[連載・片目のサラブレッド福ちゃんのPERFECT DAYS]福ちゃんはひとりで持つ(シーズン2-6)

僕が福ちゃんの卒業アルバムの制作にかかりっきりになっている間にも、世の中は動いています。サマーセールが行われ、碧雲牧場の2頭(トウカイファインの24とツキノサバクの24)は売れて牧場を出て行きました。離乳も始まり、生まれた順にユメ子(ユメノシラベの25)とミー子(フォーミーの25)、マン次郎(マンドゥラの25)が第一陣として、次にカブキ(ツキノサバクの25)が第二陣として母とお別れをしました。遅生まれで甘えん坊のスパ次郎は、最後になるそうです。冬から春にかけての出産、誕生が出会いの季節だとすると、夏は別れの季節ですね。

本州に向けてNO,9ホーストレーニングメソドから旅立ったルリモハリモは、一旦、育成牧場のブルーステーブルに入り、8月21日に船橋競馬場の張田京厩舎に入厩したようです。他人事のように書きましたが、実は張田京厩舎はNO,9ホーストレーニングメソドの木村さんのツテで入れてもらったので、張田京調教師とは面識がありません。しかも馬主の名義がNO,9ホーストレーニングメソドになっていることもあり、ルリモハリモが今どのような状況なのか、僕には知らされていない現状があります。移動情報もXの移動馬botというアカウントをフォロワーさんがリポストしてくれて初めて知りました(笑) 近いうちに厩舎を訪ねて、張田京調教師に直接お会いしなければいけません。

そしてオーストラリアのタスマニアで走っていたエルが、現役を引退することになりました。協議のあと、立て直してもう一度走らせてみましたが、思うような結果は出ず。エルももう8歳になりますから、肉体的にはまだ走れるとしても、走る気持ちがなくなってしまったのでしょう。かつても書いたように、オーストラリアは今、馬が高く売れず、生産界が縮小していることもあり、繁殖牝馬も高く売れません。だとしたら、「競走馬として」オンラインセールに出してみたらという提案が西谷調教師からありました。競走馬として数戦走らせて、その後に繁殖にするという選択肢もあった方が買い手は増えるからというのがその理由です。たしかに「繁殖牝馬として」売りに出すよりも、現役の競走馬として買ってもらう方が、買った方としては、そのまま競走馬として使うこともできますし、引退させて繁殖牝馬にすることもできます。僕たちは含みを持たせてエルを売却することにしました。

もし売れないとなれば、僕がエルを日本まで連れてきて繁殖牝馬にする、または日本の知り合いに譲って、輸送費(200~300万円)は持ってもらって日本で繁殖に上げる、の2つしか選択肢は思い浮かびません。前者は今の僕の経済状況では難しく、後者もわざわざタスマニアから輸送費を払って、縁もゆかりもない8歳牝馬を引き受けてくれる物好きは思い当たりません。

正直に言うと、以前も書いたように、エルには繁殖牝馬としては十分な可能性があると思っています。馬体こそ標準よりやや小さいのですが、兄弟にはシンガポールの重賞馬がいて、母父のモアザンレディは日本適性もありますので、血統的には見どころがあります。スピードのある薄い馬体構造をしているので、幅のあるパワフルな(たとえばエフフォーリアのような)種牡馬を配合すれば、産駒は日本の芝レースをそこそこ走ってもおかしくありません。エルのことを知っているからこそ可能性があると思えますが、これを他人に伝えるのは難しいですね。

今回のエルの件で勉強になったのは、引退時期の問題です。エルの場合、僕は25%しか権利を持っていなかったので、引退時期に関して口を出したことはありません。そろそろ引退しないのかなと思ったことは何度かありましたが、口を挟むことはしませんでした。そのこともあってか、結果的には、引退がずいぶんと延びてしまい、全盛期から2年ほど経って引退した形になりました。あくまでも結果論ですが、エルの第二の人生を考えたとき、もう少し早く引退していればと思うのです。

2年前ならば、エルを日本に連れてきて繁殖牝馬として所有できる財力と気力が僕にもまだありました。競走馬としても余力が残っている状態であれば、オーストラリアのオークションにかけても引き取り手は少なからず現れたはずです。全てはタイミングということですね。さすがに全盛期で引退させるのは難しいとしても、牝馬に限っては、余力を残した状態で次のステージに移ることを決断しなければいけません。もちろん、牡馬は競走馬として走り続けることが生きる道なので、力を出し尽くすまで走らせてあげるべきです。

余力を残した状態で繁殖に上げるとすれば、全盛期において、引退させることを考え始めることになります。その際、意思決定者が多すぎると判断が難しくなるのです。エルのように意思決定者不在という珍しいケースもありますが、意思決定者が多ければ多いほど利害関係がぶつかる恐れが生じます。たとえ2人であっても、それぞれの意見や見識が異なれば、いつ引退すべきかの判断は分かれるはずです。ルリモハリモは僕とNO,9ホーストレーニングメソドの木村さんの二人で持っていますが、完全に意見が一致して引退させることができるのでしょうか。二人でも難しいのに、何人も何十人も出資者がいると、それぞれの意見をすり合わせることは不可能に近いのです。

代表馬主が決定権を持っていれば問題ない、という意見もあると思いますが、それでは一口馬主の延長線上にすぎません。実際に共有者には意思決定権がないとすれば、それは本来の意味の共有ではない気がします。言っていることが矛盾するようですが、馬を所有することによる最も困難かつ人間力を問われる「判断の難しさ」を味わわないのはもったいない気がします。意見のぶつかり合いも、馬を共有することの醍醐味のひとつなのかもしれませんね。

いろいろと逡巡した挙句、馬は本来ひとりで持つのが理想であって、せめて福ちゃんだけは僕が責任を持ってひとりで所有し、僕が最善と考える形で福ちゃんを走らせ、引退させてあげたいと思います。

(次回へ続く→)

あなたにおすすめの記事