[連載・馬主は語る]サラブレッドオークション(シーズン1-9)

日本におけるオークションサイトに、「楽天サラブレッドオークション」があります。こちらは主に現役として走っている馬たちを中心として、競走馬の売買を仲介するオークションサイトです。未出走の2歳馬や3歳馬、または繁殖牝馬も出品されることもありますが、ほとんどは現役の中央競馬所属馬と地方競馬所属馬が中心です。

最初からネタバレをするようですが、実は僕は「楽天サラブレッドオークション」で最初は馬を購入しようと考えています。なぜかというと、セリで購入するよりも、いくつもの点でメリットがあるからです。

まず馬代金に関しては、当たり前ですが、セリ市で購入する方がオークションサイトで購入するよりも圧倒的に高いです。新品と中古の違いというか、海外では当たり前のようにして行われている現役競走馬の売買が日本ではなかなか浸透しないのは、日本人の新品信仰のような思考が根っこにあるからではないでしょうか。新築マンションから新車まで、日本人って新しいものが好きですよね。正直に言うと、僕も中古よりも少しぐらい高くても新品を選んでしまうので、人のことは言えません。中古マンションや中古車はまあ良いとして、古着ショップやリサイクルショップで買い物をしたことがありません。

そういえば、僕は引きこもりの時代にブックオフでバイトをしていました。本物の引きこもりはバイトなんかできないというツッコミは置いておいて、たくさんのアルバイトをした中で最も面白かったバイトでしたね。本が好きなのだと思います。本の陳列や整理業務はあの整列されている感じが好きでしたし、本を研磨して綺麗にする作業も好きでしたし、何よりも本の買い取りが好きでした。

この人はどんな本を持ってきてくれたのだろうと期待して、本の価値によって買い取りの値段を変えていましたので、多少の目利きが必要でした。当時、ブックオフの直営店は本の新しさで値を決めていましたが、僕のバイトしていたブックオフは直営店ではなかったので、希少価値の高い本や売れ筋の本は高値で買い取っていたのです。たとえば、つげ義春の漫画は古い(表紙も焼けていたり)のですが、マンガ好きには価値があるため、普通は10円で買い取って100円で売るところを、100円で買い取って300円ぐらいで売るということです。それでも売れるのですから、価値と需要と価格のバランスが絶妙に取れていたということです。

話を戻すと、セリ市で馬を購入する代金は、数百万から数億円までと大きな幅があります。どれだけ安価と言われる馬であったとしても、決して安い買い物ではありませんよね。生産者の方々が愛情をこめて、長い時間をかけて育てたサラブレッドは安くないのです。それに対して、オークションサイトでは数十万から数百万円と、こんなに安くて良いのと心配になるほど投げ売りされている馬もいて、セリ市で購入するよりもひと桁からふた桁は安いです。そもそも生き物に対して新品や中古という表現は相応しくないかもしれませんが、サラブレッドほど新品と中古で価格が異なるものも珍しいですね。

とはいえ、昔のサラブレッドオークションを知る方からすると、ここ最近は馬の価格が明らかに上昇してきているそうです。馬が売れる時代の中、セリ市だけではなく、サラブレッドオークションまでその波がやってきているということです。売る人も買う人も、利用する人が増えてきて、市場が大きくなってきているのは喜ばしいことですが、あまり不釣り合いに価格が高騰したり、粗悪な商品が出回ったりするのは困りものですね。そのような動きは、馬を自由に売り買いできるせっかくの市場を、長い目で見ると毀損してしまう恐れがあります。サラブレッドオークションの方が全体的には価格が安いにしても、僕がブックオフでやっていたような目利きが必要になってくるのかもしれません。

次にスピード感というのは、すぐに馬が購入し、走らせることができるかという意味です。セリ市は開催される時期まで待って、さらに馬を購入してから育成をして、入厩してデビューするまでに相当な時間を要します。1歳馬を購入したとすれば少なくとも1年、当歳馬ならば2年は待たなければいけません。待つことが悪いということではなく、サラブレッドが競走馬として走るまでにはそれだけの時間が掛かるということです。それに対して、オークションサイトでの購入は現役の競走馬が中心ですから、極端なことを言えば、購入した翌月から競馬場で走らせることも可能です。

続いて、コストとは競走馬を購入してから実際に競馬場で走るようになるまでにかかる経費です。レースに出走し始めてからは、どのような方法で馬を入手しようが、かかるコストは基本的に同じですから、ここで言っているのは走り始める前までのコストの違いです。スピード感と密接な関係があり、デビューまでにかかるコストはその期間の長さと比例するということです。馬は牧場に預かってもらうだけで月10万円ほどかかりますし、育成場に入れると月30万円ほどの出費となります。1歳馬をセリ市で購入してから1年間、育成場で鍛えてもらうとすると、それだけでトータル300万円ほどのコストがかかるということです。オークションサイトで購入してすぐに走らせることができれば、極端に言うと、育成期間の部分のコストはゼロということになりますね。

ここまではオークションサイトで購入するメリットを挙げてきましたが、次回はデメリットに移っていきます。

(次回へ続く→)

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