今週は香港で国際競走4レースが行われます。
2012年にスイスの時計メーカーのロンジンがメインスポンサーに変更されて賞金額が増額された(一番多い香港カップの賞金総額は日本円で約3億3千400万ほど)香港国際競走。
招待されれば馬と関係者の渡航費用は全額負担されることや、日本から地理的にも近い点、日程的にもちょうどいいこともあって、日本馬が多数遠征するようになりました。
今年も多数の日本馬が参戦する香港国際競走について、そのレースとメンバーの紹介をしていこうと思います。まずはシャティン競馬場のコース紹介とメインの香港カップと香港ヴァーズの2レースです。
シャティン競馬場のコース
シャティン競馬場は右回りで1周1900Mで、直線は430Mのコース。
いわゆる楕円形の形状の特徴の少ないコースで高低差も約2Mと平坦に近いコースです。日本の芝のように高速馬場ではありませんが、有利不利の少ない標準的な右回りで、日本の競馬に近いスピードをいかせるコースといえます。
時差も少ないことから遠征による馬場の影響は少ないと言えるでしょう。
特に中長距離で日本馬の活躍が期待できそうです。
第36回香港カップ (G1 芝2000M)
ほぼ平坦の右回り芝2000Mという事で日本馬が強さを発揮しやすいコースなので、近年では日本馬の活躍が目立ちます。ここ3年は日本馬が勝利していますが、全て違う馬での3勝。加えて20年、21年は日本馬のワンツーと、日本馬の層の厚さを見せつけています。今年も日本馬が中心になるのは間違いありません。
注目になるのは2頭の逃げ馬。
ジャックドールはこのレースで武豊騎手と初コンビを組むことになりました。4走前の金鯱賞では1分57秒2のレコードタイムで勝利。かつて金鯱賞で逃げてレコードタイムで勝ったサイレンススズカが武豊騎手と初めてコンビを組んだのが、香港カップの前身である香港国際カップでした。サイレンススズカは同レースで大逃げの脚質に活路を見出し、5歳になった翌年からG1宝塚記念を含む6連勝と一気に本格化して伝説的な名馬になりました。ジャックドールも4歳の冬に香港の地で初めて武豊騎手とのコンビ。サイレンススズカと同様に香港の地から伝説的な逃げ馬になる可能性に期待したいですし、サイレンススズカの夢の続きをジャックドールが見せてくれるのかもしれません。
もう1頭の逃げ馬はパンサラッサ。こちらも積極的に大逃げをするタイプの馬で、今年の天皇賞秋では前半1000Mを57秒4の大逃げを披露しました。ゴール前でイクイノックスに交わされて1馬身差の2着ではありましたが、ファンを大いに沸かせています。札幌記念では2着でしたが、天皇賞秋でジャックドールに先着しているので力の差はほとんどないでしょうし、海外実績という点ではドバイターフを勝利しています。不安が少ない1頭と言えるでしょう。今回も積極的に逃げていくのは間違いないと思うので、ジャックドールとの逃げ争いに注目です。
3歳馬のジオグリフも注目の1頭です。今年の皐月賞を制しましたが、後に天皇賞秋を勝つことになるイクイノックスを2着に負かしています。右回りの芝2000M、少し時計がかかる馬場ならイクイノックスと互角以上だったということを考えれば、天皇賞秋組よりも相対的に力上位と言えます。立ち回りの巧い馬でもありますので、逃げ馬2頭が飛ばして後続がいつ動いたらいいのか分かりにくい展開でも力を出せるのは間違いないでしょう。持続力と底力に優れた馬でもあるので、長くいい脚を使って勝ち切る可能性も十分。ハイレベルな3歳馬がここでも力を発揮する可能性十分です。
今年のマイルチャンピオンシップで2着のダノンザキッドはマイルではなく、芝2000Mのカップに参戦。2走前の毎日王冠ではレコード決着の3着、マイルチャンピオンシップでは内々をうまく立ち回っての2着でした。今回は2000Mと距離延長が課題になりますが、元々2000MのホープフルSの勝ち馬でもありますので、2000Mまでなら大丈夫と見ます。底力と近走の勢いから好走の可能性は十分と言えるでしょう。
そんな強力な日本馬に対抗するのは香港馬達です。前走で香港ジョッキークラブカップを使ってきた馬が多いので、まずはそのレースを簡単に振り返ります。
レースはマネーキャッチャーがハナを切り、単騎先頭で逃げて2番手以降はややバラバラで進む展開に。道中は各馬の動きが少なく淡々と進んで3~4コーナーで馬群がやや固まって直線へ入ります。直線では早めに外から仕掛けたロマンチックウォリアーが残り200Mで先頭に立ち、そのまま押し切って勝利。2着は道中内ラチ沿いの3番手を進み、直線で内の狭いところから抜けてきますが、勝ち馬から1馬身強離された2着まででした。そこから2馬身離れた3着は3頭の争いになりましたが、一番外を通ったセニョールトバが競り勝って3着に食い込んでいます。
道中のラップタイムの発表がないので目視になりますが、前半1000M通過が1分ちょうどくらい。そこからも持続的にペースが流れて、決着タイムが1分59秒2ですから、レースの内容としてはペースが緩まず持続的に進んで、勝負ところでもう一段ペースが速くなっての持続力勝負でした。このタイム自体は日本の芝2000Mと比較すると遅いですが、このコースのレコードはウインブライトが19年のクイーンエリザベス2世カップで出した1分58秒8。前哨戦の勝ちタイムが0秒4差、香港馬の中では過去最速のタイムを出しました。かなり馬場状態がいいことが分かりますし、香港馬の実力も侮れないものと言えるでしょう。
その前哨戦である香港ジョッキークラブカップで勝ったロマンチックウォリアーは4歳の騙馬。今年の1月からの香港3冠緒戦の香港クラシックマイルと、3冠最終戦の香港ダービーを勝って2冠を達成しています。その後クイーンエリザベス2世カップでは古馬相手に単勝1.8倍の人気に応える快勝。そして今回の香港ジョッキークラブカップでも完勝と次世代の香港競馬を背負っていく新たなスター候補とも言える馬です。このレース前に一頓挫あってここは8割の仕上げでしたが、休み明けの前哨戦を完勝。叩き2戦目で万全の態勢、地の利と近走の勢いで日本馬と互角以上に戦っても不思議ではありません。日本馬にとって強力なライバルと言えるでしょう。
前哨戦2着のトゥールビヨンダイヤモンドは内々を回って狭いところから抜け出してきました。勝ち馬には差をつけられましたが、0秒2差。コースレコードから0秒6と考えれば無視できませんし、ロマンチックウォリアーと同じシャム厩舎でG2勝ちもある馬です。混戦の中で好走する可能性ありと言えるでしょう。
香港カップまとめ
展開的には2番枠の絶好枠に入ったジャックドールが好スタートを決めてハナに行くのかパンサラッサを行かせて2番手いくのか分かりませんが、後続を離したスリリングな展開になるのはほぼ間違いないでしょう。
各騎手の立ち回りが鍵になりますし、長くいい脚を使ってジオグリフ、ロマンチックウォリアーなどが前に迫る場面は迫力十分。最後は各馬の地力と底力が問われるレースになるはずです。
日本の天皇賞秋のようなレースが香港の地で行われるのを楽しみにしましょう!
第29回香港ヴァーズ (G1 芝2400M)
香港国際競走4レースの中で一番最初に行われる香港ヴァーズ。01年にステイゴールドがラストランで初G1制覇を成し遂げたことで印象的なレースですが、16年にはサトノクラウン、19年と21年ではグローリーヴェイズが制覇と、近年は日本馬の活躍が目立つレースです。構図としては中長距離路線の強い日本馬VS欧州馬という構図になっていて、今年もその構図が大きな注目点です。
日本馬の中心はグローリーヴェイズ。19年、21年の同レースの勝ち馬で、21年で負かしたパイルドライヴァーは22年のキングジョージの勝ち馬です。そのキングジョージでは21年凱旋門賞馬トルカータータッソを2着に、21年のドバイシーマクラシックを勝ったミシュリフを3着に負かしていることを考えれば、欧州馬に対しての力関係は上位と言えます。2400Mの距離に絶対の自信を持つ同馬。距離、コースも非常に合っていますし、鞍上にはモレイラ騎手を確保して万全の態勢です。7歳になり、やや衰えが見られるようになりましたが、一番得意の舞台でその力を改めて示してくれるでしょう。
今年のエリザベス女王杯2着のウインマリリンも注目です。2022年は大阪杯・宝塚記念では結果が出ませんでしたが、札幌記念3着と復調し、続くエリザベス女王杯で2着に入りました。両レースは時計のかかる馬場での好走でもありましたので、日本よりも時計がかかる傾向になるシャティンの馬場が合う可能性が高いと言えます。エリザベス女王杯に引き続きレーン騎手が騎乗するのも心強いでしょう。2400Mの距離でスタミナと馬場適正を生かすことができれば互角以上に戦えても不思議ではありません。
対抗する外国馬は欧州馬が中心になりますが、その中ではメンドシーノが実績1番手でしょう。2走前のバーデン大賞では直線で先に抜け出した昨年の凱旋門賞馬のトルカータータッソの外に出して並びかけ、そこから長い叩き合いの末に競り勝って勝利。やや重馬場だったとはいえ、直線での切れと底力は見ものでした。また、21年のバイエルン大賞では22年の凱旋門賞馬のアルピ二スタに4分の3馬身差の2着と接戦。22年の凱旋門賞では12着と結果が出ませんでしたが、21年と22年の凱旋門賞馬と好勝負をしている馬ですので地力はかなり高い馬。良馬場の少し時計がかかる馬場でスタミナと切れが生きる展開になれば勝ち負けを期待できる存在です。
強敵と戦ってきたという点ではバブルギフトも注目です。サンクルー大賞では後に凱旋門賞を勝つアルピ二スタから1馬身強離された2着パラッティにクビ差届かずの3着。続く凱旋門賞の前哨戦のフォア賞では2着と安定して力を見せています。同レースで勝ったイレジーンは後にロワイヤルオーク賞という3100MのG1を勝っているので相手も強かったという事でしょう。脚質に安定感もあるので相手なりに走る馬と考えれば馬券圏内に食い込むだけの実力はありそうです。
日本馬に関係がある馬としてはボタニクもあげられます。2走前のドーヴィル大賞典では逃げて2着に粘ったステイフーリッシュをゴール前で差し切った同馬。前走の仏ドラール賞(芝2000M)では10着でしたが、2400M、2500Mでは6勝を挙げています。べストの距離で巻き返す可能性十分と言えそうです。
香港ヴァーズまとめ
大まかな構図としてはコース適性の高いグローリーヴェイズVSスタミナと底力に優れる欧州馬という構図でしょうか。もちろんウインマリリンにも期待です。個人的には引退を表明したモレイラ騎手の『ラストマジック』に期待したいところ。
各国の競馬関係者への感謝を込めて今回の香港国際競走に臨むモレイラ騎手に注目が集まる一日になるでしょう。
香港カップ、ヴァーズは日本馬の活躍、勝利が大いに見込めるレースとして取り上げました。
海外のレースで勝ち負けを期待できる日本馬、世界で戦える日本馬の強さを見て、誇らしい気持ちになれるのは間違いありません。『頑張れニッポン!』と応援しながら予想も的中できる、そんな楽しみを持てるレースと言えるのではないでしょうか。この記事が皆さんの参考になることを願っています。
写真:かぼす