筋肉の鎧を纏うスプリントの絶対王者が、すべてを薙ぎ倒すように抑えきれない手応えで淀の坂を駆け下りる。その直後に迫るのは研ぎ澄まされたマイルの女王。場内のボルテージが上がる。一転、2頭の周りは静寂に包まれる。2頭だけの世界、これが最後の戦い──。 馬体を合わせた2頭はそこから数十メートル。互いの力を確かめ合うように、力の...
norauma
淀を中心に活動。物心ついた時から競馬ファン。馬事文化を愛し、馬が創る物語を丁寧に読み進め、小さな魅力を育む言葉を紡ぎたい。/”志馬 悠”のペンネームで星海社『競馬 伝説の名勝負 GIベストレース』に参加させて頂きました。
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密集した馬群が淀の坂を駆け上る。蹄音が大地を揺らし歓声と溶け込む。日本とアイルランドの名牝がじわりと進出を始める。 しかし、ファンの視線は遥か前方に向けられている。馬群の遥か前方をひた走る2頭は残り1000mを切ってもなお、大きなリードを保っていた。 驚愕の結末を予感し、スタンドがにわかにざわつき始める。 さまざまな声...
あらゆるものは通りすぎる。誰にもそれを捉えることはできない。 僕たちはそんな風にして生きている。 ──村上 春樹. 風の歌を聴け(講談社文庫)から引用 多くの人々と同じように、私は村上春樹が綴る豊かで奥深い言葉に感受性を刺激され、そのニヒルで達観し、繊細で刹那的な登場人物たちが織り成す世界観に魅了された。 通りすぎるも...
『すべては、この熱き日のために』 その舞台に辿り着くことは、それ自体がサバイバル。幾多の関門を乗り越えて誉あるゲートに辿り着いた18頭は、灼熱の府中で全力を尽くして勝利を争い、たとえその後の全てを投げうつことになろうとも、たった一つの栄光に手を伸ばす。 ──それがダービー、それがホースマンの夢である。 私たちが過去を思...
それはもう、15年近く前のこと。最初は、その名前に惹かれた馬だった。その荒削りな走りに、心を奪われた馬だった。その気まぐれな走りに、もどかしさを感じた馬だった。 タスカータソルテ。 その名の意味は「ポケット一杯の幸せ」。心温まるネーミングだ。ダービー馬、ジャングルポケットの初年度産駒にして、その想いを受け継いだ1頭。 ...
「マイネルミラノ、丹内祐次! 地元函館で重賞勝利!」 曇天の空に実況アナウンサーの声が響き、黄金色のたてがみをなびかせながら一頭のステイゴールド産駒が悠然と駆け抜けていった。 その背にはマイネルの勝負服を着た一人の男。満面の笑みを浮かべながらぐるりとコースを一周し、詰めかけた地元ファンの前で何度も天に拳を突きあげている...
2024年4月10日午後7時49分。 多くのファンに愛された藤岡康太騎手が私たちの前からいなくなってしまった。 享年35歳。 文字にするのも辛いほどの、大きくて深い喪失感と悲しみ。世代が殆ど同じで、誕生日も近い私にとって、同じ時代を生きてきた彼の訃報は耐えがたいものだった。訃報の届いたその日、私はそれが誤報であることを...
「今日も来てや! 俺は待ってるで!!!」「買うてへんねん……今日は待ってへんで……」 2000年代前半、淀や仁川でこんな言葉遊びをするおっちゃんファンがいたとかいないとか…。 そのきっかけとなったのは一頭の異才。その馬は明るい尾花栗毛を持ち、緑、白玉霰、白袖赤二本輪のメンコを着け、お馴染みの小田切有一オーナーの勝負服を...
2024年2月25日。世界を股にかけた砂の上の韋駄天が現役引退を発表した。 彼の名はレッドルゼル。父ロードカナロア、母フレンチノワールの牡馬。 競走馬としての現役生活に別れを告げた彼が手にしたタイトルはJBCスプリント、東京盃、根岸ステークスの3つ。しかしこの馬の場合、3つ"も"ではなく3つ"しか"と一種の物足りなさを...
馬は皆、いつだって、私たちが思う以上の大きな才能と可能性を秘めている。 彼らがレースで見せてくれるのはそのほんの一部だけ。彼らはその時できる目一杯の走りで命を燃やし、私たちが胸を焦がす闘いを繰り広げ、思いもよらない物語を見せてくれる。 ──数多ある物語の中でも2歳から3歳にかけてのクラシック絵巻物が一層魅力的なのは、秘...
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語り継がれし「名馬」たち
レース回顧
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[重賞回顧]”バド”の雪辱を、”スタニング”が晴らす見事な勝利~2024年・エリザベス女王杯~
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