[重賞回顧]新たなる覇者へ、強心臓覚醒の時~2022年・エルムS~

早くも8月の第1週を終えようとする夏。世間では甲子園開幕を目前に控え、炎天下の灼熱で熱戦が演じられようかという8月7日、競馬界では北陸の地と北の大地でそれぞれ砂塵の熱き戦いが火ぶたを切った。

新潟では3歳世代だけでは最後のダートグレード重賞となるレパードSが行われ、これからの秋で歴戦の猛者たちと対峙するこであろう粒ぞろいの若駒たちが激突。一方、札幌では実績・経験ともに豊富なダートの猛者が集うエルムSが開催された。

過去の勝ち馬を見てもタイキシャーロックにアドマイヤドン、パーソナルラッシュにローマンレジェンドなどの名馬がずらり。ここを経て秋の大レースに挑む馬も少なくなく、近年で言えばロンドンタウンなどがコースレコードの余勢を駆って韓国へ渡り、見事コリアCを制している。

今年の話題の中心は水口優也騎手とのコンビでここまで連戦連勝のブラッティ―キッド。中央を未勝利で終わるも園田・姫路で5連勝を挙げ、勇躍帰ってきた中央で3連勝。いずれも強い勝ち方だったことから、拮抗したオッズの中でも最終的には5.2倍の1番人気に推されていた。

続く2番人気に函館・マリーンSの4着からの参戦となるオメガレインボー。重賞でも惜しい競馬が多く、本年のマーチSでは3着に好走。昨年のエルムSでも2着と好走しているだけに、そろそろ重賞タイトルが欲しいところ。3番人気に大沼Sを逃げ切ったアイオライトが推され、それに続いて東海S馬で前年のエルムS覇者スワーヴアラミス、前走のプロキオンSで1年ぶりながら4着に突っ込んできたロードレガリスまでが上位5番人気までに支持されていた。

レース概況

この日の札幌は強い風が吹き、大きな砂埃が競馬場を舞っていた。

スタートと同時に黄色い帽子のG1馬、ダノンファラオが大きく立ち遅れる。ただし、そのほかの馬はそれほど大きな出遅れもなく横並びでスタートを切った。

内枠から好スタートを切ったアイオライトと菱田裕二騎手が前走の再現を図るべく手綱をしごいて先頭に立つと、それに追随する形で武豊騎手とウェルドーンが2番手へ。やや行きたがる相棒を少し抑えながらピタリと2番手につけた青い帽子を見つめるように、オメガレインボーとブラッティーキッドの人気2頭がすぐ後ろに構える。

前走で大波乱を巻き起こしたヒストリーメイカーも乗り替わった池添謙一騎手の合図に応えるように先団につけ、好位集団はほぼ一団で1コーナーを迎えていき、それを追走する中団馬群も出遅れたダノンファラオを除いてはそれほど離れることなく追走していた。

強風が砂塵を巻き上げて濛々と砂埃を噴き上げる中、依然変わらずアイオライトがペースを作る。

1000mを1分1秒ほどのペースで進む中、ここで早くもアメリカンシードが後退。それに呼応するかのようにここまで一団に近かった馬群がばらけ始めた。

後方に位置していた各馬は早くも気合をつけて進出を開始し、後退するアメリカンシードを尻目にロードレガリスと富田騎手が鞭をしばいて進出を開始。内につけていたダンツキャッスルも同時に進出するが、ロードレガリスの勢いには及ばない。前年覇者のスワーヴアラミスも同じようにまくり始めるが、速くなる先行馬群についていくことができないまま、4コーナーへと向かい始めた。

最後の勝負所に差し掛かる直前で、好位につけていた馬達の勝負になることはほぼ確定とも言える展開となっていた。

4コーナー入り口でここまでレースを引っ張って来たアイオライトを外からマークし続けたウェルドーンと武豊騎手がはかったように先頭へ。内でアイオライトも抵抗するがやや苦しく、その外からオメガレインボーが進出。挟まるような恰好で道産子ジョッキー丹内祐次騎手跨るフルデプスリーダーも仕掛け、ブラッティーキッドは苦しくなったかやや後退していった。後方勢は捲ってきたブラックアーメットとロードレガリスが目を引く程度だった。

残り200m。抜け出したウェルドーンのリードは2馬身ほどある。鞍上・武豊騎手のメモリアル勝利は目前だった。

──だが後ろから各馬も猛追。初の重賞制覇を賭けるフルデプスリーダーとオメガレインボーが競り合うような格好でウェルドーンに急襲。更に1度は後退したはずのブラッティーキッドがヒストリーメイカーをとらえ、またもう一度ものすごい勢いで伸び始めている。

残り50mでオメガレインボーの脚色はやや鈍ったが、外から伸びるフルデプスリーダーの勢いは止まらない。鞍上、丹内騎手の豪快なフォームが、武豊騎手のしなやかなフォームと共に粘る武豊騎手ウェルドーンを確実に追い詰め、最後はクビ差捉えて北の大地のゴール板を駆け抜けた。

上位入線馬と注目馬短評

1着 フルデプスリーダー

重賞初挑戦で初制覇を成し遂げた同馬。マリーンSからの転戦で連勝となった。

OP入りしてからもヘリオスやバディスティーニ、レモンポップら重賞・リステッドクラス常連のダート馬たちと熱戦を繰り広げてきた。その経験によるものか競り合いには滅法強く、今回も狭い位置からオメガレインボーを競り落とし、前で粘るウェルドーンまでとらえてのタフな勝ち方だった。スタートからノンストレスで走れているわけでもなく、フルデプスリーダーはもしかするとかなりの強心臓の持ち主かもしれない。今後、先団からタフなレースになったとしても、G1等の大舞台で台風の目になる可能性まで出てきたのではなかろうか。

鞍上の丹内祐次騎手は前年の目黒記念以来となる重賞制覇。この勝利で2020年のリンゴアメ(函館2歳S)、21年ウインキートス(目黒記念)に続く3年連続の重賞制覇も成し遂げた。

次走以降で騎乗するかはまだ不明ではあるが、コンビ継続であれば函館×新冠の道産子コンビに期待したい。

2着 ウェルドーン

前年の関東オークス馬で、ジャパンダートダービーでも3着に入った紅一点の同馬が、重賞では久々となる好走を果たした。

前年のクイーン賞で大敗して以降、明らかに調子を崩しているように思われていたものの、前走のマリーンSでフルデプスリーダーの2着と復調の兆しを見せていた。今回も先行抜け出しで完全な勝ちパターンに思えたものの、前走同様またも勝ち馬の後塵を拝する結果になってしまった。

レース後コメントにもあったように「抜け出すとふわふわして……」という面が今回も出てしまったのだろうか。いかに最後まで気を抜かずに走るかが今後も課題となってくるだろう。

とはいえ、牡馬混合の重賞でこれだけの実績を残している同馬。昨年のマルシュロレーヌ然り、ダート戦線の最前線は今後も十分に張ってくれるだろう。

3着 オメガレインボー

前年2着の同馬が、またしても惜敗となる3着。

これで重賞出走8回中4回複勝圏という結果となった。鞍上の横山和生騎手の「この位置でこんなにうまくいくのかというくらい良いリズムで追走できましたが」というコメントからも読み取れるように、展開ひとつ、位置ひとつで確実に重賞を取れる器ではあるだろう。同馬主のオメガパフュームに負けないくらい、今後もダート重賞戦線で存在感を放ってほしい。

4着 ブラッティーキッド

中央転入後初の敗戦となる4着。2走前の函館でも勝負所で完全に置かれる場面もあったことから、ややギアがかかるまで時間のかかるタイプなのかもしれない。それでも立て直した後の加速は流石の勢いで、むしろまだまだ伸びしろを感じる走りだった。秋以降、どのようなローテーションを組むかは不明とはいえ、今後も注目したい一頭であることは間違いない。

5着 ロードレガリス

復帰後2戦続けて掲示板に入る5着。今回も後方勢からは唯一の上位進出だった。上り最速で突っ込んできた末脚は大きな武器だろう。

園田で連勝し、中央転入後にも存在感を放ってきた同馬が遅咲きの覚醒となる日は近そう。

総評

後方に位置していた馬のなかで、最高着順はロードレガリスの5着。他はそのまま全く伸びずに終わってしまっていたことからも、かなりの前有利だった展開なことは間違いない。とはいえ先団から馬群を割くように強襲したフルデプスリーダーとオメガレインボーの末脚、そして2戦続けて勝負根性を証明して見せたフルデプスリーダーにとっては大きな1勝となったことだろう。生産者の村田牧場は今年の重賞勝利を「3」(阪神大賞典・ディープボンド エプソムC・ノースブリッジ)として、秋の仏遠征へと繋がる弾みを北の大地から渡した形になっただろうか。また鞍上の丹内祐次騎手はこの時点でリーディング順位16位と、ここ3年間の中でもかなり好調と言える。このまま秋のG1戦線に繋がる活躍を遂げてもらいたい。

砂の舞台は今年も熱戦。この5分後には新潟で次代を担う若武者たち3頭の大接戦も繰り広げられ、この後に控えるダート戦線にはチュウワウィザードや帝王賞を制したメイショウハリオ、異次元の東京大賞典4連覇馬のオメガパフュームに昨年のチャンプテーオーケインズなど数々の猛者が待っている。芝に負けず劣らず、今後のダート路線にも益々目が離せなくなりそうだ。

写真:安全お兄さん

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