地方競馬場を股に掛けて活躍。吉原寛人騎手とソルテの快進撃を振り返る。

近年、日本各地にある地方競馬場で行われる重賞レースで、見ない時は無いほどに感じる名手、吉原寛人騎手。重賞ハンターとして活躍する吉原寛人騎手の名を全国に知らしめた1頭がソルテである。デビュー戦は最低人気だったのに、さきたま杯でついにダートグレードレースを制覇するまでに成長したソルテについて、今回はご紹介していきたい。

ポルトガル語で「幸運を招く」という意味のソルテ。後に多くの競馬ファンに幸せをもたらすソルテも、最初はほとんど注目されていなかった。
大井の寺田新太郎厩舎所属、2012年9月17日に鞍上・山崎誠士騎手でデビュー戦を迎えたソルテは、6頭立ての6番人気と最低人気。ただ、最低人気を跳ね返すように3着と頑張ると、続く2戦目は鞍上金子正彦騎手で4番人気ながらも見事に初勝利をあげた。その後デビューから4戦目のハイセイコー記念で重賞初制覇をするものの、この時も9番人気と人気薄。2歳時にハイセイコー記念、3歳時にニューイヤーカップを制し、羽田盃2着・東京ダービー3着と活躍するものの、それでもソルテは大きな注目を浴びるような存在ではなかった。実際デビューからの15戦で重賞2勝、オープンレース2勝と競走馬としてすばらしい成績のソルテだったが、そこまで1番人気は一度もない。デビュー16戦目のオープンレースで初の1番人気となるものの2着に敗れ、続く重賞川崎マイラーズでも1番人気となったがまたしても2着。この後もあと一歩というレースが続いた。この当時のソルテは、重賞では「あと一歩! もう少しなのに!」と応援されていたように記憶している。そのようなソルテが、突如、連勝街道をひた走ることになるのだから、競走馬というのは分からないものである。

2015年5月13日川崎競馬場で行われた重賞川崎マイラーズ。前走オープンレースを快勝した勢いそのままに、ソルテは単勝1.8倍の高い人気を集めた。鞍上は5回目のコンビ結成となる吉原寛人騎手。レースでは2番手から進めて、3コーナーでは先頭に立つ強気の競馬を披露する。2着馬を5馬身突き放す強い走りで、2013年1月のニューイヤーカップ以来となる重賞制覇を飾った。
オープンレースでは強さを見せつつ、ニューイヤーカップで優勝してからの重賞成績が2着5回と、重賞ではあと一歩だったソルテが覚醒した瞬間であった。この後も鞍上は吉原寛人騎手で、船橋競馬場の京成盃グランドマイラーズ1番人気1着→大井競馬場のサンタアニタトロフィー1番人気1着→大井競馬場のマイルグランプリ1番人気1着→浦和競馬場のゴールドカップ1番人気1着→大井競馬場のフジノウェーブ記念1番人気1着と、重賞6連勝を含む7連勝を達成。

デビュー戦で最低人気だったソルテが。
デビューから15戦1番人気が一度もなかったソルテが。
古馬になってから重賞レースではあと一歩だったソルテが──。
これほどまでに強くなるとは、誰が予想したであろうか。

この頃のソルテ&吉原寛人騎手は、先行または逃げて相手を寄せ付けないレースで、負ける雰囲気など一切無い圧倒的な強さを誇っていた。

この後、ソルテはさらなる高みを目指すべく、船橋競馬場のダートグレードレースGⅠかしわ記念に挑戦する。これだけ地方競馬で無双していたソルテも、5頭の中央競馬所属馬から離れた人気で、単勝30倍の6番人気。今にして思えばなぜこれだけ人気が無かったのだろうと思うのだが、それだけ当時は中央競馬の所属馬が絶対的な存在であった。しかしそのような前評判を覆し、ソルテは果敢に逃げてコパノリッキーの2着となる大健闘の走りを見せる。連勝記録は途絶えたものの、地方競馬ファンはおおいに盛り上がり、これからさらに活躍するであろうソルテの将来に期待が集まった。

そして迎えたのが、2016年6月1日浦和競馬場で行われたダートグレードレースGⅡさきたま杯だった。
GⅠ馬が4頭揃う豪華メンバー、中央競馬所属のベストウォリアーが1番人気で2.4倍、続いてソルテが2番人気で2.6倍。3番人気4番人気5番人気はそれぞれ、中央競馬所属のコーリンベリー、ホワイトフーガ、ドリームバレンチノ。4番人気まで単勝10倍以下、5番人気のドリームバレンチノで単勝40倍以上、6番人気のサトノタイガーで単勝万馬券だから、いかにソルテ&吉原寛人騎手に、多くの期待が集まっていたかが分かる。

レースがスタート、先行有利な浦和競馬場だけに有力馬が前につけようとする中、ソルテ&吉原寛人騎手が果敢に逃げてハナに立つ。1コーナー過ぎて先頭はソルテ、2番手にコーリンベリー、3番手にサトノタイガーとベストウォリアー、その後ろにドリームバレンチノ、ラブバレット、ホワイトフーガが続く。有力馬が虎視眈々とチャンスを伺う中、3コーナーでソルテ&吉原寛人騎手の手は動いておらず、2番手コーリンベリーの鞍上松山弘平騎手の手が動き始める。逆に3番手にいたベストウォリアーがスッと上がっていってソルテに並びかけた。さらにドリームバレンチノも上がってきて直線へ。 ベストウォリアーに並ばれかけたソルテであったが、吉原寛人騎手が追い始めると、なんと……ベストウォリアーを突き放すではないか! この時の地方競馬ファンの盛り上がりは凄かった。そのままソルテは後ろを寄せ付けることなく1着でゴールして、吉原寛人騎手の右手が上がる。ついにソルテ&吉原寛人騎手がダートグレードレースを制覇した瞬間だった。

その後さらなる活躍が期待されたソルテ&吉原寛人騎手だったが、テレ玉杯オーバルスプリントで1番人気2着→JBCスプリントで2番人気6着→フジノウェーブ記念で1番人気10着と、燃え尽きてしまったかのようであった。ただ最後のレースとなったゴールドカップでは、3番人気ながら1着と見事に有終の美を飾った。

ソルテの引退式では吉原寛人騎手は泣きじゃくりながらインタビューに答えていた。「ソルテと一緒に夢を見れたことが一生の宝物です」のコメントが、いかにソルテと一緒に頑張ってきたかをうかがい知ることができる。

ソルテ36戦15勝2着8回3着3回。2016年はNARグランプリ年度代表馬、4歳以上最優秀牡馬、最優秀短距離馬に加えて、TCK大賞も受賞。デビュー戦で最低人気だったソルテは、見事地方競馬を代表する1頭にまで成長し、多くの地方競馬ファンに幸運をもたらす存在となった。ソルテに騎乗した騎手は、山崎誠士騎手、金子正彦騎手、真島大輔騎手、和田譲治騎手、張田京騎手、矢野貴之騎手、そして吉原寛人騎手。これだけの騎手が乗ったソルテだが、やはりソルテといえば吉原寛人騎手というイメージが強い。

吉原寛人騎手の、現在の活躍の礎を築いたといっても過言ではないだろう。

写真:umanimiserarete

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