[重賞回顧]第44回エリザベス女王杯(GⅠ)~ステイの子〜

2017年、府中牝馬Sを逃げ切って迎えた4歳。本番は番手から上手な競馬。ミッキークイーン姉さんの急襲はしのぐも、年下のモズカッチャンにクビ差敗退の2着。

2018年、ドバイ遠征など牡馬に混じって戦い力をつけた5歳。本番では逃げてマイペース。前年敗れたモズカッチャンにリベンジを果たすも、モレイラ騎手を味方につけた年下のリスグラシューにクビだけ負け、2着。

2019年、前年に2度目の海外遠征(香港ヴァーズ)を経験。国内ではGⅢでさえ上位に来られなかったが、春のヴィクトリアマイルで本領発揮し、3着。まだまだ衰えがないことを示す。過去2年と同じく府中牝馬Sから本番に挑む。モズカッチャンもリスグラシューもディアドラもいない。アーモンドアイも出てこないエリザベス女王杯。勝つならここしかない。

馬がこんなことを考えたかどうかは不明だが、クロコスミアは3度目のエリザベス女王杯出走に挑戦した。

父ステイゴールドとは脚質こそ違うが、GⅠになると闘志を燃やし、周囲の評価以上の走りを披露するあたりはその血が騒ぐにちがいない。

古馬牝馬GⅠクラスは1年半以上勝ち星から遠ざかっているラッキーライラック以外にはおらず、過去2年に増してチャンスは拡大した。

立ちはだかるは年下も年下、3歳馬たちだった。オークス以来の出走となるラヴズオンリーユー、秋華賞を勝ったクロノジェネシス。

強敵ではあるが、まだまだ大人になりきっていない3歳の少女たち。大人の経験と勘があれば、今度こそ──。

馬がこんなことを考えたかどうかは不明だが、クロコスミアの3度目のエリザベス女王杯がはじまった。

内枠と自慢のスタートを駆使、クロコスミアはスッとハナに立つ。

メンバー中に追いかけそうなライバルはいない。

先行しそうなラッキーライラックはクリフトフ・スミヨン騎手がスッと下げた。

思いもよらないマイペース。

直後にラヴズオンリーユーがいるのは意外ではあったが、さすがに1番人気、深追いはしてくるまい。

外からセンテリュオが堪らず動くほど、流れは落ち着いた。サラキア、フロンテアクイーンが続き、クロノジェネシス、スカーレットカラーは中団に控え、馬群はどんどん縦長になる。これら背後のインにラッキーライラック。春に見せた折り合い難はすっかり影を潜めている。

1000m通過62秒8。クロコスミアにとってイージーすぎる遅い流れ。3角坂の登りを迎えてもペースは上げない。番手のラヴズオンリーユーがまったくと言っていいほど追いかけないので、クロコスミアが早めにペースをあげたように見えるほど。勝手に後続が離れていく。こんな幸運、滅多にないとクロコスミアは4角手前の坂の下りからペースアップしていく。じっくりじっくりトップスピードにマイペースで上げさえすれば、止まらない。それがクロコスミアだ。

4角から直線。

馬場のいいところに持ち出されたクロコスミアは一気に後続を突き放す。

ラヴズオンリーユーもクロノジェネシスも脚色でクロコスミアを上回れない。

あと200m。

先頭のクロコスミアの元へ、ついに栄光のエリザベス女王杯馬の称号がやってきた──「勝った」と思ったその瞬間。

ラチ沿いの狭いところからスミヨン騎手の派手なアクションに乗ってグイグイ伸びるラッキーライラック。

「そこから来るの?」

父ステイゴールド譲りのゴール前でちょっと安心してしまう癖が出たのか、クロコスミアが呆気に取られたところがゴール板。ラッキーライラックに1.1/4馬身差敗れ、ついに3年連続2着となってしまった。

負けたのはステイの子オルフェーヴルの初年度産駒、乗っていたのはオルフェーヴルと凱旋門賞で辛い経験をしたスミヨン。

「できすぎじゃない?」

馬がこんなことを考えたかどうかは不明だが、クロコスミアの3度目のエリザベス女王杯挑戦はまたも年下の子に負け、幕を閉じた。

勝ち時計2分14秒1(良)

各馬短評

1着ラッキーライラック(3番人気)

スミヨンがオルフェーヴルの子で日本のGⅠを制し、レース後にオルフェーヴルについて触れるというなんともおとぎ話のような不思議な物語だが、焦点を別のところに向けてみる。春に大きな不利を受け、折り合い難を誘発。とにかく前でリラックスさせる競馬、早めに動いて後続を凌ごうとする姿はどこへ行ったのだろう。インの中団後ろ、馬群のなかでリラックス。直線は開いたインに素早く飛び込み、スローでごちゃつく外目を避ける。ここまで馬は変わるのだろうか。驚くべき変身ぶりだった。

2着クロコスミア(7番人気)

父ステイゴールドらしすぎる競走成績。愛さずにはいられない。同一GⅠ3年連続2着、これはもうエリザベス女王杯を勝ったことにしてあげたいぐらいだ。

3着ラヴズオンリーユー(1番人気)

オークス以来のぶっつけ本番で+16キロ、見た目に太くは見えなかったが、ゲート入りを嫌がるなど精神面で久々を感じさせる内容。この辺を考慮して、積極的な競馬を試みたのは正解であったが、前で逃げる馬をちょっと甘く見てしまった印象。その逃げ馬は2年連続このレース2着、やや相手を見誤ったか。いずれにしても叩いて落ち着きを取り戻せば、まだまだ変わるだろう。

総評

ステイゴールド系という枝葉はじつに個性に溢れている。ドリームジャーニー、ナカヤマフェスタ、オルフェーヴル、ゴールドシップ、フェノーメノ。産駒はみんな父馬に似た馬が多く、どこかでステイゴールドを想起させる。意外性のゴールドシップ、自身もそうだったように本格化すれば勝ちきれるオルフェーヴル、内回りに強いドリームジャーニー。愛すべき個性派ぞろい。

クロコスミアの3年連続2着は父ステイゴールドだからと言えば、妙に納得してしまう。あの馬はそんな馬だった。だがしかし、ステイゴールドは7歳暮れに一世一代のレースで香港ヴァーズを勝った。

6歳クロコスミアがあとどのぐらい競走生活を送るかは分からないが、この血は最後の最後まで目を離してはいけない。それだけは伝えておきたい。

写真:ゆーすけ

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