のネオユニヴァースは、2世代目からも、皐月賞や有馬記念、そして日本調教馬では唯一となっているドバイワールドカップ勝ち馬のヴィクトワールピサを出し、200頭以上に種付けする年も何度かあるほどの人気種牡馬となった。一方で、種牡馬アンライバルドは、初年度から45頭と種付け頭数も少なく、一時はその数も14頭まで落ち込んでしまった。
しかし、初年度産駒からファルコンステークスを勝ったトウショウドラフタや、東京ダービーを勝ち、ジャパンダートダービーでも4着に入ったバルダッサーレを出すなどプチブレイクを果たし、その年は種付け頭数も100頭を超えたが、2020年は4頭にまで落ち込んでしまった。
ヴィクトワールピサが、2021年からトルコで繋養されることが決まり、日本国内で繋養されているネオユニヴァースの後継種牡馬は、かなり数が少ない。
そんなネオユニヴァース系の最大の魅力といえば、大一番での意外性とそこで発揮される底力ではなかろうか。その血が途絶えないよう、できればアンライバルドの産駒から、父と同じようにここ一番で底力を発揮する産駒が登場することを願うばかりだ。
写真:かず、Horse Memorys