[地方レース回顧]夏の燕が後方から舞い戻る~2023年・帝王賞~

夏の古馬ダートグランプリとして、大井競馬場2000m戦でチャンピオンを決める帝王賞。
前年の開催では9頭立てだったメンバーも今年は12頭フルゲート、古豪も新勢力も南関の強豪も揃う1戦になりました。まずは多士済々の出走メンバーを馬番順に紹介しましょう。

1.テーオーケインズ(牡6):2021年帝王賞他G1級3勝。実績はメンバー1。
2.クラウンプライド(牡4):2022年UAEダービー勝馬、G1級でも善戦が続く。
3.ランリョウオー(牡5):東京記念、大井記念等南関重賞4勝、全日本2歳優駿2着と早くから活躍。
4.メイショウハリオ(牡6):2022年帝王賞でG1級競争初制覇、前走かしわ記念も豪快に差し切ってG1級2勝。
5.ノットゥルノ(牡4):2022年JDD勝馬、左回りは苦手だが得意の大井コースで巻き返しを狙う。
6.オーヴェルニュ(牡7):中央重賞2勝、2023年春から南関に移籍。左回り重馬場は鬼。
7.ミヤギザオウ(牡4):2022年南関クラシック羽田盃勝馬、以降勝利無しも復調中。
8.プロミストウォリア(牡6):長期休養を挟みながら8戦6勝で重賞2連勝の新星。
9.ライトウォーリア(牡6):JRAでOP勝利後、南関に移籍し2022年埼玉新聞栄冠賞、勝島王冠を連勝。
10.ジュンライトボルト(牡6):芝オープンからのダート挑戦で2022年チャンピオンズカップ制覇。
11.ドスハーツ(牡6):JRA4勝の後2022年夏に南関移籍、ウインバリアシオン産駒の稼ぎ頭。
12.ハギノアレグリアス(牡6):「松国厩舎」最後の大物。2023年名古屋大賞典を勝っていざG1へ。

昨年までこの路線の最前線で走っていた馬たちが引退した結果、前年からの連続出走はオーヴェルニュ、テーオーケインズ、メイショウハリオの3頭だけ、実力伯仲の好メンバーが揃ったグランプリになりました。

夕立の可能性もあった大井競馬場は良馬場での開催、ナイター照明に照らされたコースに、12頭が駆け出していきました。そしてゴール前に広がった光景は、その名のごとく夏になって戻ってきた「燕返しの末脚」でした。

レース概況

普段逃げ・先行のクラウンプライドとプロミストウォリアが一歩目から好スタート。反対にテーオーケインズ、ミヤギザオウ、ドスハーツはスタートで後手を踏んでしまいます。

スタートから鮫島騎手が押してプロミストウォリアがハナを奪いに行きますが、ライトウォーリア、ランリョウオーが追いかけて先団へ。クラウンプライドも前に行きたい仕草を見せましたが、川田騎手が抑えてインコースからプロミストウォリアをマークします。

先団4頭から1-2馬身離れてテーオーケインズとジュンライトボルトが内、ノットゥルノとハギノアレグリアスが外で中段、メイショウハリオは更に後ろで出遅れたミヤギザオウ、スタートで強く追わずに後方からになったオーヴェルニュと並び、殿には追い込みに賭けるドスハーツで隊列が決まります。

逃げのプロミストウォリアを単騎で行かせまいと先行馬たちが一団で追いかけた結果か、1000m通過は60.4秒と前年より約2秒早い流れで進みます。中段~後方の各馬はポジションを維持したまま3コーナーへ。

3コーナー入り口ではライトウォーリアがプロミストウォリアを捉えるために動き出し、ランリョウオーの外からハギノアレグリアスがコーナーから捲り気味に仕掛けて先頭を目指します。テーオーケインズの松山騎手が後方のメイショウハリオの位置を確認しインコースでスパートを開始すれば、浜中騎手も馬群の大外に出してメイショウハリオの末脚を引き出します。

迎えた直線、ライトウォーリアとランリョウオーを振り切ったことで一杯になったプロミストウォリアの内をすくってクラウンプライドが抜け出して先頭に立つと、先に仕掛けてこちらも脚が一杯になったハギノアレグリアスとプロミストウォリアの間から抜け出したテーオーケインズがクラウンプライドに襲い掛かります。

この2頭の更に外から1頭エンジン全開でメイショウハリオが追い込んで、残り100mで3頭の差は約2馬身、この差が一完歩ずつ詰まって、最後の着差はハナ+アタマ差、メイショウハリオの追込みが炸裂して史上初の連覇達成、クラウンプライドはハナ差2着、テーオーケインズはアタマ差3着で終わりました。

4着は早めに仕掛けたハギノアレグリアス、5着は先行勢を振り切ったものの差し馬を凌ぎ切れなかったプロミストウォリアで、上位はJRA所属馬が独占する結果になりました。

各馬短評

1着 メイショウハリオ

昨年のレース回顧を踏まえて、その後の走りを振り返りましょう。
メイショウハリオの武器は「レースで常に上位の切れる末脚」、末脚を繰り出して追いつけない先行有利のレースでは差し届かず、JBCクラシックでは先行していたペイシャエスやクラウンプライドを捉え切れず5着、東京大賞典では更に凄まじい末脚でドバイワールドカップまで勝ってしまったウシュバテソーロの3着でした。

2023年初戦のフェブラリーステークスでは落馬直前の出遅れがありながら一気の追込みで3着に入ると、続くかしわ記念では短距離~マイルを中心に走ってきた馬たちを後方一捲りで差し切りマイルでもG1勝利。
条件戦時代は1400mでも差し脚を繰り出したように距離は問わない馬でしたが、東京よりも直線距離が約200mも縮まる中での一気の追込みは迫力満点の動きでした。

今年の帝王賞は追切の段階から調子の良さそうな動きをしていたので、連覇の可能性もあるかな、と事前に想定できていたのですが、インをロスなく回って抜け出したクラウンプライドを大外捲りで差し切った走りは想定外、まさに圧巻の一言です。

浜中騎手もインタビューで語っていましたが、次は中央G1のタイトルを狙いたいところでしょう。出遅れなければフェブラリーステークスも惜しい結果でしたし、秋の大井、そして冬の中京でその末脚に期待しましょう。

2着 クラウンプライド

4歳になって古馬との斤量差が無くなりましたが、持ち前の持続力を武器に先行、前に行きたがる性格ゆえに折り合いが難しい馬ですが、川田騎手がしっかりコーナーまでに抑えて最内で仕掛けを待つことが出来ました。

馬自身もUAEダービーでの勝利以降、強豪ひしめくレースへの出走を続ける中で常に上位争いに加わっているのは実力の証でしょう。

帰国後は福永騎手と国内で3走、日本テレビ盃ではサルサディオーネに挑もうとしますがそこでノットゥルノに譲って2着、JBCクラシックでは逃げで折り合いがついたもののテーオーケインズの強気の捲りにあと一歩の2着、そしてチャンピオンズカップでは折り合いに怪しいところがありながらもテーオーケインズを振り切りますが、ジュンライトボルトの乾坤一擲の末脚に差し切られ2着…。本当にあと一歩のところまで走っています。

2023年の前半は海外2走、UAEダービーでコンビを組んだレーン騎手と共にサウジカップ、ドバイワールドカップに挑戦しました。
折り合い重視で外を回ったサウジカップは5着、ドバイワールドカップはハイペースの末脚比べで展開が向かない中でも中段から前をすくって5着に善戦して帰国しました。

戦績を見ると父リーチザクラウンのようなもどかしさも感じますが、JRAの4歳ダート路線の馬の中ではやはり最上位の実力の持ち主なので、先行抜け出しの王道競馬を続ければいつかG1タイトルに手が届く馬だと思います。

3着 テーオーケインズ

スタートの出遅れ等、G1ホースとしては安定感に欠けるレースもありますが、「勝つときはとことん強い馬」という評価は変わりません。

昨年の敗戦後、秋初戦のJBCクラシックでは大外を安全に進むと3コーナー前からメイショウハリオに先んじて捲りを仕掛け、逃げていたクラウンプライドを捉えて圧勝。チャンピオンズカップでも同様のレースで勝利を狙いましたが、イン側が有利だったことに加えて、後方一気のジュンライトボルトにゴールでまとめて差し切られてしまいます。

今回のレースではスタートで出負けした影響で直線まで追い出せなかった中、うまく馬の間を捌いて3着まで末脚を伸ばしたところにこの馬の強さが見えました。
どうしても枠番やレース展開に左右されてしまいますが、中段からロングスパートを安全に仕掛けられる展開が向けば上位の着差が着差なだけに、次の勝負で着順が入れ替わる可能性も十分あります。

レース総評

決着タイム2.01.9はかつての砂の快速馬スマートファルコンの持つ帝王賞レコード2.01.1に0.8秒差まで迫る好タイムで、上位3頭の実力は過去の対戦成績を見ても伯仲と言って良いでしょう。コースや展開によってどの馬が勝ち負けしてもおかしくないレベルの高い1戦でした。

今回は連勝中の逃げ馬プロミストウォリアに楽をさせまいとペースが上がったことで差し決着になり、メイショウハリオの武器である末脚が最大限活きる展開の利もありましたが、クラウンプライドが残るようにインコース先行が有利な馬場での結果でしたのでより一層強さを感じられたのではないでしょうか。

メイショウハリオはレース後も検量に戻る前に跳ねたり横歩きをしたり、2戦続けて応援に駆け付けた松本好雄オーナーとの口取り写真撮影では首を振ったりと元気が有り余っている様子でした。
上の世代の大将格だったオメガパフューム、チュウワウィザードが共に引退しましたが、現6歳世代のメイショウハリオ、テーオーケインズ、プロミストウォリアそしてウシュバテソーロがダート界の中心になっていくことでしょう。

そして、今年4歳ながらこのメンバーに食らいついたクラウンプライド、今回は伸びきれず8着でしたがJBCで巻き返せそうなノットゥルノをはじめとした4歳世代がどこまで差をつめられるか、それぞれの秋への飛躍に期待しましょう!

写真:KEI

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