[連載・馬主は語る]ニックス配合とは(シーズン2-36)

次に配合する種牡馬を考えがちですが、繁殖牝馬セールで購入した場合、今お腹に宿っている仔の父親も気になるものです。たとえばダートムーアはニューイヤーズデイを受胎している状態で購入しましたが、ニューイヤーズデイの仔がお腹にいるからというわけではなく、むしろ買うまではニューイヤーズデイの存在についてほとんど知りませんでした。繁殖牝馬を購入する前にも(お腹に入っている仔の父が)新種牡馬であればざっと調べてはみるのですが、その時はあくまでも候補の1頭にしすぎませんので、それほど入念にというわけではありません。自分の手に入ったあと、繁殖牝馬との相性を含めて、種牡馬については研究してみることになるのです。

碧雲牧場の慈さんは、「ノーザンファームの繁殖牝馬セールで買った繁殖牝馬には考えられた種牡馬が配合されていますよ」と言います。ノーザンファームほど繁殖牝馬の数がいて、社台スタリオンステーションの種牡馬たちの稼働状況を見ると、種付けはある程度、流れ作業または機械的(この種牡馬が今日は一杯だから違う種牡馬にしようなど)にならざるをえないと思っていましたが、意外とそうでもないようです。

たしかにダートムーアに対してニューイヤーズデイはとても良い配合です。それまではずっとゴールドアリュールやネオユニヴァース、キンシャサノキセキなど、サンデーサイレンス系の種牡馬が配合されてきて、あまり結果が出ていないため、非サンデーサイレンスの種牡馬に切り替えた点は好感が持てます。サンデーサイレンスの血が一滴も入っていないダートムーアにサンデー系の種牡馬をかけたくなるのは当然ですが、結果が思わしくなければ次の手を考えなければいけません。個人的には、ダイナカール一族とキングカメハメハの相性の良さを見ると、キングカメハメハ系の種牡馬がベストだと思いますが、まずは非サンデーサイインス系の種牡馬がつけられたことは一歩前進としましょう。

それから、ニューイヤーズデイの父ストリートクライとダートムーアの母父トニービンがニックスである、という血統評論家・望田潤さんの説があります。このニックスに関しては、キャロットクラブの会報誌に書かれていたものですが、ニューイヤーズデイに興味を持っている僕でなければ反応しないマニアックな話です。

ニックスとは相性の良い血のことを示します。たとえばサンデーサイレンス×ノーザンテーストやサンデーサイレンス×ニジンスキー系、黄金配合として有名になったステイゴールド×メジロマックイーン、ディープインパクト×Storm Cat、コントレイルを誕生させた父ディープインパクト×母父Unbridled's Song、最近ですとルーラーシップ×母父ディープインパクトなど、父と母父や父と母系などの配合から活躍馬が出る、相性の良い組み合わせのことです。

厳密に言うと、ニックスには「ベストトゥベスト」と「弱みを補い合う」という2つの要素があると私は考えています。ベストトゥベストというのは、当時の最高の種牡馬に対して良質の牝馬を掛け合わせていくと、当然のことながら活躍馬が多く誕生し、自然とそれがニックス配合として定着していく面があること。サンデーサイレンス×母父ノーザンテーストやディープインパクト×母父Storm Cat、その他、キングカメハメハ×母父サンデーサイレンスなども、同じくベストトゥベストから生まれたニックス配合でしょう。これはインブリードにも当てはまります。ベストトゥベストの配合をすると、その時代に合った系統同士の組み合わせになることが多く、自然とインブリードが生じてしまうということです。

個人的には、もうひとつの要素である「弱みを補い合う」こそがニックスの本質だと考えています。たとえば、体の小さな繁殖牝馬に大柄な種牡馬を配合するとか、スピードに長けてはいるがスタミナ不足の種牡馬と、スタミナ十分の母系とを組み合わせることで、互いの弱点を補い合う。インブリードが特徴を強調するための配合であるならば、ニックスは弱みを補強する配合ということです。

そういう意味においては、ステイゴールド×母父メジロマックイーンは、ステイゴールドの馬格のなさをメジロマックイーンの豊かな馬体が補い、また気性の激しいステイゴールドを性格の穏やかなメジロマックイーンがサポートする配合ではないでしょうか。弱点を補い合い、それぞれの強みが十全に発揮されることで、超一流馬が誕生するのです。

ディープインパクト×母父Unbridled's Songのニックスも、ベストトゥベストでもありますが、どちらかと言えば「弱みを補い合う」意味が強い配合だと思います。ディープインパクトは軽さとスタミナ、そして一瞬の切れ味を伝える稀有な種牡馬である反面、パワーや体の大きさには弱みがあります。それに対して、Unbridled's Songはスピードとパワー、馬体のスケールには強みがある反面、軽さや器用さ、スタミナに劣る面があります。ディープインパクトは母系の良さを引き出し、Unbridled's Songは母系に入って父の良さを素直に受け止める傾向があるだけに、この組み合わせは見事にニックスとして成立するのです

ストリートクライとトニービンがニックスと提唱した望田さんの話は、さすが血統評論家だけあって、もう少し深いところまで突っ込んでいます。

Street Cry(ドバイワールドC)の母でShamardal(仏ダービー、仏2000ギニー)の母母でもあるHelen Street(愛オークス)、このHelen Streetがトニービンと血脈構成が重なる部分が多いんですよね(Hornbeam、Chanteur、Nasrullah=Rivaz≒Royal Charger、Palestine、Hurry On、Double Life、そしてオンリーフォアライフやDonatelloやWordenを通じるPretty Polly)

「血は水よりも濃し望田潤の競馬blog」より

Street Cry の母Helen Streetとトニービンの血統構成が似ているので、Street Cryとトニービンはニックスであるということです。血統にあまり詳しくない僕には、正直に言うと、理解できていない部分が多く、そうなんだという感想しかありません。いずれにしても、Street Cryとトニービンはニックスであるということは、ダートムーア×ニューイヤーズデイもニックスであり、良い配合ということです(笑)。こんな雑なまとめ方をしたら、血統評論家には鼻で笑われてしまうかもしれませんが、自身の生産馬の配合がニックスであると分かれば生産者は素直に嬉しいものです。希望を持てるのです。

(次回へ続く→)

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