サラブレッドは、血のドラマだといわれる。300年以上もの間、連綿と紡がれてきた血の歴史が、一頭一頭の血統表に息づいている。 走ることは、すなわち自らの血を残すこと。 そんな宿命のサラブレッドの中にありながら、どれだけ走ろうとも血を残せない優駿たちがいる。されど、彼らの走りは、時に大きな輝きを放つ。 師走の寒空の下、中京...
大嵜 直人
文筆家、心理カウンセラー。サラブレッドの美しさを通して、世界の美しさを描くことをライフワークにしています。心に残るレースは、マヤノトップガンと田原成貴騎手の1997年天皇賞・春。共著「競馬 伝説の名勝負」シリーズ、「テイエムオペラオー伝説」(ともに星海社新書)。
大嵜 直人の記事一覧
国民文学作家と呼ばれた吉川英治は、人生における得難い出会いについて、こう書いている。 十年語り合っても理解し得ない人もあるし、一夕の間に百年の知己となる人と人もある。玄徳と孔明とは、お互いに、一見旧知のごとき情を抱いた。いわゆる意気相許したというものであろう。吉川英治「三国志 赤壁の巻」(新潮文庫) 自らもその血を引く...
──この人に出逢っていなかったら、いったい今、どうなっていたのだろう。時にそんな仮定をしてしまうような大きな出逢いが、人生においては起こる。 人は毎日多くの人とすれ違い、顔を合わせ、そして言葉を交わす。 そんな中でも、得難い人との出逢い、自分を変えてくれたと感じる人との出逢い、返せないほどの恩義を与えてくれた人との出逢...
「ネオレアリズモ」の旗手である巨匠、ヴィットリオ・デ・シーカ。『甘い生活』はじめ数々の名作で知られた、マルチェロ・マストロヤンニ。そして当代きっての名優、ソフィア・ローレン。 この1960~70年代のイタリア映画を彩る黄金トリオとくれば、不朽の名作と名高い『ひまわり(原題:I Girasoli、1970年)』が思い出さ...
「あなたの、そして私の夢が走ります」 数々の名実況で知られた杉本清・元関西テレビアナウンサーが、宝塚記念を実況する際によく使われていたフレーズである。 有名なところでは1991年の宝塚記念の実況で、このフレーズとあわせて杉本氏ご自身の「夢」を披露されておられた。 「今年もまたあなたの夢が、そして私の夢が走ります。あなた...
その瞬間、その場所にいたことが、のちに密かな自慢になることがある。そして、誰かが同じ経験をしたと聞くと、妙な親近感を覚えて嬉しくなる。「おや、あなたもそこにいたんですか。実は、私もそこにいたんですよ」と。それは、魂を揺さぶる音楽だったり、スポーツの生むカタルシスだったり、あるいは身近な人の夢が形になった瞬間だったりする...
平成6年、WBA・IBF世界ヘビー級王者マイケル・モーラーとのタイトルマッチに挑んだとき、ジョージ・フォアマンは45歳だった。試合は「モーラー圧倒的有利」という下馬評どおりに進み、フォアマンは苦戦を強いられる。しかし迎えた10ラウンド、フォアマンはモーラーの一瞬の隙を突いて、必殺の右ストレートを炸裂させた。「象をも倒す...
その偉大なる戦績から気に留めることも少ないかもしれないが、エルコンドルパサーはいわゆる「マル外」だった。 「マル外」とは、すなわち外国産馬。つまりは、日本国外で生を受けたサラブレッドを指す。 昭和末期から平成初期の競馬を見てきたファンにとって、〇の中に「外」の文字で示される外国産馬の表記は、様々な感情をともなった懐古を...
あら、いらっしゃい。 今日は早いわね。 ……そうなの、早めに上がれるのはいいことよね。 どうぞどうぞ、ゆっくりしていってよ。 何にする? グレンリベット、ストレートね。めずらしいじゃない、初めからモルトにするの。 ……そうね、自分が好きなお酒を好きなように飲むのが、一番美味しい飲み方だと思うわ。 世にいろんなお酒はある...
勝負ごとは、ときに人の世で曖昧になりがちな「勝ち」と「負け」を色鮮やかに切り分け、それだけに、危険な香りを放って人々を魅了する。そして、死屍累々と積み上げられた「敗者」の上に、燦然と輝く「勝者」というものが存在する──。 そして、ときにすべてのタイトルを独占するような「勝者」が現れる。 勝負の世界に独占禁止法は、ない。...
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語り継がれし「名馬」たち
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