[重賞回顧]  直千競馬に若きニューヒロインが誕生~2021年・アイビスサマーダッシュ~

新潟競馬場でのみ行なわれる直千競馬。
そして、同場で行なわれる重賞の中でも屈指の人気レースが、アイビスサマーダッシュである。

今年、そんな国内最速のサラブレッドを決める一戦に集まったのは16頭(ロジクライが出走取り消し)だった。

人気は割れたものの3頭に集まり、最終的に1番人気に推されたのはオールアットワンス。ここまで、デビューから5戦すべて1200mに出走し続け、2勝3着2回と安定した成績を残している。3歳牝馬で、最も重い馬とは6キロの斤量差があり、このコースで有利とされる外枠に入ったことも、人気を集める要因となった。

2番人気に続いたのはライオンボス。2019年の当レースの覇者で、昨年も2着に入った直千競馬の申し子。それらを含め、このコースでは7戦4勝2着2回と、実績ではアタマ一つ抜けている。前走の韋駄天Sは、直千競馬で初めて連対を外す9着に敗れたものの、道悪に適性がなかった点など、敗因があったのも事実。今回は、巻き返しを期す一戦にもなった。

僅差の3番人気となったのはモントライゼ。オールアットワンスと同じ3歳馬で、2020年の京王杯2歳ステークスを制するなど、重賞実績も十分。これまで、唯一掲示板を外した朝日杯フューチュリティステークスでは、暴走気味に逃げてバテたのが敗因。ただ、それが逆に直千競馬に向くのではないかという声も多く、上位の支持を集めることとなった。

以下、タマモメイトウ、ロードエースが人気順で続き、これら5頭が単勝10倍を切って、レースはスタートを迎えた。

レース概況

ゲートが開くと、不利とされる最内枠からバカラクイーンが好スタートを切り、そのまま内ラチ沿いに進路を取って、あっという間に3馬身のリード。2番手に、ライオンボスとロードエースの6枠2頭が並び、400m地点を過ぎたところで、今度はライオンボスが先頭を奪った。その後ろ、4番手にオールアットワンスとモントライゼ、そしてルドラクシャの3頭が続いたところで、レースは中間点を過ぎた。

カメラが正面に切り替わると、ただ一頭、内ラチ沿いを走るバカラクイーンと、馬場の外を走る15頭の構図が鮮明になり、場内がやや騒然とする。

そうこうしているうちに、レースはあっという間に残り200mを通過。ここで、オールアットワンス、ライオンボス、バカラクイーンが抜け出し、4番手以下を2馬身ほど突き放す。上位争いは3頭に絞られたが、最後の50mで前に出たオールアットワンスが、4分の3馬身差をつけて1着でゴールイン。2着にライオンボス。そこからさらに1馬身遅れて、3着にバカラクイーン。モントライゼは、後半失速し12着に敗れてしまった。

良馬場の勝ちタイムは54秒2。斤量も味方につけたオールアットワンスが、初の古馬混合戦、初の直千競馬をものともせず、重賞初制覇を成し遂げた。

各馬短評

1着 オールアットワンス

五分のスタートから難なく先行集団に付け、手応えは終始楽。中間点を過ぎ、カメラが切り替わる数秒間であっという間に先頭に立ち、そのまま押し切ってしまった。

父マクフィは、2017年から日本で供用され、2020年に産駒がデビュー。これが、JRAの重賞初勝利となった。勝率と複勝率が物足りないものの、芝の1600m以下では、複勝回収率が高い。

当レースとスプリンターズSは、今では関連性があまりなくなってきている。近年で好走したのは、2018年にともに2着したラブカンプーのみという状況だ。
とはいえ、オールアットワンスの今回の勝ち方を見る限り、スプリンターズSに出走しても、ラブカンプー同様、十分好走する可能性はあるとみている。

2着 ライオンボス

良馬場となって巻き返した。前走は体調もイマイチだったようで、対照的に、今回はパドックを見る限り、明らかに調子は良さそうだった。勝ち馬との6キロの斤量差はさすがに厳しかったが、良馬場の直千競馬なら、もうしばらく活躍してくれそうだ。

3着 バカラクイーン

2勝クラスからの格上挑戦だったが、菅原騎手の超のつく好騎乗で、十分な見せ場を作った。本来、不利とされる内枠スタートでの今回のような作戦は、まさに一か八かの賭けだったのだろう。しかし、この後に行なわれた最終レースもそうだったが、今週は、開幕週らしく内ラチ沿いを通った馬の好走が目立っており、この作戦が見事にはまった。

来年以降も、アイビスサマーダッシュが開幕週の時計が早い馬場で行なわれた際は、ダッシュ力のある馬や、思い切った騎乗をする騎手が内枠に入った場合は、同じような戦法をとる可能性があり軽視できなくなる。

レース総評

例年、牝馬が強いアイビスサマーダッシュ。こ
れで6年連続、3着以内に牝馬が2頭、牡馬が1頭入る結果となった。

直千競馬を得意とする騎手がよく口にするのが、「1000mという短い距離でも、道中で息を入れなければ、一気に走り抜けることはできない」ということ。バカラクイーンのように、好スタートを決めることは大前提として、ある程度前につけ、スピードを持続したまま一度息を入れてラストスパート、というのが好走パターンなのだろうか。

この「スピードを持続する」という点が、おそらく直千競馬のポイント。実際、このコースで好走している馬は、産駒が芝のみならずダートも得意とする種牡馬や、現役時に、ヨーロッパの直線競馬で勝利経験のある馬を血統表に持っていることが多い。

オールアットワンスの父はマクフィ。現役時に、英国の2000ギニーと仏国のジャック・ル・マロワ賞という、欧州を代表する直線競馬の大レースで優勝。ジャック・ル・マロワ賞に関しては、その父ドバウィと、父の父ドバイミレニアムとの父仔3代制覇も達成した。

昨年のアイビスサマーダッシュでも回顧を担当させていただいたが、その際に、直千競馬の今後注目の種牡馬の一頭としてマクフィを挙げており、予測が当たって、正直ほっとしている。他に、2021年は出走馬がいなかったが、このコースを得意としているのがロードカナロア産駒。自身も、現役時に世界最強クラスのスプリンターだったが、父の父の母ミエスクは世界的名牝で、やはり現役時に直線競馬のGⅠを勝利。上述のジャック・ル・マロワ賞も連覇している。

父がサクラバクシンオーで母系にミエスクを持つビッグアーサーと、芝・ダート兼用の可能性があるドレフォンの産駒は、今後も直千競馬で注目していきたい。

写真:かずーみ

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