[連載・馬主は語る]投資か消費か(シーズン2-4)

僕の中の悪魔がささやきました。トレーニングセールで競走馬を購入してはどうか。昨年は馬主登録証がなかったので、参加しようとさえ思いませんでしたが、2歳馬のトレーニングセールで実際に走りを見て、リアルな場で馬を購入してみてはどうかだろうかと。

そこでトレーニングセールの日程を調べてみたところ、毎年4月にJRAブリーズアップセール、5月には千葉サラブレッドセールとHBAトレーニングセールがあり、それぞれのセールによって平均落札額が異なり、上場される馬たちの血統レベルや馬っぷりにも差があるようです。育成がある程度進んでいる2歳春の時点で購入することができれば、育成コストが少なくて済みますし、早めに入厩して、早期デビューも期待できるはずです。

何よりどの馬もまだ白紙の状態であるのが素晴らしい。トレーニングセールに出場する馬の中で本当に走る馬はひと握りなのでしょうが、それでもまだ結果が出ていない、大化けする馬がいるかもしれないという魅力は十分です。過去にJRAブリーズアップセールからはセイウンワンダーやダイワパッションなどが出ており、千葉サラブレッドセールからはオメガパフュームやミュゼエイリアンなど、HBAトレーニングセールからはモーリスやヒシミラクル、ジャガーメイルなどが誕生しています。

「投資」と「消費」について考えることがあります。一般的には、投じたものに対してそれ以上のリターンがあることを期待するのが「投資」であり、何らかの効用を求めて時間やお金を使うけれど具体的な見返りは期待できないものが「消費」とされています。よくよく考えていくと、「投資」と「消費」の境界線は実にあいまいですね。僕は時間軸とリスクとリターンのバランスが「投資」と「消費」を分けていると考えます。「投資」は「消費」よりも長い時間軸で物ごとを考えることであり、また「投資」は「消費」よりもリスクとリターンのバランスを気にするということです。

その観点から考えると、馬券を買うことは「消費」であり、馬を生産して売ることは「投資」だと思います。馬を買って走らせることは「消費」と「投資」の中間ぐらいでしょうか。厳密に言うと、馬を走らせた場合、その馬が走って賞金を稼いできてくれることもありますから、「投資」になる可能性もあります。しかし、実際に馬代金や育成費用、厩舎の預託費用等を上回る賞金を稼いでくれる馬はひと握りでしょうから、ほとんどの場合はリターンよりもリスクが大きい「消費」になってしまうはずです。

馬主は金持ちの道楽だと言われるゆえんですし、そもそも馬主になるほどの人たちはそんなこと百も承知でしょう。夢やロマンを追いかけつつ、馬を中心として広がっていく人間関係や喜怒哀楽の分かち合いを楽しんでいるのですから、決して道楽や消費が悪いわけではありません。ただ単に、競馬の世界の中であえて「投資」と「消費」に分けて考えてみると、馬券は「消費」、馬主は「消費」と「投資」の真ん中、生産は「投資」ということです。

そう頭では分かっているつもりでも、目の前のレースで馬が走っている姿を見ると、つい自分の馬を走らせたいという願望が顔をのぞかせます。生産という気が遠くなるほど長いスパンの「投資」に対して、セリで買えた買えなかった、またはレースで勝った負けたという「消費」も純粋に楽しみたいという気持ちがふつふつと湧いてくるのです。心の底では、万が一、走る馬を手にしたときはリターンも大きい、という「投資」を通り越した「投機」としての側面も期待しつつ。

牝馬を買って走らせ、その後に繁殖牝馬としても活躍してもらえば、「消費」が「投資」に変わるのではないかとも都合よく考えます。たしかに、繁殖牝馬としても価値が高い良血の牝馬を買う財力があれば、「消費」かつ「投資」は両立するかもしれません。しかし、僕に買うことのできる競走馬の血統レベルでは、もし競走馬として走らなかった場合の繁殖牝馬としての価値はガタ落ちになるはずです。血統も競走成績もよくないという、アピールポイントのない繁殖牝馬はリスクでしかありません。コスパが悪いとか、タイパ重視とかのたまう若者に対して抱く、あのつまらん奴っちゃなあという感覚を自分に向けつつも、冷静に考えて、馬主は馬主、生産は生産と割り切るべきなのです。

ということで、トレーニングセールには参加しないつもりでした。「投資」と「消費」は分けて考えて、生産に専念しようと思っていたからです。それに行けば買いたくなってしまうでしょうから(笑)。特に5月に開催される千葉サラブレッドセールは今年もオンラインで行われるということで、実際に現地で馬を見たりして買うのが1つのイベントとして楽しいのに、運営側がコスパやタイパを求めてしまうのはつまらんなあと思います。しかも川崎競馬場のパドック解説の担当日と重なったこともあり、実質上、参加が困難になってしまったことで、あきらめがつきました。

それでも、せめてどのような馬が上場されるのか目だけ通しておこうと思い、千葉サラブレッドセールの下見サイトを見ていると、開催概要の欄に「自動入札」の文字が見えました。サラオク(サラブレッドオークション)を経験していなければ、見逃してしまっていたでしょう。つまり、自動入札ができるのであれば、その場でリアルタイムに競りに参加せずとも事前に入札が可能であり、川崎競馬のパドック解説をしながらでも馬を落札することができるのです。競馬の神さまが「参加しなさい」と言ってくれたような気がして、僕は購買者登録を済ませました。

(次回へ続く→)

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