2022年凱旋門賞の有力馬たちを、ステップレースで振り返る。

2022年の秋競馬で、最大の注目のレースとも言える凱旋門賞。悲願の凱旋門賞制覇を目指して、今年は4頭の日本馬が挑戦します。日本馬の活躍に期待したいですが、他にも有力馬が多数います。そこで、主要な前哨戦を振り返りつつ、凱旋門賞に出走する有力馬を紹介し、凱旋門賞の展望をしていきたいと思います。

過去の歴史から有力なステップレースを探り、そのレースを振り返る。

過去10年の凱旋門賞で連対した馬が20頭は、その前走でどのレースを使っていたのか? という点から、前哨戦を振り返っていきます。

まず、20頭中、最多である5頭の連対馬を出しているレースのひとつが、凱旋門賞と同コースのロンシャンで行われる古馬による前哨戦・フォワ賞。2012年、13年でオルフェーヴルが連覇した以外にも3頭の連対馬を出しています。同じく最多タイの5頭を出しているのが、欧州2000Mの最強馬決定戦とも言うべきレースの愛チャンピオンS。2015年のゴールデンホーン、16年のファウンド、20年のソットサスが、このレースから凱旋門賞馬に輝いています。

次いでトレヴの連覇、ソレミアが制したヴェルメイユ賞の3頭。17年、18年と凱旋門賞を連覇したエネイブルは17年と19年にヨークシャーオークスを経て凱旋門賞に挑み、17年制覇、19年は2着という結果を残しています。

斤量差が注目される凱旋門賞で、3歳牡馬のステップレースが少ないのが意外ですが、凱旋門賞を見据えた有力馬が使う前哨戦は限られているということが分かるかと思います。それでは各ステップレースを簡単に振り返っていきましょう。

フォワ賞(ロンシャン芝2400M)

日本時間の9月11日に行われた今年のフォワ賞。前年のニエル賞の勝ち馬のバブルギフトが1番人気に推されました。シャンティ大賞(G2)で2着、サンクルー大賞は3着(1着はアルピニスタ)と、実績上位な点を買われての人気でしょう。次いでオーストラリアの年度代表馬ベリーエレガント。豪州ではG1を11も勝った名馬で、凱旋門賞制覇のためにフランス移籍をしたのですが、欧州緒戦のジャンロマネ賞がまさかの最下位。フォワ賞での巻き返しなるか? と、注目されていました。さらに日本からはドウデュースの帯同馬マイラプソディが参戦し、6頭でレースが行われました。

レースはスローペースでベリーエレガントが逃げますが、各馬が6馬身ほどの間に収まるほどの密集した馬群で進み直線へ。直線では外目からマイラプソディが見せ場を作りますが、そこまで。あとはベリーエレガントが後続を少し突き放したところに1番人気のバブルギフトが迫って2頭の叩き合いとなりました。

しかし2頭が叩き合うなか、2頭の外に出したイレジーンが2頭をまとめて交わし、2着に約1馬身差をつける勝利をあげています。

勝ったイレジーンは素晴らしい切れを見せましたが、残念ながら騙馬のため凱旋門賞には出走が叶いません。2着のバブルギフトはここ数戦と同様に、力を見せたものの勝ち切れない面が露呈してしまいました。また、3着馬のベリーエレガントは欧州馬場への適性の低さが浮き彫りになってしまったレースと言えるでしょう。

愛チャンピオンS  (レパーズタウン芝2000M)

日本時間で9月10日に行われた愛チャンピオンS。こちらは7頭立てで行われ、1番人気はフランスの3歳牡馬のヴァレニとなりました。仏ダービー、エクリプスSとG1を連勝した勢いが評価されたようです。次いで2番人気タイだったのがミシュリフとルクセンブルク。前者はアイルランドの5歳牡馬で、21年にドバイシーマクラシックで、クロノジェネシス・ラブズオンリーユーに勝利した馬として日本の競馬ファンにもおなじみでしょう。ただ、22年はサウジカップでは21年とは前半のペースが違ったことや21年とは違う馬場の影響があったのか14着と大敗。その巻き返しが期待されていました。一方のルクセンブルクはアイルランドの3歳牡馬で、22年初戦の2000ギニーは3着。クラシックの有力候補でしたが怪我をして休養に入り、ロイヤルホイップS(G3)を勝ってここに参戦していました。R・ムーア騎手が騎乗するということも人気を後押ししたかもしれません。

レースは、逃げたストーンエイジがレース中盤から後続をやや引き離す展開に。2番手以降の一団に4馬身ほどの差をつけて逃げていきましたが、直線に入ると失速します。その後は各馬の差し比べになりましたが、直線の入口からはルクセンブルクとオネストの2頭が馬体を並べての叩き合いに。激しい2頭の競り合いになりましたが最後はルクセンブルクが競り勝ちました。2着はオネストで、人気のヴァレニは最内から迫るも伸び切れず3着。ミシュリフは後方から追い込むも4着まで、という結果でした。

メンバーレベルも高く、逃げ馬がいいペースで2番手以降を離していたので、後続はかなり長くい脚を使う必要があり、持続力と底力が求められる非常にハイレベルなレースになりました。前哨戦の中では一番ハイレベルなレースだったのではないでしょうか。

ヴェルメイユ賞  (ロンシャン芝2400M)

11頭立てで行われた今年のヴェルメイユ賞。1番人気に推されたのは、22年の英国オークス馬であるチューズデーでした。英国オークスを勝った後、ヨークシャーオークスでアルピニスタの2着を経てここに参戦。

2番人気は、グランドグローリー。昨年のJCで5着と健闘したことや、今年のプリンスオブウェールズSでシャフリヤール(4着)より先着(3着)したことで、日本の競馬ファンにも認知されている同馬が人気を集めました。

他には仏オークス2着のラパリジェンヌ、4着のアギャーヴ、5着のフォールインラブなどが参戦していました。

レースは、スウィートレディが逃げますが各馬が一団となって進み、有力馬は後方に集まる展開で、人気のグランドグローリーは最後方からの競馬。道中もほとんど動きはなく直線に入りましたが、逃げるスウィートレディが粘りに粘り、内の馬群を捌いて伸びてきたライラックロードをわずかに抑えて逃げ切り勝ち。

人気どころでは、3番人気のラパリジェンヌが2着馬の後ろの内目から追い込んで3着となりましたが、1番人気のチューズデーは外から追い込むも4着まで、道中最後方で進んだグランドグローリーは7着と敗れています。ただ、このレースについてはスローペースによる前残りの展開で、凱旋門賞の参考になるかどうかは少し微妙なレースでした。

ヨークシャーオークス  (ヨーク芝2370M)

今年の同レースは7頭立てのレースとなりました。1番人気はG1を4連勝中のアルピニスタ。前走のサンクルー大賞では21年の凱旋門賞3着のハリケーンレーンなどの強力な牡馬を相手に外から差し切る強い勝ちっぷりで注目の1頭です。2番人気には、ヴェルメイユ賞にも参戦した英オークス馬のチューズデーがいるというメンバー構成でした。

レースは直線で各馬が横に広がっての差し比べになりましたが、外を回したアルピニスタがしぶとく食い下がるチューズデーをねじ伏せるように押し切って勝利。

2着がチューズデー、4着に後のヴェルメイユ賞で2着だったライラックロードが入ったことから、勝ったアルピニスタはヴェルメイユ賞組よりは力上位と言えるでしょうか。同馬は凱旋門賞に直行のようで、凱旋門賞でも上位人気になりそうです。

ニエル賞  (ロンシャン芝2400M)

前哨戦振り返りの最後は、ドウデュースが出走したニエル賞。今年の同レースは7頭立てで行われましたが、注目を集めたのはドウデュース、ラッソー、シムカミルの3頭でした。

ラッソーは仏2000ギニーは5着、ダービーは8着の後、リステッドを勝ってここに参戦。シムカミルは仏のクラシックには出走できませんでしたが、G3を勝って挑んだパリ大賞典が勝ったオネストのクビ差2着と善戦しています。オネストが愛チャンピオンSで2着だったことを考えれば、ドウデュースにとって文字通り欧州での力試しとなるレースでした。

レースはやや馬群がばらけて進み、レースの中盤から前の2頭が3番手を少し離す展開に。直線では道中3番手を進んでいたシムカミルが抜け出して先頭に立ち、外からラッソーとドウデュースが伸びて来るという展開になりましたが、ドウデュースは伸びきれず。早めに抜け出したシムカミルがそのまま押し切って勝利しました。2着は外から伸びてきたラッソー。ドウデュースは4着でした。

ドウデュースに関しては、まだ仕上がり途上だったというコメントがあったように本調子ではなかったのは確かです。あとは、本番でどのくらい上積みがあるかどうか? というところでしょうか。

勝ったシムカミルはパリ大賞典組のレベルの高さを見せましたので同レースを勝ったオネストの価値が上がったと言えます。シムカミル自身は凱旋門賞には出走せず、JCに出走予定だそうで来日が楽しみです。2着のラッソーは力は見せたものの、もうワンパンチ必要な感じですので、今後の成長に期待というところでしょうか。

他の有力馬たち

昨年の凱旋門賞を勝ったトルカータータッソはキングジョージ6世&クイーンエリザベスS2着の後、ドイツのバーデン大賞から凱旋門賞へというローテでしたが、圧倒的1番人気だったバーデン大賞でわずかに競り負けて2着。ステップレースに徹したとも言えますが、勝ったメンドシーノとかなり本気度の高い叩き合いをしていたので、メンドシーノが本番でもあっと言わせる好走をする可能性もありそうです。

他にも昨年の凱旋門賞4着のアダイヤーは今年に入って1戦一般競走を勝って凱旋門賞へ。今年の英ダービー馬のウエストオーバーはキングジョージ6世&クイーンエリザベスSで最下位の5着と敗れましたが、そこから凱旋門賞への参戦を予定しています。巻き返しを狙う1頭です。

日本馬のタイトルホルダー、ディープボンドは宝塚記念から凱旋門賞へ直行。

ステイフーリッシュは宝塚記念9着からフランスのドーヴィル大賞に出走してから参戦します。レースはスタートから逃げて直線に入り、直線でボタニクと叩き合いになりましたが交わされての2着という競馬でした。

一方で出走すれば上位人気になるだろうバーイードは凱旋門賞を回避して英チャンピオンSに向かうことが決まりました。ですので、日本馬以外の馬でぶっつけで参戦する有力馬はおらず、これまで挙げてきた馬たちが今年の凱旋門賞の中心になっていくと思われます。

前哨戦を比較する

最後に各前哨戦について比較をしていきたいと思います。あぐで個人的な感想ですが、

愛チャンピオンS>ヨークシャーオークス=バーデン大賞>ヴェルメイユ賞>ニエル賞>フォア賞

という力関係に見えました。

レースのメンバーのレベルの高さに加えて、レースそのものの内容が良かった愛チャンピオンSが前哨戦としては一番評価できるレースではないでしょうか。次いで勝ち馬が強かったヨークシャーオークスで、4頭立てのバーデン大賞はややメンバーが薄かったですが、レースの内容自体は見どころのある叩き合いで評価。展開的にもスローだったヴェルメイユ賞、ニエル賞、フォア賞はややレベルが低いと判断しました。

おわりに

いかがだったでしょうか?

日本馬の勝利を期待したいですが、凱旋門賞というレースは世界の大レースです。有力馬の情報があった上で観戦するとより楽しめるのではないでしょうか。

そして各馬に詳しくなれば、今回の凱旋門賞に出走した各馬を他のレースで見かけた時には、もしかすると応援したくなっているかもしれません。間違いなく2022年秋競馬でも大注目の凱旋門賞。大いに盛り上がっていきましょう!

写真:かぼす

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