[馬名エトセトラ]桜花賞・ベガ&ハープスター

皆さんがもし「1年のうちでもっともテンションが上がるG1は何ですか?」と聞かれたら、何と答えますか。人によっては有馬記念と答える人も日本ダービーと答える人もいるでしょう。しかし私は、有馬記念でも日本ダービーでもなく「桜花賞」と躊躇なく答えます。

桜花賞自体が、春の訪れを告げるクラシック初戦という意味合いを持つレースであるというのも大きいですが、桜咲く阪神競馬場でうら若き乙女が駆ける桜花賞は「百花繚乱」と言う言葉がぴったりくる煌びやかさがある点も大きいのでしょう。私が思うに「日本一華やかなG1」は、この桜花賞なのではないでしょうか。

そんな華やかさを彩る一つの要素になっているのが「馬名」。牡馬だと重厚感を意識した"強さ"を感じさせる馬名が多いのに対し、牝馬は可憐さを意識した柔らかくしなやかな感じがする馬名が多い──そういった印象を持っているのは、私だけでしょうか。

そこで今回は、「馬名エトセトラ」と題し、過去の桜花賞の中から印象的なレースを「馬名」と言う視点から振り返っていきたいと思います。

今回紹介するのは1993年の桜花賞優勝馬ベガとその20年後、2013年の桜花賞を制したハープスターです。

1993年の桜花賞を制したのは、ベガという牝馬でした。
この馬名は、俗に「織姫星」と呼ばれる"こと座"の一等星に由来します。

なぜ、そのような名前が付けられたか。それは彼女の顔には額から鼻面までスーッと通った白い流星にところどころ斑の点があったことが要因です。オーナーがそれを星に見立てて「織姫星のように輝いてほしい」との思いから名付けた、という有名なエピソードがあります。

そんなオーナーの思いが詰まった馬名をもらったベガですが、幼いころから多大な期待をかけられていたというわけではありませんでした。なぜなら、ベガの左前脚は誰が見ても分かるほど内側に曲がっていたのです。成績を残す残さない以前に、競走馬としてのデビューも危ぶまれるほどでした。

しかし、坂路コースで調教を積むと状況が一変します。坂を上ると言うのがこの馬の内向した脚に合っていたのか、比較的脚元への負担が少なくてすむことが分かり、調教を進めるうちに動き自体も良くなっていきます。次第に、周囲の期待値も高まっていきました。

デビュー戦2着の後、当時のルールでは可能だった2回目の新馬、いわゆる「折り返しの新馬戦」を勝利すると、勢いそのままに桜花賞トライアル・チューリップ賞を勝利。その強い勝ち方から、本番では単勝1番人気に支持されます。

桜花賞本番は、後に鞍上の武豊騎手が「会心のレースだった」と語るほど理想的なレースとなります。

2番手から逃げるマザートウショウを見ながら4角出口で早めに先頭に出る「これぞ王道」と言えるような横綱相撲。直線では”岩手の星”ユキノビジンや2冠牝馬マックスビューティの初子マックスジョリーの追撃を振り切り、優勝します。阪神競馬場に、見事一等星を輝かせる結果となりました。

それからちょうど20年。桜の舞台に再び「こと座の一等星」が脚光を浴びることになります。

その名もずばりこと座の星を意味する「ハープスター」。ベガの孫にあたるこの馬は、祖母とは異なり、早くからゴムマリのようなばねの良さを評価される期待馬でした。

この馬の武器は、ベガのような先行抜け出しの競馬とは真逆のもの──最後方から直線だけで前を飲み込む追い込み競馬でした。特に圧巻だったのが新潟2歳Sです。後の皐月賞馬イスラボニータを筆頭とする実力馬を4コーナー最後方から直線だけで上がり3F32.5の末脚で交わしさり、さらに3馬身の差をつける圧勝劇。それは、2歳8月の時点で「来年の牝馬クラシックはこの馬」と思わせるほどの勝ちっぷりでした。

そしてその「強烈な末脚」は桜花賞でも発揮されることになります。この年の桜花賞は、短距離を中心に活躍してきた逃げ馬フクノドリームがハイペースで飛ばす展開。そんな中でもハープスターはいつも通りの最後方からの競馬をします。4コーナーを回る残り600mの地点では、先頭のフクノドリームから一番後ろを行くハープスターの間には、タイムにして3秒以上の差がありました。

フクノドリームのペースがやや暴走気味だったとはいえ「果たしてこの差で届くのか!?」と心配になるくらいの開きがあった2頭の差は、直線に入るとみるみると縮まっていき、ゴール地点ではキッチリと抜き去ります。20年ぶりに、阪神のターフに「こと座の一等星」が輝きました。


そして今年も「母系からの因縁」を強く持つ名前の馬が登場します。

その名も「アカイトリノムスメ」。このちょっと変わった名前を持つ3歳牝馬の母親は、11年前に牝馬三冠を達成した名牝アパパネです。このアパパネはハワイに生息する「アカハワイミツスイ」という鳥のハワイ語名"Apapane"からとられています。まさしく「赤い鳥の娘」と言うわけです。この馬は父も三冠馬のディープインパクト、両親ともに三冠馬という日本屈指の名血で、注目度も高い一頭です。

この他にも面白い由来の馬名、両親やそのまた親を意識した馬名も競馬界にはたくさんあります。JRAのホームページの競走馬のプロフィール欄には「馬名の由来」も書かれているので、気になった方は覗いてみてはいかがでしょうか。

写真:Horse Memorys

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