[ゴールドシップ伝説]年度代表馬ジェンティルドンナとの初対決。3馬身差で優勝した伝説の一戦──2013年・宝塚記念

競馬を愛する執筆者たちが、稀代の名馬ゴールドシップの伝説を描いた新書『ゴールドシップ伝説 愛さずにいられない反逆児』(小川隆行+ウマフリ/星海社新書)。その執筆陣の一人である小川隆行氏が、ジェンティルドンナとゴールドシップが激突した2013年の宝塚記念を振り返る。


第54回 2013年6月23日 宝塚記念(GⅠ)

前年の年度代表馬と初対決
3馬身半差で優勝の「ベストレース」

明け4歳初戦の阪神大賞典を楽勝した次走、ゴールドシップは、圧倒的1番人気に支持された春の天皇賞で5着に敗れた。4コーナーを回った直後、鞍上の内田博幸騎手はそれまでのレースと異なりムチを数発入れた。恐らくはいつもより反応が鈍かったのだろう。さらに直線で伸びようとした次の瞬間、外にいたジャガーメイルに進路を遮られた。すぐさま外に持ち出したゴールドシップだが、前との差は詰まらず5着。勝ったのは日本ダービーで先着を許したフェノーメノだった。

続く宝塚記念ではフェノーメノに加え、三冠牝馬ジェンティルドンナも参戦。同馬は3ヶ月前のドバイシーマクラシックで2着と健闘していた。三冠馬オルフェーヴルは肺出血で回避、11頭立てと少頭数だったが、阪神競馬場に前年より15%も多い7万人が詰めかけたのも、ジェンティルドンナとゴールドシップの初対決が注目を浴びたためだ。

1番人気はジェンティルドンナで、2番人気がゴールドシップ。ジャパンCでオルフェーヴルを破ったジェンティルドンナが上だとみられていた。ゲート入り直前の同馬はいつも通りハイテンションで、直前に二枚重ねのメンコを外されゲートに入った。

スタート直後、8枠の2頭は対照的な走りをみせた。大外11番のジェンティルドンナがスムーズな走りで3番手を奪ったのに対し、外から2番目の10番ゴールドシップは今回もやや遅れた。しかし、レース前の調教が好内容だったことで、内田騎手は「馬にやる気があった」と感じ愛馬を促すとジェンティルドンナをマークする形で4番手につける。いつもの後方待機とは異なる先行策は3歳の共同通信杯以来だった。その直後にフェノーメノ。同世代の3頭は前団で互いに牽制しながらの競馬となった。

大逃げしたシルポートが後続を引き離し前半1000mは58秒5のハイペース。2番手に2年前の皐月賞(優勝オルフェーヴル)以来のGⅠ出走となったダノンバラードがつける。3馬身後方に人気の3頭、直後に春の天皇賞2着馬トーセンラーや重賞3勝馬ナカヤマナイトなどの5歳勢が控えた。

3・4コーナー中間地点でシルポートとの差を詰めにかかったゴールドシップは4コーナー手前で早くも押しながらジェンティルドンナに並びかけた。このときの手ごたえを見ると、ジェンティルドンナが追い出す直前でスムーズな走りをみせる一方、ゴールドシップには早くもムチが入っている。このシーンを目にして「ジェンティルドンナの余力がゴールドシップを上回る」と感じたが、内田騎手にムチを放たれるたびにゴールドシップは伸びてくる。シルポートを抜き去ったダノンバラードに並びかけると同馬に3馬身半差でゴールイン。GⅠ4勝目を挙げた。直線で差が開いたままのジェンティルドンナは鞍上の岩田康誠騎手がムチを放つも、ダノンバラードに並びかけるのが精一杯だった。

前年の年度代表馬であり、オルフェーヴルを破った三冠牝馬に3馬身半差以上の快勝劇。「力でねじ伏せてくれました。強いゴールドシップが戻ってきて嬉しいです」と内田騎手は笑みを浮かべた。この勝利でゴールドシップは秋春グランプリ連覇を達成した。

ゴールドシップが挙げたGⅠ6勝のうち、いちばんの強敵を倒したレースこそ、この宝塚記念ではないだろうか。先輩三冠馬オルフェーヴルを下しGⅠ7勝を挙げた名牝に3馬身半差の勝利である。4着は日本ダービーと春の天皇賞で先着を許していたフェノーメノでもあり、個人的にゴールドシップがもっとも強さを見せたレースだと感じている。

一方のジェンティルドンナは7戦ぶりに連対を外し3着。勝てば凱旋門賞に出走する予定だったが、陣営は出走を踏みとどまり、秋も国内に専念することとなる。天皇賞を2着すると、ジャパンCではレース史上初の連覇を達成する。このレースで2番人気だったゴールドシップは後方ママで15着大敗。宝塚記念の好内容はどこへやら、の結果となった。(文・小川隆行)

写真:Horse Memorys


ゴールドシップの魅力や強さの秘密、ライバルたちにスポットをあてた新書『ゴールドシップ伝説 愛さずにいられない反逆児』が2023年5月23日に発売。

製品名ゴールドシップ伝説 愛さずにいられない反逆児
著者名著・編:小川隆行+ウマフリ
発売日2023年05月23日
価格定価:1,250円(税別)
ISBN978-4-06-531925-3
通巻番号236
判型新書
ページ数192ページ
シリーズ星海社新書
内容紹介

気分が乗れば敵なし! 「芦毛伝説の継承者」

常識はずれの位置からのロングスパートで途轍もなく強い勝ち方をするかと思えば、まったく走る気を見せずに大惨敗。気性の激しさからくる好凡走を繰り返す。かつてこんな名馬がいただろうか。「今日はゲートを出るのか、出ないのか」「来るのか、来ないのか」「愛せるのか、愛せないのか」...。気がつけば稀代のクセ馬から目を逸らせられなくなったわれわれがいる。度肝を抜く豪脚を見せた大一番から、歓声が悲鳴に変わった迷勝負、同時代のライバルや一族の名馬、当時を知る関係者・専門家が語る伝説のパフォーマンスの背景まで。気分が乗ればもはや敵なし! 芦毛伝説を継承する超個性派が見せた夢の航路をたどる。

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