[連載・クワイトファインプロジェクト]第24回 大いなる野望

私はことあるごとに「今のヨーロッパの血統はサドラーズウェルズばかり」と書いていますが、なかでも最も成功を収めているのはガリレオということになるのでしょうか。実際、サドラーズウェルズ産駒の種牡馬は何頭か日本にも輸入されていますが、後述するオペラハウス以外は、大きな成功を収めた種牡馬はいないでしょう。

私が繰り返し主張している「血統の多様化」は、あくまでバイアリーターク系やゴドルフィンアラビアン系、または主流でもファラリスより以前に枝分かれしているハイペリオン系やリボー系(最近ではバイアリーターク系だという説もありますが)等を残すことで、多様な血統から多様なサラブレッドが産まれ、その血統が後々までも活性化していくことが真のあるべき姿だと思っています。

 しかし、サンデーサイレンスの没後20年経ってもいまだサンデーサイレンス系の種牡馬ばかりが人気を集めている我が国において、せめてノーザンダンサー系のもう1本の柱があれば、もう少しバランスが保たれたであろうと思っています。

 そんななかで、実質ノーザンダンサーの中でも「勝ち残り組」のトップを走るサドラーズウェルズ系種牡馬から誕生した2頭の牡馬が、20世紀から21世紀に差し掛かる時期の日本競馬を大いに盛り上げたことは、読者の皆様もご記憶に新しいところではないでしょうか。

オペラハウス産駒の、テイエムオペラオー号とメイショウサムソン号です。

この2頭、何かと共通項が多いです。単なるGⅠ馬というだけではなく、個人オーナーの所有であること、社台グループの生産馬ではないこと、牡馬クラシックを始めとする9大競走(8大+JC)を複数勝利していること、いわゆるトップジョッキーのお手馬ではなかった(メイショウサムソンは途中から武豊騎手に乗り替わりましたが、ダービー制覇は石橋守騎手です)こと……。

 オペラハウスは、1988年生まれの英国産馬。父サドラーズウェルズ、母カラースピンもG1馬です。母父ハイトップはネアルコ系の傍流ダンテの血を引く種牡馬で、現役時代はマイル以下の距離で活躍しましたが、ブルードメアサイヤーとしては中長距離に適性を発揮し、オペラハウス以外にも日本になじみのある馬ではイブンベイの母父としても知られています。

オペラハウス自身は、3歳時は故障でクラシックは出走できなかったものの、5歳時にキングジョージなどを制したことが評価され、引退後すぐ日本軽種馬協会で種牡馬入りしました。サドラーズウェルズ系の欧州での大成功を鑑みるに、オペラハウスも最初何年間かでもヨーロッパで種牡馬入りしていれば、また違った世界線があったのかも知れません。ただ、日本でも2年目の産駒からいきなりテイエムオペラオーという大物を輩出します。

 テイエムオペラオーについては、私ごときがここで書くよりも、ウマフリさんで本も出されていますし、読者の皆様のほうがよくご存知かと思います。

この頃は、社台系・非社台系問わず数多の名馬がターフを沸かせ、サッカーボーイ産駒もまだ現役でオープンを張っていた、競馬界にとって希望があった最後の時代かも知れません。そんな中でも、テイエムオペラオーはひときわファンの多い馬です。非サンデー血統であること、日高の牧場の生産であったこと、個人オーナー所有であったこと、きゅう舎所属の若手ジョッキー和田竜二がデビューから引退まで乗り続けたこと、同世代のライバルの存在、どのレースもぎりぎりで勝つところ等、日本人が好む「ロマン」の要素がこれでもかと言わんばかりに詰め込まれています。

 そして、これだけの実績を持った名馬でありながら、種牡馬としては中央の平地重賞勝ち馬を輩出することはできませんでした。

 種牡馬入りの経過については、星海社新書「テイエムオペラオー伝説 世紀末覇王とライバルたち」P86~P88にありますが、社台スタリオン入りが叶わず竹園オーナーの個人所有となったそうです。竹園さんには日高の中小生産者の負担にならないようというご配慮も当然あったと思いますが、これにより繁殖牝馬が限定されてしまったこともあり、大物産駒を輩出することは出来ませんでした。むしろ、G1勝ちは1つしかなかったナリタトップロードの方が、G2馬ベッラレイアを送り出しているのですから不思議なものです。

 竹園さんのような大オーナーをもってしても、種牡馬1頭を繋養し続け、結果を出すのは本当に至難の業です。

 それを、私のような1サラリーマンの零細馬主が同じことをやろうとしているのですから、もはや狂気の沙汰と言っていいことなんですよ、本当は。応援していただいている皆様には本当に頭が下がります。しかし、前回のコラムでも書いたように、私たちのプロジェクトは世界の生産者の思いと共通であり、自然交配によるサラブレッド生産という文化を守り続けるという錦の御旗があります。もうしばらく、狂気の沙汰にお付き合いいただければ幸いです。

最後に、今回のコラムのタイトルは、豊田行二氏が1988年に上梓した小説のタイトルであり、竹園正継オーナーがモデルとなっているとのこと(出典:優駿2000年8月号)。まだ企業家としても馬主としてもバリバリの現役で、なおかつ小説のモデルにもなっているという……凄いを通り越して、言葉が出ません。私も、男に生まれたからには、何か一つでも後世に名を残せるような人生を送りたいものです。

写真:かず、Horse Memorys

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