競馬に限らず、勝負の世界では「もしも」や「たら」「れば」といった言葉は禁句とされている。

それでもなお、見ている者からすればそれらの言葉を使ってしまいそうになる瞬間がある。

もしも、あの馬が無事でいたならば……未来はどんなふうに変わっていただろう?

今回はそんな思いに僕を駆り立てる馬、2000年の朝日杯3歳ステークスで2着に入ったタガノテイオーについてご紹介したい。

タガノテイオーが生まれたのは1998年。

同世代にはアグネスタキオン、クロフネ、ジャングルポケット、マンハッタンカフェなどがいる、いわゆる『黄金世代』としてご存知の方も多いだろう。

そんなタガノテイオーがデビューしたのは、2歳夏の札幌開催のことだった。

芝1800mのデビュー戦は中段からレースを進め、末脚を伸ばしたものの前を行く馬を捕らえられず2着に終わる。この時タガノテイオーを負かして新馬勝ちをおさめた馬こそが、後のダービー馬ジャングルポケットである。3着に入ったダイイチダンヒル(のちに若葉S制覇)と共に、上位3頭が後続に8馬身の差をつけていたことからも、この新馬戦における上位層のレベルの高さは疑いようがないだろう。

実際、このレースに出走した8頭はその後全てが中央競馬で勝利をおさめており、今でも「ハイレベルな新馬戦」として、コアな競馬ファンの間で語り継がれているほどである。

それを証明するかのように、中1週で挑んだ折り返しの新馬戦で2馬身差の快勝をおさめると、今度は連闘で重賞札幌2歳ステークスに挑戦することになる。

そこには新馬戦で敗れたジャングルポケットの姿もあった。

リベンジを期したレースは、1番人気に推された後のGⅠ3勝馬テイエムオーシャンが逃げる展開。タガノテイオーはこれを目標としたためか、新馬戦とは異なり3コーナーから4コーナーで早めに外を捲っていく競馬で直線先頭に並びかけた。そしてやや外に逃げながらも前を行くテイエムオーシャンをしっかりと捉える。

しかしその刹那、大外から強襲するジャングルポケットの末脚に屈し、またもや2着。新馬戦のリベンジとはならなかった。

とは言え、直線でまだレースに100%集中していないようなそぶりも見せていたように、成長次第では逆転の余地も残されているように感じられる走りだった。

続く東京スポーツ杯3歳ステークスは、人気こそウインラディウス、グラスミライに次ぐ3番人気だったものの、レースでは中団の最内からレースを進め、直線前が開くと一瞬のうちに抜け出し快勝。結果的には、札幌2歳ステークスで後のGⅠ馬2頭相手に揉まれたことで培われた力を見せつける形になった。

その後、タガノテイオー陣営は次なる目標として年末の朝日杯3歳ステークスに照準を合わせる。

このレースには、これまで2度先着を許した「目の上のたんこぶ」ともいえる存在だったジャングルポケットは出てこない。

ここはきっちりと勝ち切って、クラシックで雪辱を晴らそうと考えていたであろうことは、想像に難くない。

弾みをつけて翌年を迎えるためにも、ここは負けられない一戦であった。

初めてとなるGⅠレースでも、タガノテイオーはそれまでと同じように馬群でしっかりと脚を溜める競馬で機を伺う。こちらから見る限り、手綱を緩めればいつで瞬時にも抜け出せるような手応えに見えた。

直線前が開くと「待ってました」と言わんばかりにタガノテイオーは伸びてきた。

しかし、中山最後の坂に差し掛かったあたりからやや勢いが鈍りだす。

伸びてはいる。

伸びてはいるものの、末脚に東京スポーツ杯2歳ステークスで見せたような鋭さが感じられない。先行していた馬は交わし切ったものの、やや仕掛けを遅らせていたメジロベイリーに差されると、2着に敗れた。

ファンが不測の事態に気づいたのはその直後だった。タガノテイオーの鞍上・藤田伸二騎手が入線後に馬から降りたのだ。

左第1趾骨粉砕骨折、予後不良。

藤田伸二騎手に「まともならぶっちぎっていた」と言わしめ、20年近く経った今でも自分が乗った中での最強馬の1頭として名前が挙がるほどの素質馬は、そのレースで短い一生に幕を閉じることになった。

翌年、クラシックでは皐月賞をアグネスタキオン、日本ダービーをジャングルポケット、菊花賞をマンハッタンカフェが制した。

これらの馬たちは現役を退いてからも各々複数のGⅠホースを輩出。競走馬としても種牡馬としても成功をおさめ、改めて世代レベルの高さを示す形になった。

──もしも、このクラシックにタガノテイオーが参戦していたらどんなレースを見せてくれただろう?

──もしも、タガノテイオーが種牡馬として血を残すことが出来ていたならば、どんな風に未来が変わっていただろう?

「もしも」が許されない世界とは知りながらも、今でも朝日杯が近づくと、ふと、そんなことを考えることがある。

古い競馬ファンの戯言かもしれないけれど、その時代を知らない競馬ファンには「タガノテイオー」という馬がいたことを知っていてほしい。そして、そんな「もしも」を考えなくても良くなるよう、全ての馬が無事でレースを終えることを一緒に祈ってほしいと思う。

写真:ウマフリ写真班

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