「12年ぶりにJBCが盛岡に帰ってくる……!」
盛岡競馬場は、個人的に大好きな競馬場の1つだ。
山に囲まれたロケーション。
そして1周1600mでフルゲート16頭のコース規模。地方競馬唯一となる芝コースの存在。更には約4mの高低差という地方競馬屈指の豪華なコース。そこでJBCが行われるというのなら私の中に行かないという選択肢は考えられなかった。
そして迎えたJBC当日。開場前に着いたにもかかわらず開門を待つ列が長く続いていた。
もちろん、JBCへの期待によるものだろう。
開場して場内に足を踏み入れるや否や、驚いた。とにかく岩手一色に染まっていたのだ。盛岡さんさ踊りやチャグチャグ馬っこの披露、岩手名物を味わえる屋台の数々。さらには、わんこそば大会(胃袋に自信がない筆者は参加断念)。岩手県の魅力が、盛岡競馬場にぎゅっと集結していたように感じられた。
JBCの実施場は「持ち回り」となっている。
そのため盛岡や名古屋のように、Jpn1が多く実施される南関東地区以外の地区にもスポットがあたる。JBCをきっかけとして全国各地から多くの競馬ファンが訪れることが期待されるため、岩手競馬でも「岩手県の魅力を全国の競馬ファンへ」というコンセプトで地元の魅力を満喫できるイベントを実施したのではないだろうか。
場内のイベントをまわることで、まるで岩手県内を旅行しているかのような感覚に包まれる。おかげで開場からレース開始までの約2時間、十分に楽しむことができた。
イベントも豪華だが、もちろん肝心のレースも負けてはいない。JBC競走以外にも重賞が2つ組まれ、重賞5連発という編成で場内を盛り上げていく。
3レースでは鈴木麻優ジョッキーが勝利。女性ジョッキーの勝利に場内も盛り上がる。
その重賞5連発のトップを切って行われたのは岩手所属3歳馬による不来方賞。
岩手ダービー馬ライズラインが南関東から転入してきたリュウノワンを振り切り岩手2冠を達成。白熱したゴール前の攻防は、これから始まるJBC競走への期待を否応なしに高めてくれた。
そしていよいよJBC競走、1つ目はJBCレディスクラシック。創設してまだ4回目ではあったが、すっかりファンの間には「ダート牝馬頂上決戦」として根付いていた。
パドックと本馬場が隣接している盛岡競馬場。
間近で出走馬が思い思いの方向へ散ってゆく。
JBCレディスクラシックには名古屋の木之前葵ジョッキーが参戦。これがJpn1初騎乗。
ファンの人気も高い盛岡Jpn1のファンファーレが生演奏されて場内も盛り上がる。が、発走直前にコーリンベリーが尻もちをつくアクシデントで馬体検査に。終日吹いていた冷たい風が、この時ばかりはこの先の成り行きへの不安を煽ってくる。しかし馬体に異常はなく無事出走と放送が入りあちらこちらから安堵の声が漏れた。ファンファーレも、仕切り直しと言わんばかりにもう一度演奏。この予定外の生演奏にはお客さんも大喜びだった。
ゲートもJBC仕様。JBC3競走全て満杯のフルゲート16頭が集まった。
レースは人気のワイルドフラッパーが3着に敗れる小波乱となった。勝利したのはこの年ワイルドフラッパーと好勝負を演じてきたサンビスタ。後のチャンピオンズカップ優勝馬がダート牝馬路線の世代交代を高らかに宣言した瞬間だった。
続いてJBCスプリント。ここも波乱が。前哨戦を勝利した人気のノーザンリバーが5着と敗れたのだ。ゴール前はドリームバレンチノ、タイセイレジェンドのJRA勢に浦和のサトノタイガーの3頭が横並び。「もしかしたら地方馬が勝利したのでは?」スタンドはざわめいた。しかし接戦を制したのはドリームバレンチノ。芝で手が届かなかった念願のJpn1タイトルとなった。岩田康誠ジョッキーはレディスクラシックに続きJBC競走連勝。
サトノタイガーは首差の2着。惜しくも7年ぶりの地方馬によるJBC制覇とはならなかったが、活躍が評価されてこの年の地方競馬最優秀短距離馬に輝いた。
頭尾を飾るのはJBCクラシック。前年のチャンピオン、ホッコータルマエや前哨戦の日本テレビ盃を制したクリソライトなど、出走したJRA勢が全てG/Jpn1タイトルホルダーという面々に単勝の人気もやや割れ加減に。レースはハナに立ってマイペースに持ち込んだコパノリッキーがレコードタイムをたたき出して優勝。最下位人気でアッと言わせたフェブラリーステークスから半年ちょっとでG/Jpn1レース3勝目。ダート中距離路線においての存在感を確固たるものにした。
会心のレース内容だったのか田辺ジョッキーのガッツポーズも飛び出した。
そして大トリは盛岡自慢の芝コースによる秋嶺賞。JRAの重賞も経験し、実績で1枚も2枚も上回るシルクアーネストが格の違いを見せつけた。
全てのレースが終わり、帰りの無料バスの時間が迫っていたこともあり急ぎ気味に出口へ向かうと「引き換えをお忘れではないですか~」という声。念のため入場時にもらった袋の中を確認。危ない、畜産品詰め合わせの引き換えを忘れていた。最後の最後で、思わぬお土産をゲット。充実したイベントに、白熱のレース――最初から最後まで、大満足の盛岡JBCとなった。
JBCは1つの競馬場でJpn1レースを3つ見ることができるのはもちろんだが、その競馬場のイベントを楽しむのもまた魅力の一つではないだろうか。
馬券を買って楽しむのはもちろん大事なことだ。だが、できることなら現地に足を運び、その競馬場で実施されるイベントも楽しむことでJBCをより楽しむことができるのではないだろうか。
さて、そんなことを言っている私自身が再びJBCを現地観戦できるのはいつになるのだろうか……
そんなことを考えつつ、毎年のJBCを楽しみに待つのだ。
写真:マシュマロ