[連載・片目のサラブレッド福ちゃんのPERFECT DAYS]能力試験の下見(シーズン1-13)

パトリオットゲームの能力試験を見に行ってきました。と言っても、何のことだかさっぱり分からないと思いますので説明しておくと、下村獣医師ことシモジュウからの話で大狩部牧場の生産馬をEVO(エクワインベットオーナーズ)の上手獣医師に購入してもらい、山﨑裕也厩舎に入厩することになったカズヤラヴの22がパトリオットゲームと名付けられ、川崎競馬でデビューすることになったということです。名前が二転三転して、最初はチェリーブロッサムだったのに審査に通らず、最終的にパトリオットゲームに落ち着きました。まあ、決まってからこうして能力試験まで来ると、パトリオットゲームで良かったのではと思えるから不思議です。アメリカンペイトリオット産駒であり、映画に由来する名前ですね。

麻薬の横流し、いや馬の仲介のようなことをした以上、僕も少なからず責任を感じています。どこかに悪いところがあって競走馬になれなかったり、全く走らなかったりしたら、申し訳なく思ってしまいます。もちろんEVOで募集されたときは共有馬主になりましたし、まずはこうして無事に能力試験まで来てくれたことに感謝です。大狩部牧場が丈夫に育ててくれた馬に上手獣医師が実際に跨って、付きっ切りで育成をしてくれました。パトリオットゲームが走ってくれたら、ウインウインどころではなくオールウインです。

パトリオットゲームの能力試験は朝7時10分発走です。まさかそんな時間に行われるとは思っておらず、「能力試験を見に行ってきます」と気軽に言ったことを少し後悔しながらも、朝の4時に目覚ましをかけて起きました。久しぶりの早起きに頭が朦朧としながらも、早すぎて空き空きの電車に乗り込み、頭がクラクラしながらも川崎競馬場に到着しました。「調教師さんたちはこちらからご覧になりますね」と川崎競馬のスタッフに2階の無観客のスタンドに案内されます。念のため確認してみたところ、「パトリオットゲームは7時10分ですね。多少なりとも前後してしまうかもしれませんが」とのこと。実際のレースではないので、時刻きっかりに発走するわけではないのでしょう。

少し時間がありましたので、カメラのレンズを望遠に付け替え、いつパトリオットゲームが出て来ても良いように準備します。これから目の前に登場するのはパトリオットゲームですが、僕の心の中に浮かんでいるのは、2年後にここにいるかもしれない福ちゃんです。福ちゃんはこの場に辿り着けるのだろうか。辿り着いたとしたら、僕たちにどのような走りを見せてくれるのだろうか。そして、能力試験に合格して、競走馬になれるのだろうか。果たして片目のサラブレッドはデビューできるのか。

気がつくと、1番から4番までのゼッケンを付けた馬たちが本馬場に入ってきました。7時を少し回ったところです。思ったよりも早かったなと思いつつ、パトリオットゲームを探します。彼女は額にダイヤを横に倒したような流星があるはずなので、それが目印です。牝馬にしては雄大な馬格を誇りますので、パッと見たら分かるかもしれません。毛色や流星、馬体の感じから、2~4番は明らかに違うことが分かりました。1番かなとファインダー越しに見ていると、4頭は一斉に向こう正面にあるスタート地点に去っていってしまいました。このとき能力試験の出走馬リストをもらっておけば良かったと思いました。

しばらくして遠くで黄色い旗が上がり、ゲートが開く音と共に4頭が飛び出しました。1番の馬は比較的好スタートを切りましたが、それほどスピードに乗れず、道中では少しバカつく面を見せ、最後の直線では前を行った2頭に引き離されてしまいました。上手獣医師から聞いていた走りとはかけ離れていて、やはり調教と実戦形式では違うんだなと気を落としつつも、何か違う気もして、以前にシモジュウからもらっていた1歳時の立ち写真をフォルダから探してみました。今撮影した1番の馬の写真を指先で拡大し、比べてみると、流星の形が少し違います。馬体は変わっても流星は変わらないので、先ほどの1番はパトリオットゲームではないと僕は確信しました。

ということは、次に出てくる組の中にパトリオットゲームはいるはずです。7時10分を少し超えた頃、次の1番から4番の馬たちが登場しました。パッと見て、1番の馬だと分かりました。今度こそパトリオットゲームです。流星の形や大きさ、馬体の素晴らしさは、僕が半年間、画面越しに見てきたパトリオットゲームのそれです。やや気持ちが高ぶる面を見せていましたが、大した問題ではなく、スムーズに向こう正面まで駆けていき、しばらくすると先ほどと同じく、ゲートが開くガシャンという音が聞こえ、1番の馬が飛び出してきました。スッと先頭に立ち、スピードに乗って、最終コーナーを回ってきます。2番手の馬も迫ってきましたが、ラスト100mあたりでムチを一発入れられるとスッと突き放して先頭でゴール。耳を絞って、最後まで気を抜くことなく走り切っていました。スタートからゴールまで文句のつけようのない走りで、タイムは50秒3の1番時計で見事に合格。これが新馬戦だったらと思わせる優等生的な内容でした。

眠気もどこかに吹き飛んで、満足して帰途についていると、山崎裕也先生から電話がかかってきました。「今日、いらっしゃっていました?」と聞かれたので、「はい、2階のスタンドで見ていました」と答えます。裕也先生は来ていないと思っていたのですが、1階のところで観ていたのですね。直接話せれば良かったと思いつつも、「パトリオットゲームは素晴らしい走りでしたね。あとは無事にデビューまで行ってもらえたらです」と伝えると、「まさにそれです。5月のデビューまで無事に持っていきたいですね。ビシバシ鍛えていますが、まだ体はこれからですよ」と意気込みを教えてくれました。今年の山﨑裕也厩舎は2着が多いので、パトリオットゲームはきっちりと勝って、勝ち星にも貢献できればと思います。とにかく1か月後が楽しみになりました。

僕にとっての能力試験のスクーリング(下見)は終わりました。今回、能力試験を見に行ったのは、パトリオットゲームの応援もありますが、福ちゃんの2年後を見据えてです。能力試験は4頭立てですから、馬群に揉まれることもありませんし、乗り方次第では砂を被らずとも回ってこられます。観客席からの大声援に馬が驚いてしまうこともありません。ということは、育成の段階で普通に真っすぐ走れてさえいれば、能力試験で落ちてしまうことはほとんどないのではないでしょうか。パトリオットゲームの走りに福ちゃんを重ね、また少し明るい希望の光が見えてきました。

(次回へ続く→)

あなたにおすすめの記事