[連載・クワイトファインプロジェクト]第25回 予定日1週間を切りました

先週もお伝えした通り、3月中にバトルクウ、ガレットデロワが出産予定日を迎えます。今年の4頭のうち3頭がいずれも中央重賞勝ち馬の孫で、なかでもガレットデロワは父エピファネイア、母父ディープインパクトであることから大変注目を集めています。一方で、ダイイチルビーを祖母に持ちクワイトファインとの配合ではトウショウボーイ4×4のクロスが発生するイットーイチバン(予定日5月1日)も今から楽しみです。本当に、よくぞこれだけの良血馬がクワイトファインを選んでいただいたものだと、改めて感謝の念でいっぱいです。

一方で、唯一の私の繁殖(借り腹)であるバトルクウですが、この仔が牡・牝どちらで生まれるかは、私の資金繰り=プロジェクトとしての資金繰りを大きく左右します。隠さずに言えば、何よりもここで牡馬が産まれてほしいというのが本音です。

とは言え、世の中はだいたい思い通りにならないものです。プロジェクトを始めて以来、いや、今から10年前にクワイトファインを吉田オーナーから買い受けて以来、表には出していないだけで思い通りにならないことの方が圧倒的に多いです。なので私は、もし今年もバトルクウの仔が牝馬だったら……というシミュレーションに、ほぼ1年を費やしてきました。シミュレーションだけでなく、水面下でも動いていました。

 その中で、競馬界の世論の風当たりの強さを痛感しているわけですが、一方で見えてきたものも少なからずあります。

以前もこのコラムで取り上げましたように、多くの生産者は本来、血統が寡占化、集中化してしまうことなど望んではいないはずです。今はJRAの重賞勝ち馬ですら、サンデーサイレンスの3×3クロスは珍しくもなんともありません。今後はそれがディープインパクトに置き換わるだけのことで、血統の寡占化はとくに繁殖牝馬レベルでは看過できないレベルまで来ているのではないでしょうか。

それにもかかわらず、最近でこそフランケル系の大物種牡馬が輸入されてきていますが、今なお人気なのはシルバーステート(ディープインパクト産駒)、キタサンブラック(ディープインパクト全兄ブラックタイド産駒)といったサンデー、ディープ直系の種牡馬が圧倒的に多いです。

とは言え、オーナーさんの「走る馬が欲しい」という欲求は絶対です。生産者はそれには逆らえません。ヨーロッパでも同じことでしょう。ヨーロッパではその結果がサドラーズウェルズ一人勝ちを招き、日本ではサンデーサイレンス一人勝ちを招いた。

しかし、走る馬が欲しい、それだけが絶対的天の声であるなら、私のプロジェクトがこれだけの支持を集めることはなかったはずです。

マルゼンスキーやノーザンテースト、さらに言えばオグリキャップでも、サイヤーラインとしては絶対的主流血統のファラリス系です。一方で、トウカイテイオーはもちろん競走馬としても超一流のスターホースですが、単にスターというだけなら、それこそ近い世代のオグリキャップ、ビワハヤヒデ、ウイニングチケット、その後に綺羅星のごとく現れたマヤノトップガンにサクラローレル、フジキセキなどサンデーの初期の産駒たち、前回取り上げたテイエムオペラオーなど、トウカイテイオーと同等かそれ以上のスターホースはたくさんいるわけです。

では、誰がその血を守ろうと立ち上がったか? そしてこれだけの支持を集めたか?

私のプロジェクトを支持していただいている皆様にとっても、理由が1つでないことは承知しています。そして、私が今まであえて言葉として避けてきた「競馬のロマン」を追い求めている方も多いでしょう。国際血統書委員会自ら、「血統の多様性こそ競馬の魅力」と言っているわけですから、もう避ける必要もないのですが、私はあえてこう思っています。

シンボリルドルフとトウカイテイオーが今なお支持を集める大きな理由は、やはり「パーソロン系の後継だから」ということなのではないかと。

それは、人によっては「ロマン」であり、人によっては「血統の多様性」であり、人によっては「内国産サイヤーラインの継承発展」であり、とらえ方は様々になりますが、やはりパーソロン系から「2代続けて無敗のダービー馬が誕生した」こと、そのことが「日本競馬」の1つのアイデンティティであり、今なおこの血統が支持を集める大きな理由の1つになるのではないかな、と思うのです。

さて、次回コラム(4月1週)の頃には少なくともバトルクウの仔は生まれているでしょう。もしかしたら緊急コラム、緊急動画などの対応があるかもしれませんが、いずれにせよ、これからの戦いは、これだけの支持、そして大義名分を、いかにして「市場価値」に変えるか、シンプルに言えばそれだけの戦いです。

これから先、いろいろな批判や反対意見も出てくると思います。しかし、これから先も血統はもっともっと寡占化、集中化すべきである、という明確な理念を持っている人(人工授精賛成派も含め)以外は、少なくともこのプロジェクトに反対するのならそれ相応の理論武装をしていただきたいものです。私は、血統の多様性を守るという絶対的な大義名分になら殉じてもいいと思っています。反対派の方も、議論は大歓迎ですが、反対するならするで命がけで反対してほしいな、と思います。

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