[連載・クワイトファインプロジェクト]第21回 10年前に…。

あえて、いつもと違って短いタイトルにしてみました。

ちょうど10年前の2013年1月のある日、私は福山競馬の事務局に電話をかけました。すでに廃止が決定されていた福山競馬にいるクワイトファインを譲り受けたかったのです。その日が、事実上「トウカイテイオー後継種牡馬プロジェクト」の始まった瞬間かも知れません。

管理する吉井調教師に連絡を取りたいという見知らぬ馬主からの連絡に、福山競馬の事務局の方は誠実に対応してくれました。訪問日に吉井さんは所用で不在だったものの、調騎会会長の高本調教師(現園田競馬)とのアポイントを設定してくれたのです。

その後、吉井さんとも連絡が付き、福山競馬の全日程終了後にトレードするということで話がまとまりました。

当時は今と違い、サラオクのような制度もなく、馬の売買は9割方個人の伝手で探す時代でした。今でも思うのですが、福山競馬の廃止という出来事(それ自体は残念なことですが)がなければクワイトファインのトレードもなかっただろうと思います。現に、私はその後何頭かのトウカイテイオー産駒のトレードを持ちかけますが、誰一人応じてはいただけませんでした。

 そして、10年の月日が流れました。

 当時はほぼ無名だったクワイトファインは、多くの方々に支えられ、種牡馬4年目を迎えようとしています。

昨年10月から始めたYoutubeチャンネルでは、漫画家の坂崎ふれでぃさんとコラボいたしました。坂崎ふれでぃさんは「史実でウマ娘」という漫画を同人誌で描いていらっしゃり、大変な人気を博しています。お陰様で、You Tubeチャンネル登録者数も総視聴時間も大きく伸ばすことができました。

しかしながら、「同人誌」も「You Tubeチャンネル」も、これまでの競馬メディアとは一線を画すものです。競馬メディアは、最近でこそ「ウマフリ」さんのような既成概念に囚われずフェアに競馬情報を伝えるメディアも現れましたが、紙媒体を中心とする既存メディアやテレビ、ラジオ等は相も変わらず我がプロジェクトには見向きもしません。
坂崎ふれでぃさんが、クワイトファインプロジェクトに誘われて北海道で牧場巡りを行ったというツイートは82万人弱の人々が目にし、1万人以上の「いいね」がついています。動画でも漫画でも語っておられたように、競馬歴1年ちょっとの坂崎ふれでぃさんが約100万人の心を動かしています。彼の漫画から競馬に関心を持つ人も多いでしょう。
既存メディアにそんな力があるのか、新しい競馬ファンを開拓する力が既存メディアにあるのか…とすら、感じました。

私は立場上、現実の流通ルートにクワイトファイン産駒を乗せるために活動を展開しなければなりません。もちろん、クワイトファインをゴリゴリのアメリカ血統の輸入牝馬と交配させて、ダートの強豪を生産することも、血統好きのコアなファンの方々にとっては一種のロマンだと思いますし、そういう馬を生産すれば買い手も付きやすくなるでしょう。それが現実です。

 しかし、多くの競馬ファンの皆様が望むのは、やはり、馴染みのある名馬達、アルファベットではなくカタカナ名前の名馬達の血を受け継いだ馬が活躍することなのです。
 私が2年続けて配合相手にバトルクウという牝馬を選んだ理由は、もちろん人的、経済的理由があることも否定はしませんが、ミスプロ、サンデーという「日本的なアメリカ血統」も含んでいる上にトウショウボーイの4×4のクロスも出来ることから、普通に芝、ダートどちらでも走る仔が出来る可能性を秘めていると思ったからです。それに、祖母が桜花賞馬シスタートウショウです。
 人気面でも、ポテンシャルの面でも、そこまで莫迦にされる配合ではないと思うのですが。
 そして、このような、「ファンが望む馬」を、ファンに楽しんで貰うべく商品化することは、極めて全うなビジネスモデルかと思うのですが…違いますか?

2023年という、クワイトファインプロジェクトが始動して10年の節目の年、今年産まれる4頭の産駒たちの状況によっては、プロジェクトは存亡の危機に立たされる可能性もあれば、話題を独占する…は言い過ぎかも知れませんが多くの注目を集める可能性もあります。

しかし、主催者の私の責務としては、「常に最悪の事態を想定して準備する」ことに尽きます。4月以降の「想定される最悪の事態」に向けた方向性も腹を固めています。もちろん、そうならないことを祈っていますが、運命は変えられません。運命を受け入れた上でそれに対してどんな戦いを挑むのか、その時に人間の力が問われます。

……とは言え、競馬は娯楽です。ファンの皆様や関係者を楽しませること、幸せにすることが使命です。だから、このコラムも、You Tubeチャンネルも、プロジェクトの運営も基本は明るく楽しく。多くの人を幸せにするためのベストアンサーを求めることが大事だと思います。

まずは、心静かに、出産の時を待ちましょう。

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