「名馬」を語る 陽だまりの逃亡者。金色の季節を走り抜けたバビットの引退に寄せて 2026年2月15日 その馬の周りにはいつも、陽だまりができたような明るさがあった。 金色のたてがみに、混じりけのない栗毛。 パドックを一巡する姿に、自然と視線が吸い寄せられる。彼が本馬場に駆け出すと空気が少し温まる。首にぐっと力をこめるその仕草には、気の強さと闘志が滲む。 バビット。それは尾花栗毛の人気者。 俺はここにいると全身で表現し続... norauma
「名馬」を語る 世界の扉を叩いた日 - スキーキャプテン 2026年2月10日 近年、日本競馬は目覚ましい躍進を遂げている。 ドバイやサウジアラビア、香港の各競走には、毎年、数多く精鋭が日本代表として海を渡る。日本競馬のカレンダーには海外の競走が自然に組み込まれ、海外遠征は決して特別なことではなくなった。 米国のダート競走も、もはや遠い存在ではない。 マルシュロレーヌの快挙はその皮切りとなった。ウ... norauma
「名馬」を語る その重力を速さに変えて - 砂の上を進撃した重戦車ドンフランキー 2026年1月11日 パドックにゆっさりと姿を現すと、それだけで場内の空気が一変する。 遠くからでも一目でわかる、あまりに巨大な影。ゼッケンが妙に小さく見えるほどの馬体を揺らし、確かな重力をもって、彼はのっしのっしと歩いてくる。 ドンフランキー。その馬体重、600キロ。 500キロを超えれば「大型馬」と称される競馬界において、彼は外れ値のよ... norauma
「名馬」を語る 2つの光の「あわい」で静かに輝く。「地上絵」を描き続けた孤高の旅人、ジオグリフ 2026年1月5日 イクイノックスとドウデュース。 日本競馬史が到達した一つの頂点とも言える同世代の2つの光は、互いを照らし、屈指の眩い輝きでターフを照らした。この時代を鮮やかに彩った両雄の強さとドラマは、きっとこの先も長く記憶される。 その蹄跡を辿ると、ふと、光の陰陽が変わる瞬間がある。鮮烈な二つの光の「あわい」で静かに輝きを放つ、一つ... norauma
「名馬」を語る 誇り高き岩手の皇帝 - 漆黒の雄・トーホウエンペラー 2025年12月29日 漆黒の馬体が凍てついた地面を力強く蹴る。砂塵が舞いあがり、蹄音が響く。 厳冬を乗り越えた四肢は、しなやかで逞しく、美しい。ひとつ、またひとつと確かな軌跡を刻んでいく。 東北の雄、トーホウエンペラー。 幾度の冬を超え、皇帝としての才を開花させた。そして地方に在りながら、中央の強豪と渡り合い、その名が示すように、砂の頂へと... norauma
「名馬」を語る 兄よ、弟よ - ニュービギニングが放ったひとつの輝き 2025年12月27日 私には、6つ年上の兄がいる。 兄は幼少期からずっと賢くて、私とは違う速度で物事を理解していた。 兄の背を追って地元の中学、高校に進学した私に、先生方は決まって兄の話をした。 兄は博士号を取得し、文筆の道に進んだ。 毎日大量の本を読み、思索に沈みながら紡いだ言葉は、やがて賞や書籍という形になった。兄は今、自らの名でキャリ... norauma
コラム・エッセイ 2分20秒3の衝撃 - カランダガンが刻んだ未来への一撃 2025年12月5日 茜色に染まる東京競馬場。府中では見慣れぬ、けれど海の向こうで何度も見てきた、深い緑と燃えるような赤の勝負服が躍動する。 世界が憧れる大舞台を幾度も制してきた、アガ・カーン殿下のあの勝負服が、いま日本の直線を駆け抜けている。 ──カランダガン。 その名が日本を駆けていることに、胸が熱くなる。カルティエ賞年度代表馬に選ばれ... norauma
「名馬」を語る 小倉の空の下 - アサクサゲンキの長い旅路の終わりに寄せて 2025年12月3日 スタンドの呼吸が、ハッと詰まる。無事に飛越を終えると、溜めていた息がふうとほどけていく。 障害競走を前にするとき、スタンドにはいつもよりも少しだけ、「祈り」の成分が多く満ちるように思う。ただ走るだけでも大変なのに、幾つものハードルを飛び越えなければならない。平地以上に危険を伴うその舞台に身を投じる馬たちへ──ファンはど... norauma
「名勝負」を語る 輝きの証明。三冠馬コントレイルが見せた奇跡のような走り - 2021年・ジャパンカップ 2025年11月29日 飛行機雲がひとすじ、空に伸びていく。眩い夕陽が、影を長く引き伸ばす。秋も深まった府中の直線は、どこか哀愁と別れを予感させる。 2021年、ジャパンカップ。正直なところ、この日を迎えるにあたり、私はほんの少し、コントレイルの強さを疑っていた。 三冠馬は、特別な存在であってほしい。圧倒的な強さ。王者の風格。そんな姿を私は求... norauma
「名馬」を語る 黄金旅程の最後の焔 - マイネルヴァッサー 2025年11月29日 いつからだろう。 出馬表に彼の名を見る度に、胸の奥がかすかにざわめくようになったのは。 それはレース前の昂りでも、高まる緊張でもない。もっと静かで、もっと深い郷愁にも似た感情――「ひとつの血が、まだここに生きている」という実感だった。 ひんやりとした風が頬を撫でる晩秋のパドック、小柄な一頭の競走馬が淡々と歩いている。年... norauma