サマー2000シリーズ第3弾の小倉記念。2020年は、3連単の配当が100万円を超えるなど、数年おきに波乱の決着となっている。2021年は、レース当日にアールスターが取り消して出走9頭の少頭数。重賞勝ち馬も不在で、なおかつ稍重馬場での開催は7年ぶりと、例年にはない条件の下で行なわれた。
単勝オッズ10倍を切ったのは6頭と大混戦。その中で、1番人気に推されたのはファルコニアだった。ここまでの全11戦で5着以下に敗れたのは1度のみと、堅実な成績。オープン昇級初戦となった前走のエプソムカップも3着と好走し、今回は初の重賞制覇が期待されていた。
2番人気に続いたのはヴェロックス。2019年の牡馬クラシックでは、皐月賞2着、ダービーと菊花賞で3着に好走。世代トップクラスの実力を示したが、脚部不安による長期の休養に見舞われるなど、意外にも重賞は未勝利。ただ、今回のメンバーでは明らかに実績上位で、悲願の重賞制覇となるか、注目が集まっていた。
3番人気はショウナンバルディ。現在、3戦連続3着以内と安定した走りを続け、近2走は、重賞で3、2着と好走。特に、2走前に先着を許したユニコーンライオンは、次走の宝塚記念で2着と好走しており、重賞タイトル獲得は目の前に迫っていた。
僅差の4番人気は、ダブルシャープ。地方のホッカイドウ競馬でデビューし、2歳時のクローバー賞では、後のGⅠ馬タワーオブロンドンに勝利。その後、中央に転入し、条件戦を突破するのに時間はかかったものの、常に安定した走りを続け、前走ついに3勝クラスを卒業。5戦2勝2着2回と得意の小倉コースで、重賞初制覇を狙っていた。
以下、人気はヒュミドール、モズナガレボシ、グランスピードの順で続いていた。
レース概況
ゲートが開くと、出遅れのないきれいなスタートから、予想どおりグランスピードがハナを切る展開に。2番手はショウナンバルディ。その後ろに、ヴェロックスとファルコニアが併走し、上位人気馬3頭が先行集団を形成した。
その半馬身後ろにテーオーエナジーがつけ、1馬身差で、ダブルシャープとヒュミドールが並走。最後方に、スーパーフェザーとモズナガレボシの8枠2頭が控えていた。
前半の1000m、1分1秒4のスロー。先頭から最後方までは、およそ6~7馬身とほぼ一団の隊列。
1000mを通過すると、一転してピッチが上がり、ファルコニアとヴェロックスが先頭に並びかける。一方のショウナンバルディは、急なペースアップについていけずやや後退。ダブルシャープが、楽な手応えのまま先団3頭を追い、後方にいたスーパーフェザーは、4コーナーで内を突いて一気に差を詰め、レースは最後の直線へと入った。
迎えた直線勝負。今度は、コーナリングでスーパーフェザーが先頭。残り200mの標識を前に2番手以下が横一線となる中、そこから上位人気馬は伸びを欠いてしまう。その一方で、大外に進路を取ったヒュミドールとモズナガレボシが、勢いよく追い込んできた。
残り50m。スーパーフェザーを交わした2頭が併せ馬で抜け出すも、最後はモズナガレボシが体半分リードし、そのまま1着でゴールイン。2着にヒュミドール、2馬身半差の3着にスーパーフェザーが粘り込んだ。
稍重の勝ちタイムは、1分59秒7。
格上挑戦のモズナガレボシが、グランプリボス産駒として、初の受賞ウイナーに輝いた。
各馬短評
1着 モズナガレボシ
前述したとおり、3勝クラスからの格上挑戦が実を結び、初の重賞制覇。10レースの博多ステークスにも出走できる立場ながら、積極果敢なレース選択で、最高の結果をもたらした。
1年前の現時点では、初勝利を挙げられずもがいていたが、未勝利戦が終わった10月末。新潟の1勝クラスに出走し、16戦目にして待望の初勝利を挙げた。すると今度は、2000m、2600mと、父が現役時に活躍した舞台とは似ても似つかぬ距離帯のレースを勝利し3連勝。その後、3勝クラスでは4戦2着1回3着2回と好走するも足踏みしていたが、一気に重賞タイトルをもぎ取った。
現状だと、天皇賞秋などの超ビッグレースとなるとさすがに厳しいかもしれない。しかし福島記念や中日新聞杯など、ローカル小回りの重賞では、この先、何度も上位争いを演じる心強い存在になってくれそうだ。
2着 ヒュミドール
こちらは、デビュー2戦目からダートで10戦して2勝。その後、久々に出走した芝のレースで勝利すると、3勝クラスも2戦で卒業。オープンに昇級してから5戦。前々走の新潟大賞典以外は、堅実な走りを見せてきた。
勝ち馬と同様、切れる脚はないものの末は確実で、大崩れはあまりないタイプ。持久力に秀で、モズナガレボシとは、今後も何度か対戦の機会がありそう。
3着 スーパーフェザー
こちらも、3勝クラスからの格上挑戦が実り激走。武豊騎手が狙っていたという、4コーナーで内を突く作戦が功を奏すも、最後に足が止まってしまい、ゴール前で上位2頭に捉えられてしまった。
元はといえば、セレクトセール1歳市場で、税込2億8080万円という超高値で取引され、3歳時は、青葉賞で1番人気(3着)に推されたほどの馬。その後、去勢手術を受けたり、ダート戦を走ったりとこちらも苦労人で、2走前、実に3年ぶりとなる勝利を挙げていた。
次走、自己条件に出走しても確勝とはいえないが、一時のスランプは脱している様子。6歳夏でキャリア21戦。老け込むにはまだ早い。
レース総評
前半1000m通過が1分1秒4とスローだったため、後半1000mは、一転して58秒3の速い流れ。後傾ラップのレースとなったものの、前半1000m通過時点で、最も後ろにいた3頭が上位を独占するという結果になった。
小倉記念は、毎年のようにロングスパートの持久力勝負になるレース。小回りコースのわりに逃げ先行馬が苦戦し、最後の200mを切ってから持久力やスタミナに秀でた馬が差してくることが多い。前走でも後方に位置していた馬が強く、血統面では、ヨーロッパ系の血──特にトニービンやナスルーラ・ディクタスといった血を持つ馬が好成績を収めている。
今回の上位3頭は、どちらかといえば持久力勝負が得意なタイプ。その反面、勝ち上がるのに苦労し、ダート戦にも出走するなど、上位人気馬たちにはない経験を積んできた。
近年、未勝利戦の終了時期がどんどん早まっているが、競走馬が全盛期を迎えるのは、一般的に4歳の秋頃と言われている。勝ったモズナガレボシは、未勝利戦を勝ち上がれなかったものの、初勝利からわずか1年足らずで重賞制覇を実現。こういう苦労を重ねてきた馬の勝利は、競走馬に携わる多くの人々に、勇気と希望を与えたのではないだろうか。
写真:アン