ワンミリオンス〜四連勝で掴みかけた「女王」の座〜

2019年1月25日、一頭の6歳牝馬が競走生活に別れを告げ、繁殖生活へと入りました。
その馬の名前はワンミリオンス。
2年前に初重賞制覇を果たした舞台でラストランを終えた時、はたして彼女の胸にはどんな思いがあったのでしょうか。
今回は、ダートで活躍した牝馬、ワンミリオンスについてご紹介していきます。


連勝までの前日譚

まずは彼女の生い立ちについて、簡単に説明していきましょう。
生産者はノーザンファームで、父はダートの名種牡馬ゴールドアリュール、母はアメリカから輸入されたシーズインポッシブル。叔父にはダートGI2勝のテスタマッタがいるという血統です。近親に活躍馬はいるものの、数多くの名馬を生産してきたノーザンファームの中では目を引くものではなかったのか、サンデーレーシングでの募集価格は総額1400万円にとどまりました。

長じて彼女は栗東の小崎憲厩舎に入厩し、競走馬としてのキャリアをスタートさせます。デビュー戦は2016年1月10日の京都ダート1400m。このレースでは7番人気と低評価ながら小崎綾也騎手を背に3着と善戦。次走の未勝利戦(同条件)では6着と掲示板を逃したものの、3月19日の阪神ダート1400mの未勝利戦では福永祐一騎手に乗り替わって勝利し、無事勝ち上がることに成功しました。

その後、一度芝の条件戦(3歳500万条件)に出走したときは8着と惨敗しましたが、古馬との対戦になってからは3着、1着、2着とコンスタントに馬券に絡み続けます。
3歳秋の時点でそれなりに結果を出していたうえ、芝のレースを除けば全レースで上がり最速もしくは2番手という堅実な末脚を持っていたこともあって、デビュー前の期待を遥かに超える走りをしていたのは間違いないでしょう。
 

一躍、ダート牝馬路線のトップ候補に

素質を見せていた彼女は、初めてとなる特別戦となる10月30日の河口湖特別(ダート1400m・1000万条件:当時)に出走し単勝1.7倍の圧倒的支持を受けて快勝。次いで準オープンの銀嶺S(11月26日)に出走し、ここでは2着馬にクビ差まで詰め寄られますが、何とか凌いでついにOP入りを果たします。
この後は少し間隔を開けて年明けに行われるTCK女王盃への出走を表明。ついにダート牝馬の重賞路線に乗り込むことになります。

この当時、2016年のダート牝馬路線の状況を振り返ると、ホワイトフーガがレディスプレリュードで敗れたものの、本番となるJBCレディスクラシック(この年は川崎1600mで実施)を連覇し、絶対女王の座をものにしていました。

しかしながら、同期で世代限定の交流重賞を3勝していたタイニーダンサーは秋以降不振が続き、準OPを勝ち上がったマイティティーや春にマリーンカップを勝ったヴィータアレグリアもクイーン賞で大敗。絶対女王を取り巻く勢力図は混沌としており、準OPを勝ち上がったばかりのワンミリオンスも新女王候補の一角と言っていい立場にありました。

初の重賞舞台に挑むことになった彼女ですが、直前になってトラブルが発生します。主戦騎手の福永祐一騎手がインフルエンザに感染し、乗り替わりを余儀なくされてしまったのです。こうして初勝利以降コンビを組み続けた福永騎手は一度降板することとなり、大井出身の戸崎圭太騎手への乗り替わることになりました。

レース当日は乗り替わりがそこまで不安視されなかったのか、戦前の評価とさして変わらず、ホワイトフーガに続く2番人気となりました。続いてレディスプレリュードでホワイトフーガを下したタマノブリュネット、マイティティーと中央勢が支持され、大井所属のJBC3着のトーセンセラヴィが5番人気。ここまでが単勝一桁台と支持を集めました。

ゲートが開くと最内枠のマイティティーが押して先頭へ立ち、その後ろには高知のディアマルコが2番手、大井のリンダリンダが3番手、トーセンセラヴィが4番手と地方勢が果敢に先行する形になります。ワンミリオンスは次いで5番手で、外を走るホワイトフーガと並走する形で1コーナーに入りました。ダート1400mでの勝ち鞍しかなく、やや距離を不安視されていたこともあり、この判断はおそらく好判断だったに違いありません。
しかし向こう正面に入ったところでハプニングが発生します。前を走っていたトーセンセラヴィが突如故障し、体勢を崩して一気に失速してしまったのです。内を一頭分開けていたこともあって彼女も巻き込まれるということはなかったのですが、心理的な動揺は相当なものだったでしょう。

ハプニングの後も、レースは続きます。
3コーナーでホワイトフーガが外々を回って押し上げ、前に居たリンダリンダが押し出されるように先頭へ。激しい先団の争いの中、じっくりと足をためて彼女はひたすら直線を待ちます。後退するディアマルコとマイティティーを捌くと同時に直線に向いたところで、内に切り込みリンダリンダに並びかけ、残り1ハロンと少しというところで外から並びかけるホワイトフーガも併せて三頭の叩き合いに持ち込みました。

内から元大井のリーディグジョッキー戸崎圭太の駆るワンミリオンス、真ん中には金沢の天才騎手吉原寛人の駆る伏兵リンダリンダ、外からは交流元年から大井にたびたび参戦してきた大ベテラン蛯名正義の駆るホワイトフーガ。
3頭三名の強烈な叩き合いの末、残り100mを切ったあたりで先頭に出たワンミリオンスがそのままゴールへと流れ込み、2着のリンダリンダに4分の3馬身差をつけて辛くも重賞初勝利を手にしました。

ゴール後は彼女に対する熱烈な歓声で一色になるかと思われましたが、周囲の雰囲気を見る限りそうではありませんでした。競争を中止したトーセンセラヴィの止まり方が危なそうな雰囲気であったため彼女を心配する声、ホワイトフーガが単勝1倍台の圧倒的支持を受けながら3着に敗れたことに落胆する声、中央勢相手に大健闘を見せたリンダリンダに対する賞賛の声と、インターネット掲示板やSNSではいろいろな感想が飛び交っていたことを覚えています。

こうして一躍ダート牝馬路線の強豪の一角に名を連ねたワンミリオンス。
次走はさらに距離を伸ばし、3月1日に川崎競馬場で行われるエンプレス杯(ダート2100m・GII)に駒を進めます。前走で中距離に対する距離の不安がなくなったことや、ホワイトフーガが出走しなかったこともあり、今度は単勝1.8倍の圧倒的支持を受けて出走することになりました。

ゲートが開くと4番手につけるワンスミリオンス。1周目のゴール板付近、ここがラストランとなるヴィータアレグリアがハナを叩き、それについてワンミリオンスも上がっていくという、前走とは全く違う乱ペースになります。
前走では問題なかったとはいえ、ダートグレードの牝馬重賞の中では最も長い2100mですから「途中から仕掛けて最後まで持つのか?」という不安は、観戦していたファンの中に少なからずありました。
ですが、ワンミリオンスはファンの不安もどこ吹く風、3コーナーで押し上げてくる後続を引き離しグングンと先頭との距離を縮めます。
直線に入ったところで逃げ込みを図るヴィータアレグリアを捕まえると、前走でも戦ったリンダリンダの追撃を振り切り、重賞2勝目を達成しました。

こうして4連勝で一気にスター候補の道を駆け上がったワンミリオンス。
しかし、次走では現女王ホワイトフーガに加え、新たな敵が立ちはだかることになったのです。

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