![[フェブラリーS]お酒と仲間と叫びと。僕のフェブラリーS観戦を振り返る](https://uma-furi.com/wp-content/uploads/2025/02/PXL_20240218_022314973-scaled.jpg)
「やっぱり、ダートはわかんねぇや」
藤岡佑介騎手が約6年ぶりとなるGⅠ勝利を飾った数分後、コースから競馬場内に戻る道すがら、僕の右後ろあたりからその言葉は聞こえてきた。
昨今の『ウマ娘』ブームや施設の改修、女性ファンへ向けたアプローチなどで、競馬場への来場者層もずいぶん広くなったと聞いているし、その実感もあった。こういう場合、大方20代の競馬ファンが友達同士でそれぞれレースに向けた研究をし、それぞれがその成果を結果で確認→感想発表会というパターンが多い。おそらくはそのパターンだろう思って聞き流そうとした。
だが、諦めにも似た発言は個人的にあまり好きではないのも相まって、「やっぱり、ダートはわかんねぇや」という発言がどうにも耳に残って、様々な感情が湧き出てくる。
「いやいや。じゃあ、芝はどうなのよ? 俺はわかんないよ? わかんないことばっかり。でもそれが楽しいんじゃないの? そうでしょうよ」
芝が花形のように扱われる日本競馬で、ダートGⅠを11番人気が勝ったわけだからまぁ気持ちはわからんでもない。2着は初ダートだし、3着は13番人気だもん。難しいよね、わかるよ。
まぁイラっと来たけども、許そうじゃないか。
おじさん大人だから。ゆとりあるから。
──でもちょっとだけ顔見せてね。何も言わないから。顔見るだけだから。
おもむろに振り返ると、白髪交じりの推定50代男性3人組が楽しそうに話していた。
父さん、先入観は敵なわけで、思い込みは悪なわけで…。
また一つ賢くなってしまった僕は、静かに喫煙所に向かったのだった。
どよめきと、悲鳴と、歓喜と、落胆。
僕がレースを見に行くのは大体が日曜日である。朝が強くないこともあって大体11:30前後に競馬場に着くことが多い。
到着したら、まずはメインレースのマフラータオルを小走りで買いに行く。
そして、ペン1本とマークシートを少々拝借、今日使っていい分のお金(僕はお酒を嗜むので、お酒代もここに含まれる)を右ポケットに入れながら、競馬新聞の調教欄を見つつ次のレースのパドックへ向かう。
レースは4角抜けたあたりで見る。4角は良い。多くの馬がエンジンをかけるタイミングという事もあり、馬体の伸びやかさを感じられる。あと、どの馬を買っていても必ず声を出せる。
そんでもって、馬券が当たればビール。外れたらレモンサワー。
2024年のフェブラリーステークスは現地観戦。当たり前の様に声は出た。
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ファンファーレも終わり、各馬が続々とゲート入り。本命はオメガギネスだった。
ポンと良いスタートを切ったのはドンフランキー。前半33.9のハイペースを作り出し、会場は「おぉ」と、どよめきを起こす。
隊列はやや縦長で3コーナーへ。この時、本命オメガギネスの位置は先団後方。
3コーナーを過ぎ、ペースが上がる。4コーナへ向けて、徐々に徐々に馬郡が詰まっていく。
ルメール騎手の絶妙なエスコート、4角を抜けてオメガギネスの前には壁になるような馬はいない。
あとは伸びるだけ。これは貰ったと思った。
僕は大きな声を出す。
「ルメール! 伸ばせ! 行け!ル メール! いけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
期待とは裏腹に、オメガギネスは伸びを欠き、タガノビューティやガイアフォース・セキフウなどに抜かれていく。
ペプチドナイルが先頭になる。
後方の馬たちが続々と末脚を伸ばす──。
だが、そのままペプチドナイルが先頭でゴール板を駆け抜けた。
2着はガイアフォース。3着争いは混戦。
会場からは悲鳴にも似たなんとも言えない金切り声、明確な歓喜の声と同時に「あぁ」という落胆の声が聞こえる。僕は最終レースに向けて、レモンサワーを買いに行った。
今年もフェブラリーステークスがやってくる。
毛艶と戦績、雰囲気と直感で選んだ執念の12Rは当然当たるわけもなく、無念の直帰。
ほぼ毎日と言っても過言ではない友人とのオンライン飲み会が始まる。僕は日々、頭脳派馬券師の側面を周囲に見せつけているので、友人からは感嘆と称賛、わずかばかりの素敵な罵声を頂戴する。うい奴である。
友人も競馬はやるもんで、週末は大体競馬の話になる。
何だったら週末の競馬はこの飲み会までがセットなんじゃないかと思うこともある。
やれ平場が惜しかっただとか、やれ関東のルメールは切る方が愚かだとか、やれ本命が4角抜けたときは勝ったと思ったねだとか。
まぁ楽しく話をするわけだ。
その日も当然の様にメインレースの話になり、序盤の位置取りがどうだとか、血統的にはこうだとか、ペースがどうだとか、相手関係的にこうだとか、パドックは良く見えただとか、結果に対して反省と後悔の念を含んだ感想を述べていく。
僕は結構自信をもって予想をしていたもんだから、熱もこもっていたんだろう。こう言ってしまった。
「うーん。やっぱダートはわかんねぇや」
朱に交われば赤くなるし、ミイラ取りはミイラになるわけで、人捕る亀は人に捕られるということか。
こうして人は後悔と反省を重ねて、歳を取っていくんだろうなと思った。
また一つ賢くなってしまった。
そしてまた、フェブラリーステークスがやってくる。
近年はサウジとスケジュールが被っていることもあり、価値が以前に比べ少しぼやけてしまっているという声もあるが、それでも中央GⅠ。国内最高峰であることに疑いはない。
さあ、次のフェブラリーSはどんなレースになるのか。競馬新聞とにらめっこをしながら、4角抜けたあたりで楽しもうと思う。馬券とお酒はほどほどに。ビールを飲んで最終レースを迎えられれば上々かな…。