1着馬にマイルチャンピオンシップの優先出走権が与えられるスワンS。かつてはサクラバクシンオーとノースフライトの対決に湧き、当年のGIを制したダイタクヤマト、ショウナンカンプ、ミッキーアイルらがこのレースを勝利した。
ただ、ここをステップにマイルチャンピオンシップを制したのは2010年のエーシンフォワードが最後。近年は、どちらかといえばマイルよりも1400mを得意とする馬が活躍し、年末の阪神Cに繋がるレースとなっている。また、そのせいか、別定GⅡながら混戦となることが多く、2022年は実に6頭が単勝10倍を切った。
その中で1番人気に推されたのがホウオウアマゾン。3歳時のアーリントンC以来、勝利から1年半遠ざかっているものの、昨年の当レースで3着。さらに阪神Cでも2着と健闘した。今回は、短期免許で来日したC・デムーロ騎手に乗り替わり必勝態勢。GⅡは2着3回と十分に実績を残しており、ここは是が非でも勝利を手にしたい一戦だった。
これに続いたのがマテンロウオリオン。初戦は2着に敗れたものの、2戦目に選んだのはなんと1勝クラスの特別戦で、見事そのレースを勝利。続くシンザン記念も連勝して、重賞初制覇を飾った。その後、ニュージーランドTとNHKマイルカップは勝ち馬と同タイムの2着に好走。実績上位かつ若手の有望株といった存在で、注目を集めていた。
わずかの差で3番人気となったのが、牝馬のロータスランド。デビュー2戦目以外は1600m以上のレースに出走し、関屋記念で初重賞制覇を飾ったこの馬の分岐点となったのが、3走前の京都牝馬S。久々の1400m戦にも関わらずここを快勝すると、続く高松宮記念でも見せ場たっぷりの2着に好走した。今回は5ヶ月ぶりの実戦ながら実績は上位。マイルCSに向けて弾みをつけたい一戦だった。
そして、4番人気に推されたのが2019年の覇者ダイアトニック。全8勝中6勝を1400mであげているこの距離のスペシャリストで、7歳となった今シーズンも元気いっぱい。4走前、当コースで行なわれた阪急杯を制し、前走のスプリンターズSも4着と健闘。60回を超える歴史の中でスワンSを2勝した馬はおらず、初の快挙を狙っていた。
以下、当コースで行なわれたフィリーズレビューを好タイムで快勝したサブライムアンセム。2走前の高松宮記念で4着に好走したトゥラヴェスーラの順で人気は続いた。
レース概況
ゲートが開くと、ホウオウアマゾンが僅かに出遅れ。すぐに挽回を図るも逃げることができず、ヴァトレニが先手を切った。ダイアトニックが2番手につけ、盛り返したホウオウアマゾンが一旦は3番手に上がるも、外からミッキーブリランテとアイラブテーラーがこれら先行勢やロータスランドをかわし2、3番手につけた。
他の上位人気馬では、トゥラヴェスーラが中団後ろの13番手を追走し、サブライムアンセムはそこから2馬身差の後ろから4頭目。そして、ルプリュフォールとケイデンスコールを挟んだ最後方に、マテンロウオリオンが待機していた。
前半600m通過は34秒1の平均ペース。後ろ3頭がバラバラで追走したため、先頭から最後方までは17、8馬身と縦長の隊列。残り600m地点で、前は逃げるヴァトレニにミッキーブリランテとアイラブテーラーが並びかけようとするもヴァトレニがスパート。再び2頭を突き放し、レースは最後の直線勝負を迎えた。
直線に向くと、リードを2馬身に広げたヴァトレニが懸命に逃げ込みを図る。追ってきたのはダイアトニックとロータスランドで、中でもダイアトニックの伸び脚が鋭く、坂の途中で早くも先頭に躍り出た。一方、ロータスランドはここからやや伸びを欠き、入れ替わるように追い込んできたのが、内から順にトゥラヴェスーラ、キングオブコージ、ララクリスティーヌ。そして、ロータスランドを挟んでルプリュフォールの4頭。
しかし、それを尻目に最後まで末脚が衰えなかったダイアトニックは、最終的に1馬身差をつけ1着でゴールイン。5頭横一線の熾烈な2着争いを制したのはララクリスティーヌで、アタマ差の3着にルプリュフォールが入った。
良馬場の勝ちタイムは1分19秒8。重賞4勝目を挙げたダイアトニックが3年ぶりのスワンS制覇。史上初めて当レース2勝目を挙げた。
各馬短評
1着 ダイアトニック
わずかながら好発を決め好位につけ、直線半ばで抜け出して押し切る競馬はまさに横綱相撲といえる内容。間もなく8歳を迎えるベテランとは思えないほどで、少なくとも今回に関しては完璧な勝利だった。芝1400mでは、おそらく現役トップクラスの実力を持っているのではないだろうか。
一時は3戦連続二桁着順とスランプに陥ったものの、1200m~1400mのレースで、特に内枠を引いた際はまだまだ活躍できそう。次走は未定だが、優先出走権を獲得したマイルCSを挟まず阪神Cに出走すれば、再びの好走は十分可能とみている。
2着 ララクリスティーヌ
古馬混合の重賞は、これが初挑戦。ミッキーアイルとの父仔制覇は叶わなかったものの、混戦の2着争いを制し大いに見せ場を作った。今回がまだキャリア10戦目。そのうち芝1400mは8戦3勝2着3回と、次代のこの距離のスペシャリスト候補。
ミッキーアイル産駒に話を戻すと、当コースで1~4枠に入った際は複勝率が50%超と好成績であることは覚えておきたい。
3着 ルプリュフォール
前走に続き、最後方に近い位置からの競馬。その朱鷺Sではララクリスティーヌを差し切ったが、枠の差もあったか、今回はわずかに差し届かなかった。
勝ち馬と同じロードカナロア産駒で、6歳ながらオープンに昇級したのは2走前と晩成タイプ。ただ、ここまでの最低着順は7着と大敗はなく、最後確実に追い込んでくる末脚は破壊力抜群。今回を含めた全19戦中13戦で上がり最速をマークしており、展開の助けが必要になるものの、先行激化が予想されるレースでは狙い撃ちしたい。
レース総評
前半600m通過は34秒1で、11秒1を挟み、同後半は34秒6。ほぼイーブンともいえるラップ構成で、先行勢にとっては息が入りにくい展開となった。
4コーナー4番手以内の馬がいずれも失速する中、先頭から3馬身差の5番手を追走。早目先頭で押し切ったダイアトニックの強さは際立っていた。
芝の非根幹距離(4で割れない距離)のレース、特に芝1400mはスペシャリスト=リピーターが出やすく、同じ距離の阪神Cは創設16回で連覇した馬が3頭いるのに対し、65回目を迎えたスワンSを2勝以上した馬は、意外にもダイアトニックが初めて。2度連対も、グレード制導入後ではスギノハヤカゼだけだった。
また、しっかりとしたデータが残っている1986年以降、芝1400mを7勝したのはダイアトニックが初めて。そういう意味でも、ダイアトニックはこの距離の歴史的名馬といっても過言ではない。
一方、掲示板に載った5頭中3頭はロードカナロア産駒。その中でも、5着に好走したキングオブコージは、これまで目黒記念とAJCCという中長距離の重賞を制した馬。今後どういった路線を歩むのか注目したい。
また枠順で見ると、2枠2頭のワンツーに対し、7、8枠に入った6頭はいずれも12着以下に敗戦。内外の有利不利は多少あったと思われ、とりわけレイモンドバローズとスカイグルーヴの2頭は、次走以降の巻き返しに期待したい。
写真:パドジジ