セイウンコウセイ - 輝き、走り続けたスプリント界の「恒星」

何千年もの昔から、人は夜空を見上げ、そこに輝く星に想いを寄せてきた。

人は、その瞬きに想いを馳せ、その輝く形に想像力の翼を与え、そこに物語を乗せてきた。
世の東西を問わず、星空が人の心を捉えてやまないのは、その輝きの美しさとともに、「そこに在り続ける」ことの尊さではなかっただろうか。

時間の流れを超越するように、常に輝きを放ち続ける、夜空の星々。
夜ごと見上げる星々の瞬きのなかに、人は永遠の美しさを見てきた。

それはどこか、私たちがセイウンコウセイに惹かれる理由と、似ている気がする。

2015年6月のデビューから、6年と6か月。
消耗の激しい短距離戦線を、セイウンコウセイは走り続けた。

怪我なく走り続けることの難しさ、そして尊さは、「無事是名馬」の言を引くまでもない。
一つのレースに出走し、無事に走り切って、帰ってくる。
競馬を観る時間を重ねていくと、それがいかに難しく、いかに奇跡といえるのか、そのことを痛感するばかりだ。

セイウンコウセイは、そんな奇跡を、42回にわたって見せてくれた。
生まれ持った身体の頑健もさることながら、関係者や陣営の尽力の賜物だろう。

走り続ければこそ、競馬場でその姿を応援することができる。
刹那に消えゆく輝きも美しいが、さりとて輝き続ける美しさは、ファンにとってはありがたいものだ。
その走りを応援に行くチャンスが、与えられ続けるのだから。

その意味において、セイウンコウセイは「愛させてくれる名馬」だった。

セイウンコウセイは、2013年3月8日に新ひだか町の桜井牧場で生を受けた。

父は2007年のドバイドューティーフリー、宝塚記念、ジャパンカップを制したアドマイヤムーン。
母のオブザーヴァントは、タイキフォーチュン、クラリティスカイといったNHKマイルカップを制したマイラーも出た牝系の流れを汲む、桜井牧場ゆかりの繁殖牝馬だった。

そのセイウンコウセイは、2014年のセレクトセールにおいて、「セイウン」「ニシノ」の冠名で知られる西山茂行氏に、1,350万円で落札された。

その当日、西山氏はゴルフ仲間との北海道旅行のついでに、セレクトセールを見学に訪れていた。
しかし、仲間と盛大に飲食してしまった義理から、「1頭も買わないのは失礼にあたる」と落札したのが、このセイウンコウセイだった(※1)という。
なんとも、人情味のあふれる西山氏らしいエピソードに聞こえる。

西山氏の冠名と、「恒星」を組み合わせて名付けられた、セイウンコウセイ。

夜空に輝く星には、2種類の星がある。
自らの内部で熱を発生させて輝く「恒星」と、その恒星が放つ光を受けながら、その周りを公転する「惑星」。
恒星同士の位置や距離は常に変わらないため、「いつも変わらない」、「永久に」という意味の「恒」の字があてられているという。

「名は体を表す」というが、セイウンコウセイはその名に違わず、常に輝きを放ち続ける走りを見せることになる。

西山氏の先代から縁のある、美浦の上原博之厩舎に所属となったセイウンコウセイ。

デビューは早く、2歳となった2015年の6月27日に、東京芝1800mの新馬戦に出走するも、着外に惨敗。
その後、距離を短縮したり、ダートを試したりしながら、初勝利を挙げたのが3歳となった7戦目のダート1200mの未勝利戦だった。
そこからまた芝に戻ったセイウンコウセイは、条件戦を連勝。いずれもテンの速さを活かしての逃げか、番手から押し切る競馬だった。

休養明けの準オープン戦は大敗したものの、白眉は11月の京都・渡月橋ステークス。
雨で渋った馬場を苦にもせず、上り36秒1でまとめて、楽に逃げ切った。
前走から乗り替わりで手綱を取っていたのは、前年デビュー19年目で重賞初勝利を挙げていた、松田大作騎手だった。

これでオープン入りしたセイウンコウセイは、明けて4歳となった緒戦の淀短距離ステークスも、番手から押し切って連勝。
そして、GⅢシルクロードステークスでは、4番手追走から直線抜け出すも、武豊騎手のダンスディレクターの強襲に、クビ差だけ屈しての2着。
初めての重賞でも、しっかりと自分の形を出せる強さは、松田騎手とともに大きな飛躍への期待を感じさせるものだった。

そして迎えた2017年春のGⅠ高松宮記念だったが、セイウンコウセイの鞍上は、幸英明騎手に乗り替わりとなっていた。
渡月橋ステークスから3戦連続で結果を出してきた松田騎手が、この年の2月に道路交通法違反により、痛恨の騎乗停止となっていた。

稍重発表とはいえ、降りしきる春の雨の中での一戦。
絶好のスタートを決めたセイウンコウセイだったが、幸騎手は無理をさせずに、自然に控えたポケットの4番手あたりを確保する。

直線を迎え、幸騎手は馬場の真ん中に進路を選んだ。その檄に応え、抜群の手応えで伸びるセイウンコウセイ。内からレッツゴードンキ、レッドファルクスのGⅠ馬2頭も伸びてくる。

しかし残り50m付近で、もう大勢は決していた。

渋った馬場にもセイウンコウセイの脚色は衰えず、リードを保ったまま、ゴール板を先頭で駆け抜けた。

重賞初勝利が、GⅠ制覇の偉業となった。
初勝利を挙げた前年の3月から、ちょうど1年ほどで、セイウンコウセイはスプリント王者に上り詰めた。

「セイウン」の勝負服がGⅠを勝利したのは、1998年のセイウンスカイ以来19年ぶり。
西山茂行オーナーの名義としては、初めてのGⅠ勝利。
生産の桜井牧場もまた、生産馬が初めてのGⅠ勝利。
さらには父・アドマイヤムーンにとっても、初めての産駒GⅠ勝利となった。

春の雨が降りしきる中京に、初めての歓喜が、いくつも重なった勝利だった。


春秋スプリントGⅠ制覇のかかった同年秋のGⅠスプリンターズステークスでは、レッドファルクスの11着と崩れたものの、その後もセイウンコウセイは堅実に走り続けた。

歴戦のスプリンターが集う短距離戦線は、消耗も激しいとされる。
しかしセイウンコウセイは、その名の「恒星」のごとく、確かな輝きを長く放ち続けることになる。

その輝きは、多くの人を照らしてきた。
たとえば、半年間の騎乗停止が明けた、松田大作騎手。
11月のGⅢ京阪杯から、西山オーナーはセイウンコウセイの手綱を松田騎手に戻した。

翌2018年のGⅢシルクロードステークス2着と結果を出すと、連覇のかかるGⅠ高松宮記念でも、西山オーナーは松田騎手に手綱を託し続けたのである。
「1年前の忘れもの」を取り戻さんと、松田騎手は好スタートからハナを奪う積極的な競馬を見せる。
結果はファインニードルの6着と敗れたが、セイウンコウセイの背に松田騎手がいたことが、なんとも美しかった。

同年夏のGⅢ函館スプリントステークスでは、初コンビを組んだ池添謙一騎手と1年3か月ぶりの勝利を飾る。
好スタートから逃げ、直線で粘り強く伸びる、得意な形で押し切った。

それから低迷期に入るも、セイウンコウセイは翌年の2019年高松宮記念で、幸騎手とともに2度目の戴冠を狙った。
好スタートから逃げを打ったものの、3コーナー手前からモズスーパーフレアとラブカンプー2頭に絡まれ、ハナを奪い返される厳しい展開。それでもリズムを崩すことなく、直線では抜群の手応えで伸びる。
しかし、内から伸びてきたミスターメロディにわずかに半馬身届かず、惜しくも2着となった。

高松宮記念は、4歳時から5年連続で出走。
出入りの激しいスプリント戦線の中で、セイウンコウセイは8歳までタフに走り続けた。

勝ったレースも、負けたレースも。
セイウンコウセイは、いつも懸命に走り続ける姿を、ファンに見せ続けてくれた。
その姿は、2010年代後半の短距離戦線には、欠かせないピースだった。

ラスト・ランとなった、2021年12月25日のGⅡ阪神カップ。
中団から脚を伸ばしての6着で、セイウンコウセイはターフに別れを告げた。

2歳のデビューから6年半で、積み重ねてきた戦績は42戦7勝、うち重賞2勝。
タフな短距離戦線で、大きな怪我もなく走り続けたことは、何よりも素晴らしい。

2022年1月5日、競走馬としての登録を抹消され、北海道のアロースタッドに旅立った。
その別れを惜しんで、上原厩舎では手作りの引退式が行われ、スポーツ紙のYoutubeチャンネル(※2)でその様子が公開された。
ファンに愛され、関係者に愛された、セイウンコウセイらしい引退式だった。

これからは、アドマイヤムーンの後継種牡馬として、第二の馬生を送ることになる、セイウンコウセイ。
その血を受け継いだ産駒は、「恒星」の名のごとく、輝きを放ち続けるのだろうか。
その産駒に逢える時を、楽しみに待ちたい。

たとえ分厚い雲が、夜空を覆っても。
その先には、いつも変わらず、輝く星があるように。
長くスプリント戦線で輝き、走り続けた、セイウンコウセイ。

今年もまた、春がやってくる。
GⅠ戦線の開幕を告げる高松宮記念が、やってくる。

出馬表に、あなたの名前がないのは、寂しくもあるのだけれど。
その名のごとく、いつも輝きを放ち続けた、あなたの走りに。
しばし、想いを寄せていようと思う。

写真:Horse Memorys、かぼす

■出典・引用

(※1)西山茂行オフィシャルブログ 西山牧場オーナーの(笑)気分「セイウンコウセイお疲れさま」(2021年12月30日)
(※2)東スポレースチャンネル「セイウンコウセイ引退式~北海道へ」

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