[重賞回顧]下河辺牧場生産のルーラーシップ産駒から、再びGI馬が誕生!2歳マイル王に輝いたのはドルチェモア~2022年・朝日杯フューチュリティS~

90年代半ばからホープフルS(前身のラジオたんぱ杯2歳Sも含む)がクラシックの登竜門となり、どちらかといえば、2歳マイル王決定戦となった朝日杯フューチュリティS。ところが、2021年の当レースは、掲示板に載った5頭中4頭が1年以内にGIを制覇。そのうち2頭がクラシックを勝利するなど、2歳GI史上最高レベルの一戦だったといっても過言ではない。

中でも、1着ドウデュースは半年後のダービーも制して世代ナンバーワンの座を獲得。この2レースを勝利したのは、「シャドーロールの怪物」といわれた三冠馬ナリタブライアン以来、27年ぶりの快挙だった。

一方、2022年のレースは17頭が顔を揃えたものの、印象としてはやや小粒なメンバー。その理由として挙げられるのが前走1番人気1着馬の不在で、これはしっかりとしたデータが残っている1986年以降の朝日杯フューチュリティSでは初のことだった。

そのため例年以上に混戦とみられ、単勝10倍を切ったのは4頭。その中で、ドルチェモアが1番人気に推された。

札幌の新馬戦を3馬身差で完勝。続くサウジアラビアロイヤルCも上がり最速で快勝し、デビュー2連勝で重賞を制した本馬。サリオスやダノンプレミアムなど、同レース1着馬は朝日杯フューチュリティSに強く、母アユサンも当コースで行なわれた桜花賞を勝利しており、無傷の3連勝で母仔GI制覇なるか期待されていた。

わずかの差で2番人気となったのがダノンタッチダウン。こちらは半兄にホープフルSを制したダノンザキッドがいる良血で、中京の新馬戦を快勝後、前走のデイリー杯2歳Sは2着。ただ、スローで逃げ切った勝ち馬をわずかに捕らえきれなかった内容は負けて強しの印象で、兄に続き2歳GIを制することができるか。こちらも大きな注目を集めていた。

3番人気に推されたのが、デビューからわずか23日目のGI挑戦となるレイベリング。その前走は中団追走から上がり最速となる33秒1の末脚を繰り出し、2着に3馬身半差をつける完勝で、大物感たっぷりの内容だった。父フランケルは、2年前の覇者グレナディアガーズと同じ。2015年のリオンディーズ以来、1戦1勝馬によるGI制覇の快挙がかかっていた。

そして4番人気となったのが、新種牡馬リアルスティールの産駒オールパルフェ。デビュー戦は2着と惜敗したものの、4ヶ月の休養をはさんだ未勝利戦を逃げ切り、続くデイリー杯2歳Sでも逃げ切ってダノンタッチダウンの追撃を封じた。GIとはいえ、重賞勝ちの実績は上位で、父に産駒初のGI勝利をプレゼントできるか注目されていた。

レース概況

ゲートが開くとフロムダスクが出遅れ。一方、前はドルチェモアが好スタートを決めて逃げようとするところ、オールパルフェがこれをかわし先手を切った。

2番手にグラニットが上がり、ドルチェモアをはさんでバグラダスが4番手でここまでが先団。その後ろは、キョウエイブリッサが内ラチ沿いを追走するも、外からウメムスビとレイベリングがかわし、それぞれ3、5番手につけた。

一方のダノンタッチダウンは、スズカダブルをはさんで中団インに位置。そして、前走京王杯2歳Sを制したオオバンブルマイは、後ろから3頭目を追走していた。

前半600mは34秒1で、同800mは45秒7のハイペース。先頭から最後方のニシノベストワンまではおよそ18馬身で、かなり縦長の隊列となった。

その後3~4コーナー中間に入っても、中団より前の隊列に大きな変化はなく、対して後方ではコーパスクリスティが抑えきれない勢いで進出を開始。ダノンタッチダウンをかわすと、これに呼応するようにスズカダブルとエンファサイズも上昇し、全体が10馬身ちょっとに凝縮する中、前は4コーナーを回り最後の直線勝負を迎えた。

直線に入っても、しばらくは1馬身のリードをキープし続けたオールパルフェ。しかし、坂の途中でドルチェモアが先頭に躍り出ると、ほぼ同じタイミングで外からレイベリングとダノンタッチダウンが強襲。残り100mからは、上位人気3頭によるマッチレースとなった。

その後、ゴール前でもう一伸びしたダノンタッチダウンが前を差し切ろうとするも、ドルチェモアがギリギリ粘って1着ゴールイン。クビ差2着にダノンタッチダウンが入り、同じくクビ差でレイベリングが続いた。

良馬場の勝ちタイムは1分33秒9。デビュー3連勝を飾ったドルチェモアが、桜の女王に輝いた母と同じ舞台でGI制覇を成し遂げた。

各馬短評

1着 ドルチェモア

ハイペースで飛ばすオールパルフェから2馬身差の3番手を追走。それでも、早目先頭から押し切る強い内容だった。

筆者自身は、マイルGIに出走するルーラーシップ産駒という点から、短距離血統の馬やフランケル産駒にスピード負けすることを懸念していた。しかし、4週連続調教に騎乗した坂井瑠星騎手とともにロケットスタートを切ってその不安をかき消すと、終始、先行集団に位置。直線半ばで抜け出して押し切る、センス抜群の内容だった。

阪神の外回りコースを使用するとはいえ、4コーナーで3番手前後に位置した馬が一昨年まで4連覇していた朝日杯フューチュリティS。勝つためには完成度とセンスの高さが問われるレースだが、開催11週目でやや時計がかかる馬場になったことも、この馬には味方した。

2着 ダノンタッチダウン

6枠からスタートするも、あっという間に中団インへと潜り込む川田騎手のスーパープレイ。その後、直線に向くと、今度は外へと進路を切り替えてしぶとく伸び、勝ち馬をギリギリのところまで追い詰めた。

半兄ダノンザキッドは3歳春スランプに陥ってしまい、皐月賞後には骨折も判明。以後、なかなか勝ち星を掴めないでいるが、近走は安定した成績を収め、GIで連続2着と復活している。

本馬も2000mまでならもちそうだが、やはり末脚が活かせそうなマイル戦。NHKマイルCや、兄が2年連続好走しているマイルCSに出走することがあれば注目したい。

3着 レイベリング

デビューからわずか23日目でGI勝利のところまで迫り、人気に違わぬ走りを見せつけた超新星。ポテンシャルは果てしなく、父フランケルという点でも魅力十分。1勝馬だけに賞金加算できなかったのは痛いが、NHKマイルCに出走すれば大注目の存在。

レース総評

前半800mが45秒7で、同後半48秒2と、その差2秒5の前傾ラップ。単純比較はできないものの、勝ちタイムは、先週の阪神ジュベナイルフィリーズよりも0秒8下回った。出走メンバーも例年より小粒だったが、それでも4着以下をやや引き離して入線した上位3頭のレベルは決して低くない。

そんな速い流れを、前とはさほど差のない3番手で追走。押し切ったドルチェモアはルーラーシップを父に持つが、同産駒としてはキセキ、メールドグラースに続くGI馬となった。そのうち、キセキと本馬は名門下河辺牧場の生産で、なおかつ母父ディープインパクトという共通点がある。

この、父ルーラーシップ×母父ディープインパクトは、超がつくほどの成功パターンで、キセキと本馬以外にもワンダフルタウンが青葉賞を制し、エヒトが七夕賞を勝利。さらに、アンティシペイト、ドゥアイズなども重賞で好走しており、来週のホープフルSにもキングズレインが有力馬の一頭としてスタンバイしている。

また、母アユサンも下河辺牧場が生産した13年の桜花賞馬で、母の父がストームキャットという血統。この、ルーラーシップ産駒に母母父ストームキャットという組み合わせも成功パターンで、同じく下河辺牧場が生産し、2022年のマイラーズCを制したソウルラッシュ。さらに、ダートのオープンを勝利したダンツキャッスルとアディラートなどが出ている。

その下河辺牧場。生産馬によるJRAGI勝利はキセキの菊花賞以来5年ぶりとなったが、昨年の全日本2歳優駿を制したドライスタウトに、今年のジャパンダートダービーを制したノットゥルノと、この1年で交流GIを2勝。さらに、シンリョクカが阪神ジュベナイルフィリーズで2着に好走するなど、素晴らしい成績を収めている。

ドルチェモアに話を戻すと、例年、瞬発力勝負になるダービーでは狙いづらいが、先行力が活かせそうな皐月賞に出走した際は、是非とも狙ってみたい存在。また、ルーラーシップ産駒は基本的に晩成傾向で、ドルチェモア自身、現時点でも完成度は高いが、今回ハイペースのマイル戦を経験したことは非常に大きく、古馬になってからさらなる進化を遂げるかもしれない。

写真:かぼす

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