[新馬戦回顧録]明日のエースは誰だ!? 2021/6/27

新馬戦回顧、6月27日の新馬戦は東京5Rと6R、阪神5R、札幌5Rの4鞍組まれました。
回顧の前に、少しだけハプニングに触れておきます。

阪神5R新馬戦の馬場入場時に、テーオーコンドルが藤岡康太騎手を振り落とし、他の馬に絡みに行く事象がありました。
テーオーコンドルは松山騎手とローマンネイチャーに襲い掛かり、松山騎手が落馬、ローマンネイチャーは反撃の蹴りを繰り出す事態となりました。

2歳の馬はまだまだ子どもゆえに、慣れない環境に怖気づいてしまうことや、興奮してしまうこともあります。
最近は人に対するメンタルケアの話題も盛んになっていますが、加害馬、被害馬双方ともにしっかりとケアを受けてまた競馬場に戻ってきて欲しいですね。

阪神5R 芝1800m レッドベルアーム 栗東:藤原英昭厩舎

宝塚記念当日の新馬戦は、その後の活躍馬多数の出世レースとして知られており、今年もそのゲンを担ぎに11頭の新馬がエントリーしました。

勝ったのはレッドベルアーム、兄2頭がデイリー杯2歳ステークスを勝っているレッドファンタジアの産駒です。兄たちの果たせていないクラシック制覇までたどり着けるでしょうか。

レース概況

ローマンネイチャーが出遅れ、テーオーコンドルも行き脚がつかず後方2番手からレースを進めます。
最内のアランヴェリテがハナを取り、ショウナンナダルがそれを追走。テーオークレールが3番手、4番手のインにレッドベルアーム、外にダノンフォーナイン、メイショウウネビ、カンティプールの順で続きます。
キラーアビリティが馬群の後ろでルメール騎手に促され、その後方にターゲザンブルックと出遅れた2頭がポジションをとりました。

外回りの3コーナーに入る前に戸崎騎手がローマンネイチャーを追い出し、前の馬群に追いつきに行きますが、それ以外は隊列は大きく変わらず、1000mを60.1秒のペースで直線に向かいます。

アランヴェリテとショウナンナダルが並んで直線に入り、ダノンフォーナインが手ごたえの悪い中、レッドベルアームが福永騎手の追い出しに応えて伸びてきます。
後方からはカンティプール、キラーアビリティ、ローマンネイチャーが差し脚を伸ばしていて、その後ろからはテーオーコンドルも差を詰めます。

前の2頭が粘り切る寸前に半馬身差してレッドベルアームが勝利、アランヴェリテが2着、ショウナンナダルは3着でした。後方から来たローマンネイチャーが4着まで追い上げ、キラーアビリティは5着まででした。

勝馬・注目馬短評

勝馬:レッドベルアーム

東京ホースレーシングのクラブ馬で、今年の切り札の1頭と言って差し支えないでしょう。
上の兄姉4頭は全てディープインパクト産駒、どの馬もG1に挑んでいるのですから、母レッドファンタジアは素晴らしい繁殖牝馬です。

レッドベルアームは父がハーツクライに変わり、馬体重508キロでのデビューと上の兄弟たちになかった雄大な馬格を手に入れました。四肢がすらっと伸びた馬体からきれいなフォームで脚が出る走りは軽さだけでなく力強さもあり、最後の坂でもぶれることなく伸びています。

福永騎手が「きょうだいで一番」と既に評している馬なので、とにかくG1まで無事に進んで欲しいです。
レッドベルジュール、レッドベルオーブはどちらも脚に脆さのある馬でした。
馬体の「強さ」が備わっていれば、きょうだいの悲願であるG1に手が届くはずです。

注目馬:ローマンネイチャー

新馬戦前のハプニングで最も被害を受けた馬ですが、最後までレースをやめずに4着まで差してきました。
序盤の出遅れから前の3頭が残る展開を追いかけての結果ですので、着順以上の価値があります。

全姉に秋華賞とジャパンカップを勝ったショウナンパンドラ、おじにはステイゴールドがいる良血馬で、今年の東京新聞杯を勝って安田記念に挑戦したカラテも同じ牝系の出身です。

3コーナーに入るころには追い出されて最後まで脚を使い続ける姿には精神力の高さも感じられ、それゆえにレース後の疲れが心配です。ゲートの確認だけ行って放牧に出たとのことなので、復帰戦はまずは無事に回ってきてほしいですね。能力は高い馬に見えますので、時間がかかっても勝ち上がってくるはずです。

札幌5R 芝1200m ラブリイユアアイズ 美浦:黒岩厩舎

新種牡馬ロゴタイプの産駒から新馬戦勝馬が現れました。青毛の馬体は日に当たって艶々と輝いていました。
前半のペースはキングエルメスのレースよりも1秒早かったにも関わらず、決着タイムは余裕残して0.4差と、スピード能力の高さが伺えます。

レース概況

ばらついたスタートからアウトパフォームが勢いよく飛び出し、アウトパフォームを見る形でラブリイユアアイズが2番手に続きます。少し出が悪かったものの二の足がついたトーセンヴァンノが4番手まで上がり、内にマテンロウサニーとファーンヒルが追走。
少し離れてスズナミ、後方にはエスオーライアン、リトルウィナー、シゲルツバメ、ボーントゥウィンが続き、3コーナーに入ります。

コーナー途中で余力がなくなってきたアウトパフォームにラブリイユアアイズが並びかけ、直線で先頭に立ちます。前で追走していたトーセンヴァンノとファーンヒルが追いかけますが、ラブリイユアアイズはゴール前の肩鞭一発のみで余裕のゴールでした。

2着争いは半馬身差でトーセンヴァンノが勝り、ファーンヒルが3着、コーナーでは先頭から10馬身は後方にいたエスオーライアンが一気に捲ってきましたが、ファーンヒルと1馬身1/4差の4着まででした。

勝馬・注目馬短評

勝馬:ラブリイユアアイズ

父ロゴタイプは朝日杯フューチュリティステークス、皐月賞、安田記念を勝ったG1ホース、産駒は初勝利です。
早期からスピード能力の高さとその持続力を武器に活躍しましたが、ラブリイユアアイズもロゴタイプのような持続力で、逃げるアウトパフォームをねじ伏せる競馬での勝利となりました。

ラブリイユアアイズは血統に注目したい馬なので、簡単に紹介させていただきます。
父ロゴタイプ、母父ヴィクトワールピサともにHaloのクロスを持っています。
そしてラブリイユアアイズはサンデーサイレンスの3×4クロスが発生する2020年代の競馬らしい配合になっています。
また、シングスピールの父In The Wingsの4×4クロスもあり、最後まで脚をもたせる持続力を加えるとともに、父系母系の双方からサドラーズウェルズの血を引き継ぐ配合の馬です。

サドラーズウェルズ系は国内ではシングスピール→ローエングリン→ロゴタイプのラインと、フランケル→モズアスコットのライン、そして輸入されたフランケルの全弟ノーブルミッションの3本のライン(フランケル=ノーブルミッションなので実質2本)が主流になるかと思います。

日本での直系の活躍馬はまだ多くは無いですが、新馬戦の余裕を見ると上のクラスでも十分戦えそうです。
ローエングリン産駒の半姉ワイドアウェイクはダートの未勝利戦を勝ち上がっているので、ラブリイユアアイズにも適性があるかもしれませんが、現状は芝のレースで良いでしょう。

注目馬:トーセンヴァンノ

ディープインパクトの後継種牡馬では珍しいヴァンキッシュランの初年度産駒です。
産駒はエスティファームの生産で9頭のみ、島川オーナーのプライベート血統と言ってよいでしょう。

ダービー後に故障のため早期引退してしまいましたが、全弟セントレオナード、全妹リリーピュアハートがともに現役で、芝の中長距離路線で堅実に走っています。ヴァンキッシュランも2400mの青葉賞を勝った馬なので、1200mの新馬戦に産駒が出てきたのは意外な印象を受けます。

2着に敗れはしたものの、ラブリイユアアイズよりも外を終始回して、最後は追われて差を詰めていますので、前半速いタイムで入っても最後まで脚は残っていたように見えます。
距離はマイルぐらいまで伸ばしても対応できるのではないでしょうか。あるいは父の血が濃く出るならば、それ以上でも十分戦えるかもしれません。

東京5R 芝1600m アバンチュリエ 美浦:手塚厩舎

後方から突っ込んできたアバンチュリエ、モーリス産駒の新馬は今シーズン初勝利です。
新馬らしい若さの出た走りでしたが、先行した馬たちが残った中で大外からパワフルな末脚を披露しました。
母父ディープインパクトの活躍馬はこれから増えてくるでしょうか。

レース概況

大きく出遅れる馬は無く、内で好発進を決めた藤田菜七子騎手のカルラファクターがハナに立ちます。
半馬身差でコースタルテラスが2番手、外からメルトが3番手まで上がってきます。
内にニシノラブウインク、セイウンハルカニが続いてデエスデュヴァンが真ん中、外からソリタリオが促されて先行集団についていきます。アバンチュリエはその5馬身後方で構えています。

コーナーを出るまで大きく隊列が変わらなかったので、直線では横に広がっての追い比べになります。
残り400mで逃げていたカルラファクターが捕まると、コースタルテラスが並びかけて前に出ます。
更に外から大外を回ったアバンチュリエがインに切れこみながら猛然と追い込み、応戦する形でソリタリオとニシノラブウインクに鞭が入ります。

残り200mで先頭に立ったアバンチュリエの末脚は止まらず、1馬身半の差をつけて1着でゴールしました。追いかけたソリタリオは最後にもうひと脚見せて2着、ニシノラブウインクは競り負けて3着でした。

勝馬・注目馬短評

勝馬:アバンチュリエ

スタートの出は少し遅れましたが、柴田善臣騎手が慌てずに後方待機を選択したことで末脚を発揮し、後方3番手から一気の末脚で差し切ってみせました。

母系に注目すると、母母ムーンライトダンスから孫世代でシゲルピンクダイヤ、シゲルピンクルビーの姉妹が活躍しています。アバンチュリエとシゲルピンクルビーはいとこの関係で母父以外の3/4が同じ血統なので、モーリス産駒らしい大きな前肩から力強い末脚を繰り出す走り方には近いイメージを抱けるでしょう。

直線で内にもたれてしまったところを見るとまだ走りに若さが見受けられますが、これからの調教で体幹がしっかりすれば改善されるでしょう。血統背景から距離はマイルがベストではないでしょうか。

注目馬:ソリタリオ

先行策から2着に入ったこの馬もモーリス産駒でした。
序盤から追われて先行ポジションをキープし、アバンチュリエに追い抜かれてた残り200m地点で手前を変えてもう一度差し返して2着に着を上げたところを見ると、追われてからの反応が改善すればもう少し走れても良さそうです。

いとこのランプロファイア、ユリシスブルーもモーリス産駒で、今年の宝塚記念も勝利したクロノジェネシスとも遠縁ですが同じラスティックベル系の出身です。クロノジェネシスの半弟クルークもモーリス産駒なので、この牝系とモーリスの配合に期待されているのでしょう。

アバンチュリエ同様に、距離はマイル前後が合いそうです。石橋騎手は早めに馬を追い出すタイプですが、もう一列後ろで構えて直線一気を試しても面白いかもしれません。

東京6R ダ1400m コンバスチョン 美浦:伊藤厩舎

ダートの新馬戦を勝ったのはディスクリートキャット産駒のコンバスチョンでした。
ペースが淡々と流れる展開を上り36.3秒でまとめていて、三浦騎手のアクションに応えると一頭回転の違う末脚で後続を引き離して見せました。

レース概況

サンラグナニゲルが好スタートを切りますが、外からダイチラファールとジダイノチョウジのダッシュがついて前へ。ダイチラファールがハナに立つと追いかけるフルムが2番手、ジダイノチョウジが3番手、外にルクスランページが4番手で続き、サンラナニゲルは5番手インコースに落ち着きます。
前の5頭から遅れないように三浦騎手がコンバスチョンを促して6番手、コンバスチョンを見るようにリュウノブレイクとグルートンが追走。ライドアクロスが9番手で、それ以降は3コーナーで置かれ始めます。
前半600mを37.2秒で3コーナーに入りますが、ここからペースの緩まない持続戦に入ります。

4コーナーで中段にいたコンバスチョン、リュウノブレイク、グルートンが追い出されると、インコースを回っているザンラグナニゲル、ジダイノチョウジを交わすために外へ。

直線に向いた時点でダイチラファールとフルムが後続を3馬身離していましたが、コーナーで加速しだしたコンバスチョンが一完歩ずつ追い詰めます。残り300m付近でフルムがダイチラファールを振り切りますが、外から追いついたコンバスチョンが残り200mで交わすと、そこから一気に突き放して1着でゴール。

コンバスチョンの後方から追いかけたリュウノブレイクもいい末脚で伸びてきましたが4馬身の差をつけられて2着、フルムは最後一杯になりながらも後続を凌いで3着でゴールしました。
中段後方で待機していたグルートンとライドアクロスがばてた馬たちを交わして掲示板を確保しています。

勝馬:コンバスチョン

逃げ馬を見ながら先行し、追いついたところで加速し4馬身突き放す余裕の勝利でした。
パイロの肌にディスクリートキャットをつけるゴドルフィンらしいダート血統で、母スモーダリングは1400m以下で3勝して繁殖入りしています。おばにJBCレディスクラシックを勝ち、牝馬交流戦で安定感抜群の活躍をしたファッショニスタの名前もあり、ダート一本で活躍を期待される馬でしょう。

先行勢から離されないように三浦騎手に促されつつ、最後のアクションに軽く応えていた姿を見ると、距離は更に伸ばしても融通が利きそうです。6月末で新馬戦を勝てましたので、年末の全日本2歳優駿が目標になるでしょうか。

秋の東京マイル戦で対応できるようであれば、3歳以降も期待できる存在です。

注目馬:フルム

名前の由来は「夢」、父はダート戦の安定感抜群のシニスターミニスターです。
母サンタテレサの兄弟にダート重賞馬ジュベルムーサ、芝重賞で走っているカテドラルがいて、長く脚を使う勝負に強い血統です。

淡々とペースを刻んだダイチラファールについていき、振り切ったところで脚色が一杯になりながらも3着に残せたのは母系の持続力が活きたのでしょう。

ペースがもう少し落ち着くレースであればもうひと踏ん張りできそうですし、あるいは渋った馬場の方が走るかもしれません。夏競馬で小回りコースの未勝利戦を使ってくるなら前残りに期待したいところです。

総評

日曜日の勝馬の父はハーツクライ、ロゴタイプ、モーリス、そしてディスクリートキャットの産駒でした。
ディープインパクトもキングカメハメハも母父にはいるものの、産駒が勝馬にいないことに時代の流れを感じています。

7月からは本格的に夏競馬に入り、福島、小倉、函館での開催になります。九州馬戦や函館2歳ステークスなど季節を感じるレースがやってきます。

普段はG1レースしか見ない方も、ぜひこの時期から新馬戦を見て「秋以降の活躍を応援したい!」と思う馬を見つけてほしいです。

写真:俺ん家゛

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