大改革が迫るダート界。
その予兆は今年から?
今年の6月にJRAがダートのレース体系整備の施策が発表されました。
詳しく話すと長くなるので主な点をまとめると、下記の2点に集約されるでしょう。
- 3歳ダート三冠路線の創設とその前哨戦(特に3歳春時)の重賞創設
- JRAと地方競馬の連携をこれまで以上に重視していく
他にもいろいろあるのですが、ざっくり言ってしまえば、3歳のダート戦線も芝のクラシック三冠のように春にG1を2つ、秋の10月にG1を1つ創設していくという話が中心で、そこを補うように前哨戦などのレースを整備していく──そして、そのG1の3レースを地方の大井競馬場で行う事で中央と地方の連携を強化していく、という改革です。施策の開始が2024年からですから、もう近い未来の話です。芝のレースでは三冠を戦った3歳馬がその後ジャパンCや有馬記念に挑むように、ダート界もダート三冠を戦ってきた馬がその後にチャンピオンズカップや東京大賞典に向かうようになっていくのではないでしょうか?
その予兆と思えるのが今年のチャンピオンズカップのメンバーです。
3歳勢からはジャパンダートダービーを勝ったノットゥルノ、春にはケンタッキーダービーにも挑戦・前走のJBCクラシックで2着だったクラウンプライド、レパードSで3着・シリウスSで2着のハピが参戦。これに対し古馬勢は昨年のこのレースの覇者で今年もJBCクラシックを制しているテーオーケインズ、浦和記念2着のラーゴム、盛岡の南部杯3着のシャマルといった前走で地方を使ってきた馬に加えて、ずっと中央を使ってきて前走シリウスSを勝ったジュンライトボルトや武蔵野S組も参戦。
まさに中央、地方、海外の競馬場を使ってきた馬達による、豪華な一戦となりました。
こうした多彩なメンバー構成でG1を盛り上げるというのがJRAの狙いの一つなのかな、と個人的には思っています。
各前哨戦の回顧
とはいえ、いろんなレースからメンバーが集まるということはそれだけ能力の比較が難しくなるということでもあります。実際の力関係はレースを終わってみないと分からない面がありますが、その基準になりそうな前哨戦をそれぞれ振り返っていきたいと思います。
JBCクラシック 盛岡ダート(右回り)2000M
スタート後は各馬が横に広がっての先行争い。じわっとクラウンプライドが先頭に立ちますが、2番手グループが3頭差がなく続き、少し空いて中団に馬が固まって進む展開となりました。1番人気のテーオーケインズは6番手の外目の位置でしたが、1000M通過後に前との差を詰め始めて残り800Mの地点では4番手に。そこから外を回って直線に入り、残り200Mで逃げていたクラウンプライドに並び、その後交わして勝利。2馬身差の2着が逃げたクラウンプライドで、そこから1馬身強の差の3着は道中3番手を進んでいたペイシャエスでした。
全体の走破タイムが2分02秒1。上り4ハロン(残り800Mから)が48秒6なので、明らかに後半が速い展開です。
前半がスローで流れて残り1000M~800M地点から長くいい脚を使っての切れ比べ。先行争いがほとんどなくスローで進んだので展開としては先行馬有利の流れでしたが、その中で外を回って差し切ったテーオーケインズの貫録勝ちと言えるでしょう。休み明けということを考えてもかなりの能力です。チャンピオンズカップでも人気の中心でしょう。
また、2着のクラウンプライドは力の差を見せつけられましたが、いいペースで逃げていました。先行有利の中京で距離短縮というのも面白そうです。
みやこS 阪神ダート1800M
ウィリアムバローズが逃げていきますが、後続も差がなく続いていきます。戦半は馬群が縦長でしたが徐々にひと固まりになり、3~4コーナーでは後続が上がってくる展開。直線手前では各馬が横に広がっての競り合いとなりました。直線では外から早め先頭に立ったサンライズホープが迫る後続を振り切って勝利。ハピは内々を回っての4着でした。
前半1000Mが1分01秒7で進み、その後もペースが落ちない持続力勝負。直線では横に広がっての競り合いになり、特に有利不利もない展開の中で11番人気のサンライズホープが激走して勝利をあげました。近走はスランプ気味でしたが、出遅れたことで後方からに競馬になったことでかえって集中力が続いたようです。偶然性の高い激走と判断する人もいるでしょう。4着のハピは直線で内々を回ってのもの。騎乗した横山典騎手の捌きが光った印象です。
シリウスS 中京ダート1900M
クリノフラッシュが逃げて、サンライズホープが2番手で進む展開に。前半はやや馬群が縦長で進んだものの、徐々に馬群がかたまりました。3~4コーナーでは馬群が凝縮。その中で外を上がっていったジョンライトボルトが早め先頭に立ち、そのまま押し切って勝利しました。ダート重賞は初出走でありながらの重賞制覇。2着は直線で内ラチ沿いを抜けてきたハピでした。
前半1000M通過が1分01秒2。平均ペース位で流れてはいるものの、500M~700M地点で13秒1とペースが緩んで再加速する流れです。残り1000Mからの200Mで11秒9と速くなったことでロングスパート勝負の流れになりました。そこで外を回りながらも勝ち切ったジュンライトボルトは強かったですが、G1で強敵と戦ってどうかという点は、相手関係の差を気にしたいところです。2着のハピはみやこSと同様に内をうまく捌いたものの2着まで。みやこSでは4着だっただけに勝ち切れないタイプに感じますが、立ち回りの巧さをいかせれば…というところでしょうか。
混戦を解く鍵は中京コースにあり?
テーオーケインズの地力の高さは確かですが、2番手以降が混戦模様と言えます。難解ですが、中京コースに合うかどうかが鍵になりそうです。
中京ダート1800Mのポイントを挙げて、予想の土台にしましょう。
① スタート地点は登り坂
中京ダート1800Mのスタート地点はスタンド前の直線の登り坂の地点。普通とは違うスタート地点ですし、1コーナーまでの距離も短いので非常にスタートは大事です。
先行有利の中京ダート1800Mで出遅れればそれだけでも厳しい戦いになるので、スタートに不安のある馬は要注意です。また、各馬のスタートによってはスタートからガンガン競り合う可能性もあります。
展開に大きく影響するスタートは要チェックです。
② 向正面半ばから3~4コーナーは急角度の下り坂
芝コースでもそうですが、ダートコースでも中京コースの大きなポイントになるのが、向正面から始まる下り坂。2コーナーから登り坂が始まり、残り1000Mの地点で最高点に達すると、そこから残り400M地点までの600Mで3.5M下っていくことになります。しかも3~4コーナーでは下りながら曲がっていくコース形態。スピードを上げていくと勢いがつき過ぎてコーナーでは膨れてしまう可能性があります。
レース中盤で外から捲っていくと勢いがつき過ぎて直線では膨れてしまう可能性もあるので、脚をためつつ、内々を回るという難所です。下りで馬を抑えながらも勢いをつけて直線に入りたいところでしょう。騎手の腕の見せ所で、大きな勝負ポイントと言えそうです。
③ 長く、急な傾斜の直線
直線は410Mで、傾斜の急な直線。
一見、直線に入ってからの追い込み馬が届きそうなコースですが、向正面からの下りで勢いをつけつつ直線に入った馬がスムーズに立ち回ると、直線に入ってから脚を使った追い込み馬では届かない展開は少なくありません。
ただ、そこはG1の舞台。外々を回りつつもすごい追い込みで伸びて来る想定外の脚の持ち主もいますので、要注意というところでしょうか。
中京コースまとめ
中京ダート1800Mはスタート地点が登り坂で1コーナーまでの距離が短いコース。そのため、向正面に入ってからが下りなので、外から位置を上げることがやりにくく、内の先行馬が脚をためやすいです。
直線は長く登り坂がありますが、3~4コーナーの下りで内を回りつつ勢いをいかした立ち回りの巧い馬がそのまま押し切れる可能性が高いコースとも言えます。
特に内枠で好スタートを切った先行馬が良いポジションを取って、レースの中盤では下りをいかして脚をため、3~4コーナーで内々を回って直線に入り、早め先頭で押し切る──という流れが、ひとつの理想と言えるコースです。
対して、差し・追い込み馬は直線で外に膨れるリスクを承知で3~4コーナーの下りで位置を上げ、外々を回りつつも長くいい脚を使うか、直線に入ってからの瞬発力で先行馬を交わせるか…ということになるので、やや展開的には厳しくなります。ただ、G1ともなれば常識を覆す驚異の末脚を持つ馬もいるので、注意は必要です。
今後は地方競馬との連携が進んで、より能力比較が難しくなりそうなチャンピオンズカップ。
能力比較だけではなく、枠順やレースの展開、中京コース適性など、考えることが多いこのレース。
どこから考えていけばいいのか分かりにくいかと思いますが、皆さまの競馬観戦の参考になれば幸いです。
大きく変わっていくダート界。その予兆を感じながら楽しんでいきましょう!
写真:青狸