[重賞回顧]駆け抜ける末脚は母譲りか、父譲りの覚醒か~2022年・オールカマー~

その昔、地方馬との指定交流競走として名付けられたレース、オールカマー。

その名の通り各地からどんな馬でもウェルカム。過去にはハシルショウグンやジュサブローなど、地方から遠征してきた数々の名馬たちがいた。今では外国馬にもその戸が開かれている一方、中央馬にとっても秋の大舞台への試金石となる重要な一戦となっている。

今年の1番人気は、2.0倍で3冠牝馬デアリングタクト。

秋華賞で鮮やかな牝馬3冠を達成し、アーモンドアイに挑んだ、2年前の3歳シーズン。年が明けて金鯱賞・香港と悔しい結果が続いた後、繁靭帯炎を発症してしまう。今年のヴィクトリアマイルで復帰後、宝塚記念を3着とした同馬が復帰後の初勝利を目指してきた。

続く2番人気には、昨冬のチャレンジC以来の実戦ながらソーヴァリアントが推されていた。昨年のこの時期、セントライト記念で2着としながらも一頓挫あって菊花賞を回避。心機一転望んだチャレンジC快勝後、再び脚部不安で長期休養せざるを得なかった。復帰初戦とはいえその勝ち方と走りには注目が集まっていたのは間違いなく、デアリングタクトともそれほど差のない3.8倍。

3番人気は前走鳴尾記念で鮮やかな復活を遂げたドリームジャーニーの息子、ヴェルトライゼンデが支持され、4番人気に今年の春一躍長距離戦線の主役に躍り出たテーオーロイヤルが続く。

それ以外にも、コントレイルが1冠目を手にした皐月賞以来となるクリスタルブラック、昨春の中山記念以来となるバビットら、ここを復帰初戦に選んだ馬たちも数多く、まるでいつかの無念を晴らすかのように名馬たちが復活あるいは復帰を目指し、中山2200のゲートに向かっていった。

レース概況

ロバートソンキーがやや躓いた以外はほとんど揃ったスタート。キングオブドラゴン、ウインキートスが前を主張するが、ここが1年半ぶりの復帰戦となるバビットが遅れず先頭へと向かって行く。その姿に場内からは歓声が沸き立ち、ウインキートスとキングオブドラゴンもハナを譲りつつそのまま好位集団へ。テーオーロイヤル、ソーヴァリアント、ジェラルディーナも好位グループの一角に位置し、ヴェルトライゼンデ、デアリングタクトは後方にポジションを取った。

後手を踏んだロバートソンキーも立て直して中団内ラチ沿いにつけていく。クリスタルブラックはデアリングタクトを見るように後方に位置してレースは進んだ。

そのペースは、1.01.1。名手・横山典弘騎手が操る貴公子は、そのペースを緩やかに落としてレースを作り上げていた。それはまるで、一昨秋のこの時期に逃げ切った舞台を再現するかのようだった。

そしてまた、先団から彼を見る各馬も、後方に位置した女王らも、自らのいつものレースペースを、自分の型を崩さぬよう淡々とレースを進めているように見えた。

800m、勝負ところに差し掛かるところでデアリングタクトと松山弘平騎手が外からまくるように進出を開始。先に動いたヴェルトライゼンデも勢いづいて先団各馬を射程圏にとらえ、さらにその大外からは弾丸のように黒鹿毛の馬体クリスタルブラックも躍動する。一方内の各馬、ジェラルディーナ、ウインキートス、ロバートソンキーらは押し上げるように動く外の各馬とは対照的、静かにその脚を溜めていた。

短い中山の直線、派手に追い出した外の各馬を尻目に先頭を行くバビットの逃げ足は全く鈍らず1馬身。1年以上のブランクなど感じさせないその粘りは、そのまま後続を封じるようにも、一瞬、思えた。事実、後方から伸びてくる馬はほぼ皆無。テーオーロイヤルもヴェルトライゼンデも、デアリングタクトももがいている。ソーヴァリアントは馬群に沈んで最後方。このまま決まってしまうのか。

しかし、心臓破りの坂を上りきったところで狭いところを割って出てきた黒い帽子、ジェラルディーナと横山武史騎手が急襲。あっという間にバビットを飲み込むと、外から追い込んでくるロバートソンキー、先団から伸びるウインキートスらにさらに差を広げ、初秋の中山、而して強き者たちの決戦を、鞍上の派手なガッツポーズとともに天下統一して見せた。

上位入線馬と注目馬短評

1着 ジェラルディーナ

内ラチから突き抜け、待望の重賞制覇。

鞍上の横山武史騎手も、まるで昨年のオールカマーでウインマリリンと共に駆け抜けたあのシーンを見返すかのような突き抜け方だった。

ジェラルディーナ自身も、近走では上がり最速を繰り出しながら善戦に終わるレースが続いていただけに、嬉しい勝利だろう。母ジェンティルドンナが最後の最後に師走の中山で見せたあの闘争心を確かに受け継いでいるようにも見えた。

母仔G1制覇へ、夢は続く。

2着 ロバートソンキー

伊藤工真騎手との絆も感じられるような人馬一体の追込だったが、届かず2着。

コントレイルに菊花賞で敗れて以降、地道に自己条件を制して辿り着いたこの舞台でも充分にやれることを証明してみせた。心残りはスタートで躓いたことか。

3着 ウインキートス

昨年の2着馬が、今年も好走した。中山はこれで【2,5,2,4】とかなりの良績。好位につけ、スムーズな展開ができるとかなりの好走パターンか。牡馬牝馬相手でもこれだけやれているのは流石の一言。昨年よりさらに成長したように感じられることからも、次走に選ぶレースは要注目。

4着 バビット

1年以上の休み明けながら、最後まで粘り通した栗毛の貴公子バビット。ここまで長期の休養明けでこれだけの走りができるのならば、まだまだ逃げ脚は健在ということが証明されたと言える。

次走は未定だが、充分に秋のG1戦線でも路線に乗ってくる候補だろう。

6着 デアリングタクト

折り合いも良く、直線も外を突いて上がってくるかと思われたが、そこからが案外だった。久々とはいえ、体調は上がっているとのコメント。外が伸びづらいトラックバイアスも影響したかもしれない。

ともあれ、まだまだ休養明け。過度に気を落とす事なく、次走以降の復活に期待したい。

7着 ヴェルトライゼンデ

こちらも、外から伸びきれず着外に。緩さも感じたという戸崎騎手のコメントから、まだまだ仕上がり途上だろう。今年の夏に見せた見事な末脚は今後の舞台で再度見せてくれるはずだ。

11着 クリスタルブラック

2年5ヶ月ぶりの実戦は11着。

しかし4コーナーでは勝利した京成杯を彷彿とさせる上がり方を見せていてくれた。ここを足掛かりに、また爆発的な末脚が見られる日を心待ちにしたい。

13着 ソーヴァリアント

10ヶ月ぶりの同馬は心房細動で最下位に沈んだ。だご、レース後、何事も無く厩舎まで帰還できたことが何よりだ。

素質は間違いなく一線級。ここからの立て直しを見届けたい。

総評

各馬がさまざまな思いを胸に挑んだこのオールカマー。実力馬がそろい踏みし、かなりのハイレベルレースだったことには間違いないない。

その中で、母譲りの勝負根性と末脚を炸裂させたジェラルディーナ。これまでに多くの強い相手と戦い続け、研鑽してきたその実力が花開いたことは、今後の展望に確かな明るい光をもたらしたことだろう。

父モーリスも覚醒したのは4歳のこと。このジェラルディーナも、この重賞勝利をきっかけに父、そして母に続く大舞台での活躍が期待できるのは間違いないだろう。そしてジェラルディーナに限らず、数々の馬たちが今後につながる走り、そして復帰戦を無事に走り切ってくれたりと、この後のレースへの期待は高まる一方となる走りを見せてくれていた。

ますます高まる秋G1戦線への期待。今後の彼らの躍動に、期待せずにはいられない。

写真:かぼす

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