[連載・片目のサラブレッド福ちゃんのPERFECT DAYS]自産自消の共有クラブ(シーズン1-41)

夏競馬が終わり、9月に入ってから、ニューイヤーズデイ産駒の活躍が目立ち始めました。9月8日にリューデスハイムが2勝目を挙げたのを皮切りに、9月15日にはゼットレジーナが2勝目、9月16日にはニューバラードが中山ダート2400mを押し切り、2勝目を挙げました。さらには同日、中京競馬場のダート1400mで行われた新馬戦を、ミリアッドラヴが3着以下を大差離す圧勝で制しました。2着に友道厩舎のInto Mischief産駒ダノンフィーゴ、3着にノースヒルズのAmerican Pharoah産駒タヴァネスタンという素質馬を引き連れての1分23秒9という好タイム勝ちです。

牡馬も牝馬も、ダート戦であればあらゆる条件において活躍できることを証明しつつあります。特にミリアッドラヴは、今後、ダート短距離路線を引っ張っていく存在になりそうです。もともとストリートクライ系は牝馬から大物が出る(ゼニヤッタやウインクスのような)と言われていましたので、そのとおりになってきました。

この勢いに乗って、オータムセールに上場する予定のダートムーアの23も高く評価してもらえると嬉しいと思う一方で、自分で走らせるのも悪くないかもと打算する自分も現れてきます。下手に安く買い叩かれるのであれば、自分で持って走らせた方が賞金を稼げるかもしれませんし、引退したあとに繁殖牝馬としても所有できるという最大のメリットがあります。

ただし、自分で走らせるとなれば、今後の育成の費用から厩舎への預託料、そして怪我や病気などをした場合はその治療費など、様々かつ膨大な経費が生じてきます。走って賞金を稼いでくれたら問題ないのですが、そこは走ってみないと分からない面もあり、やはり競走馬を所有するのは一種のギャンブルであることはたしかです。福ちゃんの場合は、売るという選択肢がないのですが、この先、売るか自分で走らせるかの葛藤は僕を悩ませそうな気がします。

そこで改めて、出資者を募ってリスクを分散させて走らせる、地方競馬の共有クラブを妄想、いや、構想してみました。

自分たちで生産した馬を大切に走らせる共有クラブ
「福ちゃんレーシング」

■コンセプト
サラブレッドの大量生産・大量消費の時代が訪れる中、自分たちで生産した馬を自分たちで大切に走らせる自産自消の共有クラブを目指します。

・種付け、受胎、そして誕生から追いかけた馬に出資してもらい、サラブレッドの一生のドラマを体験してもらう

・できる限り近親交配(インクロス)を避けた配合を試み、繁殖牝馬の母胎を守り(受胎率も上がる)、心身共に健康なサラブレッドを生産する(長く走れる)

・セリで購入するのではなく自分たちで生産するため、生産者は利益を出しつつも、出資者には安価で提供できる

・流通に乗せることなく(セリに出さずに)、生産者から共有馬主(会員)に直接届けられるため、コンサイニング等で無理に身体をつくったり、不必要な高カロリーの栄養を摂取したりして、成長を阻害することがない

・一勝よりも一生、長い目で見て稼ぐ(新馬戦だけ勝ってその後は鳴かず飛ばずにしない、無理をして走らせないから怪我等で貴重な現役生活を棒に振りにくい)

・引退後の道も模索する(募集額を超えて獲得した賞金から一定額をプールしておく、ファンに支援してもらう、第2、第3の道を見つける)

・優秀な牝馬は繁殖牝馬となってもらい、その仔たちも募集する(母馬優先)

■ストーリー
ここ十数年間のサラブレッド市場の活況に伴い、生産頭数は年々増え続けています。一時期は6000頭台まで減少しましたが、おそらく2024年度は8000頭の大台に乗りそうです。かつて1万頭を超えるサラブレッドを生産していた時代もありましたので、その頃に比べるとまだ少ないと思われるかもしれませんが、当時よりも競馬場の数自体が少ない現代としては、すでにサラブレッドの生産頭数は飽和状態を迎えつつあります。サラブレッドオークションなどのリユース市場も拡大していることも加わり、この先、サラブレッドの生産と(新馬の)需要のバランスが崩れてくることが予想されます。いわゆる大量生産・大量消費の時代がやってきます。

そんな時代に対する逆張りとして、自分たちで生産した馬を直接、共有馬主(会員)に届け、自分たちで大切に走らせる自産自消のクラブは面白いのではないでしょうか。セリという流通システムを通さないため、出資者(会員)にとっては高すぎず、生産者にとっては安すぎない、適正な価格で募集することが可能です。セリに向けて、高カロリーの食材を食べさせて太らせ、成長期に夜間放牧をやめて(少なくして)、無理に体をつくる必要もありません。馴致・育成に入るギリギリの時期まで成長を促せるはずです。

自分たちで生産するため、年間の募集頭数は少ないのですが、その分、誕生からの成長過程を知っている馬たちを愛着や愛情を持ってサポートできるはずです。募集額を回収することが最大の目的ではなく、自分の人生の一部に愛馬の存在がある生活を楽しんでもらいたいです。もちろん、馬たちの将来を考えても賞金は多く稼いでもらいたいのですが、目先の勝利を優先するのではなく、一勝よりも一生、少しでも長く走って、その馬の潜在能力を全て引き出し、生涯獲得賞金を多く稼いでもらう形を取りたいのです。

愛着や愛情が深い分、引退した後のことも問題になってくるはずです。その馬ごとに状況は異なってくるはずですが、できる限り豊富な選択肢を準備するために、(募集額を超えて獲得した)賞金の一部をあらかじめプールしておき、引退後の資金に充てても良いでしょう。引き取り手があるようであれば、プールしておいたお金は返還します。心身を削って長く走り続けてくれた馬たちに少しでも長く余生を過ごしてもらって、引退した愛馬にも会いに行けるような幸せな未来をつくる努力や工夫はしてみたいものです。

また、自家生産馬を中心にすると、血統的な偏り(母系が同じ)は生じてしまいますが、そこは配合する種牡馬に多様性を持たせていけば良いでしょう。ただし、最初となる基幹繁殖牝馬は重要になりますので、その点、ダイナカール牝系であり、自身は4勝を挙げ、全兄にUAEダービー2着のフラムドパシオンがいるダートムーアは適任なのではないでしょうか。

こうして企画書をつくっていても、自分が出資者であっても入ってみたいと思う、魅力的なコンセプトの共有クラブです。地方競馬限定になってしまうことが、唯一思いつくデメリットでしょうか。中央の実績がつくれないため、ダートムーアから派生する牝系がどうしても地方競馬に特化していってしまうということです。華々しい舞台はあきらめて、地道に自産自消を続けていくことになります。

それよりも何よりも、僕が共有クラブに二の足を踏んでしまうのは、運営の難しさにあります。お金にまつわる事務作業は膨大でしょうし、未回収や未払い金の問題、それからクラブ側と会員のコミュニケーションコスト、または会員同士の意見の食い違いなどを解決する仕事も発生してくるかもしれません。そこまでして共有する必要があるのか?たしかに育成費や預託費を共有し、リスクを軽減できるメリットはあります。上手く行けば、喜びも悲しみも分かち合って、「喜びは2倍に、悲しみは半分に」できるのも共有クラブの良い点ですが、その逆もあり得ます(笑)。

中央競馬のように、数千万円を数百口で募集して、預託料も月60万円を超える世界であれば共有するべきだと思いますが、数百万円の馬を数十万の預託費で預ける世界で共有すべきかどうかは迷うラインです。自分ひとりで走らせるのであれば、何があっても自己責任ですし、どんな選択を採ったとしても非難されることはありません。預託料を支払い、賞金は振り込まれるだけです。余計な手間はかかりません。

そう考えて、振り出しに戻るのです。ユニオンオーナーズなどの牧場系クラブで募集させてもらえれば、(準備金として160万円ほどかかるそうですが)事務作業は向こう任せですし、中央競馬に出走する選択肢もあります。出資者の方々に一般会費(月額)が3000円ほど負担していただくのですが、安定した運営のためと思って払ってもらうしかありません。

福ちゃんレーシングは夢の話なのです。

(次回へ続く→)

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