不屈の競走馬、オフサイドトラップ - 3度の屈腱炎の先で走り、掴んだ栄光
■幾度の屈腱炎にもめげず、勝利を目指し走る古豪

通算成績は28戦7勝。うち2着8回、3着5回で掲示板には20回も入るという安定感を見せたオフサイドトラップ。だが、現役生活の多くの時間を屈腱炎に費やした同馬は、順調なローテーションで走る事が出来たとは言い難い。

オフサイドトラップがデビューしたのは1993年。あの三冠馬ナリタブライアンと同世代である。だが、オフサイドトラップは4歳(旧齢表記)時の夏、5~6歳時の冬、7歳時の春と現役中に3度も屈腱炎を発症している。ちなみに、同馬が2度目の休養生活を送っている時期に、ナリタブライアンは屈腱炎で引退している。そんな致命的な怪我に見舞われながら、それでもオフサイドトラップは勝利を目指し、脚元とうまく付き合いながら諦めずに走り続けていた。

3度目の治療を終え、8歳の3月に再びターフへとその姿を現した頃、第一線で活躍し続ける同期はほとんどいなくなっていた。だが、管理する加藤修甫調教師も、担当する椎名晃厩務員も、オフサイドトラップが輝く瞬間を信じ、努力と工夫を重ねたのだろう。その想いは、蛯名正義騎手と挑んだ七夕賞で叶った。

道中は中団から進め、直線に向いたところで一完歩ずつ先頭との差を詰めていくと、ゴール手前で逃げ込みを図るタイキフラッシュをクビ差だけ差し切りフィニッシュ。待ち望んだ1着は、95年のバレンタインS以来となる3年ぶりの勝ち星であり、同時に重賞初制覇でもあった。この勝利の美酒を、陣営は味わい、噛み締めたであろう。

■強さを確信した新潟記念

次走は新潟記念。オフサイドトラップは、前走と同じく蛯名騎手とコンビを組んだ。重賞馬となったオフサイドトラップには、メンバー中、最重量ハンデとなる58キロという斤量がずっしりとのしかかってきた。最軽量のガールスカウトが49キロと、10キロ近いハンデ差がある。

しかしそれでも、単勝オッズは1番人気。重い斤量は背負いたくないが、ハンデをファンの期待が上回ったのだろう。多くのファンが、前走の七夕賞で見せた走りが本物だと感じていた。

レースはガールスカウトが先陣を切り、トウカイタローにプロモーション、スガノオージやファーストソニアあたりが好位を形成する。

一方、スタートを決めたオフサイドトラップはグッと抑え、ほぼ一団となった馬群の真ん中あたりに位置。来るべき時に備えて、脚を溜めているように見えた。

そして最終直線、先頭を走るガールスカウトを、ここまで番手から様子を見ていたファーストソニア、ブラボーグリーンがそれぞれ内と外からとらえにかかる。そのタイミングで、蛯名騎手がゴーサインを送った。

たちまち、オフサイドトラップは溜めに溜めていた脚を開放させた。まるで自身が背負っている58キロという斤量を忘れたのかと思わせるくらいに、気持ち良さそうな走りで次々と他馬を抜き去っていく。ただ、先頭ではブラボーグリーンとファーストソニアが叩き合いを繰り広げる。果たしてオフサイドトラップは届くのか、それとも先頭に立つ2頭のどちらかが最後まで残すのか。

外からわずかに抜け出していたブラボーグリーンに、オフサイドトラップが並びかけたところでゴールイン。勝利の栄冠を掴んだのは──オフサイドトラップだった。

1番人気に応えての重賞連勝。もしかするとこの走りを見たファンのなかには、あの最強馬のライバルになれるのではと考えた人もいるかも知れない。オフサイドトラップが次に挑戦する天皇賞(秋)には、この年、大逃げ戦法を確立させ、前哨戦の毎日王冠まで負け無しだったサイレンススズカが待ち構えていたのだ。

■君はあの日曜を、先頭で駆け抜けた

そして天皇賞(秋)、この日の主役になると見られていたサイレンススズカだが、同馬は東京競馬場の3コーナー、大欅を迎えた所で大きく失速し、競走を中止した。だがレースは続く。4コーナーを越え府中の長い直線に差し掛かったところで、競走中止の不利をうまくかわして最内を走るオフサイドトラップが先頭に躍り出る。初のGⅠタイトルが見えてきたが、残り200mの辺りで、背後に迫ってきた競走馬がいた。天皇賞(春)、宝塚記念を2着とし、あともう少しでGⅠ初制覇に手が届くところまで来ていたステイゴールドである。

だがステイゴールドはオフサイドトラップをとらえるかと思われたところで、内にササって斜行。一方、オフサイドトラップは最後の力を振り絞り、懸命に真っ直ぐ走ってステイゴールドを抑え込むと、そのまま先頭でゴール板を駆け抜けた。ゴールの瞬間、柴田善臣騎手は右手を高く上げてガッツポーズ。3度の屈腱炎を乗り越え手にした、初のGⅠタイトルである。

のちに沈黙の日曜日として語られるこの天皇賞(秋)は、勝者・オフサイドトラップへの祝福と、府中の3コーナーで別れを告げたサイレンススズカへの悲しみという、相反する感情が溢れるレースとなった。

だが、このレースをオフサイドトラップは間違いなく先頭で駆け抜けた。それも屈腱炎という、競走馬にとって完治のない病に幾度となく悩まされたうえで。苦難の先に掴んだGⅠタイトルという事実は、決して薄らぐことはない。それほどまでに、この日のオフサイドトラップは堂々たる勝者であったのだ。

次走、有馬記念の10着を最後に、現役生活に別れを告げたオフサイドトラップは、種牡馬として第二の馬生をスタート。2003年には功労馬兼、乗馬としてのサードキャリアを踏み出したのち、2011年8月28日、その生涯に幕を閉じた。屈腱炎という病と闘いながら、最後はGⅠ馬に輝いたオフサイドトラップ。虹の橋を渡った先で、先に逝った名馬たちとどんな会話を交わしているだろう。

写真:Horse Memorys、かず

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