![[連載・片目のサラブレッド福ちゃんのPERFECT DAYS]無償の愛(シーズン2-13)](https://uma-furi.com/wp-content/uploads/2026/04/2026042112.jpg)
ファンファーレが鳴ってからのことはあまり良く覚えていません。思っていた以上にポンと飛び出して、スッと2番手に控え、これ以上ないぐらいスムーズに最終コーナーを回ってきている姿を見て、「勝てる」と思いました。
逃げた馬があっさりと後退して、ルリモハリモが先頭に立った瞬間、僕の心臓は破裂しそうでした。数秒後には、内から伸びてくる馬の脚色が良く、外から併せてきた馬にも抜かされそうになり、勝負の世界の厳しさを知ることになりますが、あの一瞬、動画を撮影するという使命も忘れ、夢を見たのです。
振り返ると、チーム福ちゃんの皆さんが喜んでくれています。「おめでとうございます!」、「頑張りましたね!」、「勝ったと思いました!」と口々にお祝いの言葉をかけてくださいました。オータムセールで主取りになって以来、NO,9ホーストレーニングメソドの木村さんと新馬勝ちを目指して、勝てると信じてやってきただけに、僕にとっては敗北感に襲われた場面でしたが、皆さんのおかげで肯定感が戻ってきました。
「そうですね。頑張りましたね。勝ったかと思いましたよ」と喜びを分かち合いながらも、際どい2、3着争いが気になり始めました。僕から見ると内のルリモハリモがギリギリ残しているように映ったのですが、スロー再生を見ると、首の上げ下げでわずかに差されています。

僕の頭には2着と3着の賞金の差が浮かんできました。2着の賞金は164万円で3着は102万円ですから、わずかハナ差で62万円の違い。ルリモハリモは木村さんと僕の半持ちなので、僕としては31万円の違い。福ちゃんの塾代(エクワインレーシングの預託費)には及びませんが、小さくない金額です。ルリモハリモが歯を食いしばってデビュー戦を走ったのに、僕はついソロバンを弾いているのですから最低な馬主です(笑)。
レースを終えて戻ってくるルリモハリモを見ると、やはり疲れたのか、かなり息が上がっている様子です。所騎手が下馬をしてから張田調教師と何か話をしているのも見えますが、何と言っているのか分かりません。「思っていたよりも伸びませんでした。もう少し距離があっても良いかもしれません」、「そうか」と言っているように僕の想像上では聞こえました。
ルリモハリモは舞台裏に退き、僕たちは横断幕を外しにパドックに戻りました。第4レースの出走馬が出てくるまでには外さなければいけません。付けるのはあんなに難しかったのに、外すのは簡単でした。次回のことも考えて、紐はそのまま横断幕につけておくことにしました。もう少し補強して次回は臨みたいと思います。
ひと仕事もふた仕事も終えた気ですが、せっかくなのでチーム福ちゃんの皆さまとオフ会がしたいと考えていたので、声をかけてみました。「近くのサイゼリヤで軽く食事しましょう」と誘うと、そこにいた全員が快諾してくれました。
僕も入れて計11名がサイゼリヤに向かいました。店内は縦に広く、テーブル2つに5人と6人に分かれて座りました。僕はたまねぎのズッパにドリンクバーをつけて計500円。それぞれの飲み物が揃ったところで乾杯!
碧雲牧場や福ちゃん、ルリモハリモの話に花が咲き、僕はテーブルを回りながら全員と話し、それぞれの想いを聞くことができました。「福ちゃんのレポートや写真がエクワインレーシングさんのHPに乗っていて、10月1日時点で馬体重が468kgでしたよ」と教えてくれた人もいました。僕も普段からチェックしているつもりですが、馬主の僕よりも皆さんの方が早く知っているという…(笑)。
福ちゃんの卒業アルバムに載せる寄せ書きを、1通1通開封して読んでいたときにも感じましたが、僕は本当に素敵な人たちに見守られて、救われて、ここまでくることができました。自分が出資したりしているわけではない他人の馬を、自分の子どものように気にかけて、心から応援してくださっているのです。
それを無償の愛と言わずに何と言いましょう。何かにつけて見返りを期待したり、投資効率や費用対効果を考えてしまう僕らは、こうした愛の形が存在することを知らなければいけません。そうした人たちとお会いして、一緒に過ごせるのは至福の時間です。僕たちは記念撮影をして別れました。
せっかく日本酒を持ってきたので、勝てなかったけれども張田厩舎に持って行こうと思い、張田調教師に電話をしたところ、お出になりません。開催中は他の出走馬もいるので、忙しくて出られないのでしょう。レース後のルリモハリモに会いに行くのはあきらめて、競馬場に戻ったチーム福ちゃんの面々と競馬を楽しむことにしました。
本日のメインレースである千葉ダートマイルには、大狩部牧場のアランバローズとナンセイホワイトが出走します。この2頭は兄弟であり、父こそヘニーヒューズとタリスマティックと違え、母はカサロサーダで同じです。2頭もオープン馬を出すなんて、カサロサーダという繁殖牝馬は凄い。アランバローズは初仔ということもあってか、430kg台でデビューしたように小柄ですが、半弟のナンセイホワイトはタリスマニック産駒にしては珍しく、500kg台の大型馬です。ナンセイホワイトは額全面に流星が流れてド派手な顔をしているように、顔つきも全く異なります。
パドックで並ぶ2頭を見ながらも、チーム福ちゃんの皆さまと「いつかルリモハリモと福ちゃんも同じレースに出るかもしれませんね。交流重賞あたりで」と夢を語りました。ルリモハリモと福ちゃんも、馬体の大きさから顔まで、何から何まで全く異なるタイプですね。同じレースに出走したら、ルリモハリモが姉の意地を見せるのか、それとも福ちゃんがパワーでねじ伏せるのか、もしかすると1着同着なんていう最高の結果になるかもしれません。
夢のような1日は終わり、僕たちは船橋競馬場をあとにしました。翌日、張田調教師に電話をしてみると、「昨日は出られなくてすみません」と言ってくださって、僕も「開催中はお忙しいでしょうから、全然かまいません」と返し、ひと呼吸おいて、「ルリモハリモのレース後は大丈夫ですか?」と確認したところ、「問題ないよ。もう1回使ってみて、様子を見たいと思っている」と教えてくれました。馬体重が増えて競馬に臨めていたので、疲れを心配するよりも、上昇気配をそのままに使った方が良いと僕も考えていました。Carpe diem(カルぺ・ディエム)です。ブルーステーブルに行って、また環境が目まぐるしく変化するよりも、船橋競馬場に在厩していた方が良いという思いもあります。「分かりました。その前に、またルリモハリモの様子を見に行きますので、連絡させてください」と言って、僕は電話を切りました。
返す刀で、NO,9ホーストレーニングメソドの木村さんにも電話をしてみました。木村さんは、「勝てなくてすみませんでした」と第一声。「この馬は新馬戦を勝てますから、大船に乗ったつもりで任せてください」と言ったことを覚えてくれていたのです。「いえいえ、勝ちたかったので残念ですが、頑張ってくれました。勝った馬は強かったです」と言うと、「ジョッキーは長手綱で中距離を乗るようにフワッと乗っていたので、最後の直線でギアが上手く変わらなかったと思う。1200m戦で勝つにはもっと手綱を詰めて乗った方が良いな。ルリモハリモはもっと距離が延びた方が良いし、コーナーを4つ回るようなコースの方が合っているね」と僕にはなかった視点でルリモハリモのデビュー戦を解説してくれました。
「ただ、拓己(長男の木村拓己くん)に聞いたところ、2歳の未勝利戦は1200mの短距離戦しかないらしいから、何とかして勝ち上がらなければいけません。1勝できると、浦和や川崎競馬場のレースにも出走できるから、距離やコースの幅が広がるからね。将来的には、桜花賞(浦和1500m)よりも、東京プリンセス賞(大井1800m)が狙いだね」と語ってくれました。マイル戦までかなと考えていた僕の見立てとは違って、木村さんは1800mの方が良いと考えているようで、なるほどと唸らされました。こうして意見や考えのすり合わせができるのは良いことですし、僕にとっても勉強になります。
「レースだけじゃなくて、たまには会いに行ってあげてくださいね。僕は遠くて行けないから」と木村さんがおっしゃってくれたので、「はい、僕もそのつもりです!」と返事をしました。馬主たるもの、レースの時だけ足を運ぶのではなく、そうでないときにも顔を出して、馬たちに会ってあげるべきと木村さんは教えてくれました。僕もそれで良いのだと腑に落ちたのです。ルリモハリモを木村さんに任せて、半持ちして良かったと心から思いました。
Photo by うずまき
(次回へ続く→)
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