[追悼]大きな流星を揺らして - オウケンブルースリがくれたたくさんの宝物

オウケンブルースリ。

ブルースリーではなく、ブルースリ。競走馬の名前に許された九文字に無理やり詰め込んだような、けれどそんな名前が、どういうわけかよく似合う馬だった。

私が初めてオウケンブルースリを知ったのは、ダービーに向けた戦いが佳境を迎える5月、裏開催の新潟で行われた未勝利戦だった。新聞片手にぼんやり眺めていると、断然人気の栗毛の馬が4コーナーで大外へ大きく膨らみ、あっという間に画面の外へ消えていった。

なんてこったと思いながら残された馬たちの攻防を見守っていると、ゴール寸前、今度はその馬が信じられない脚で再び画面に飛び込んできた。

1番人気5着。着順だけ見れば、なんてことはない。けれど、妙な感覚が胸に残った。ほとんど画面に映っていなかったからよく分からない。よく分からないけれど、とんでもない走りをした馬を見たような気がした。まだ何者でもなかったその馬のことが、急に気になり始めた。

そこからオウケンブルースリは、一気に覚醒していく。未勝利戦、生田特別、阿賀野川特別と3連勝。ゴール前で見せる脚は鮮烈そのものだった。普通の馬なら「もう十分」と思うような地点から、さらにひと伸びする。ひとつ前へ出るだけではない。そこから、もうひとつ、ふたつと他馬を突き放していく。そのたびに「この馬は、ただものではない」と思わされた。

今にして思えば、あの頃から独特の愛嬌があった。

大きな流星を持った派手な顔立ちで、レースぶりは豪快。けれどフォームにはどこか不器用さがある。少し首が高く、全身を振り回すように走る。そんな不器用さが、どこか寸足らずな名前と不思議なほどマッチしていた。

格好いいのにどこか可笑しい。派手なのにとびきり親しみやすい。そんな馬だった。

3連勝の勢いのまま挑んだ神戸新聞杯で3着に入り、いざ初めてのGⅠ・菊花賞へ。ここまでの走りを見れば、力があることは分かっている。それでも、GⅠともなれば相手も舞台も一変する。今まで見せてきた破天荒な走りが通用するのか、不安がなかったと言えば嘘になる。

けれど、そんな心配はまったくの無用だった。

後方待機から、淀の下り坂で一気に動く。馬群の外を大きく回りながら、坂の勢いまで味方につけて先頭へ。栗毛の馬体が大きく伸び、白く大きな流星が躍動する。

曇り空の下、薄暗い京都の直線で、彼だけが眩しく輝いて見えた。ぐんぐんと加速し、白い流星がひときわ大きく揺れる。ゴールの瞬間、内田博幸騎手が力強くガッツポーズを掲げる。

ダービーの頃にはまだ裏開催を駆けていた馬が、あっという間に頂点へ駆け上がり、菊花賞馬になった。あの未勝利戦で画面の端から飛び込んできた馬は、本当にただものではなかった。

翌年のジャパンカップも、忘れられない。

相手はウオッカ。直線で抜け出したウオッカに、オウケンブルースリが凄まじい脚で迫る。2頭が弾けるように伸び、後続を置き去りにしていく。大きな流星を揺らして差を詰め、馬体がぴったり並んだところがゴールだった。ほんのわずか、ハナ差だけ届かなかったけれど、そのダイナミックなフットワークに目を奪われながら、私は胸の中で感嘆の声を上げていた。「こんなにも、こんなにも強かったのか」と。

ウオッカが強かったから、あのレースは名勝負になった。そしてオウケンブルースリが極限まで追い詰めたからこそ、勝者の強さもまた際立った。死力を尽くしてゴールへ飛び込んだ2頭の姿に、胸が熱くなった。

その後も、オウケンブルースリは走り続けた。怪我にも苦しみ、勝利からは少しずつ遠ざかったけれど、時折見せる驚異的な末脚は健在だった。直線に向くたびに「もしかしたら」と思わせてくれる。もう一度、あの夢のような走りが見られるかもしれない、そんな期待を、何度も抱かせてくれた。

ターフを去ってからも、彼の物語は長く続いた。種牡馬としては決して恵まれた境遇とは言えない中で、重賞馬オウケンムーンを送り出した。そして種牡馬を引退後、うらかわ優駿ビレッジAERUへ身を移してからは、たくさんの人が彼に会いに訪れた。

SNSに流れてくる彼の姿。そこには、現役時代と変わらない立派な流星と、当時よりずっと穏やかで丸くなった表情があった。その姿を見て、画面越しに心が温かくなった。

ある日、新しい「顔」が加わった。

顔の形が似ているという理由から生まれた、彼をモチーフにしたクリーム入りコッペパン。その愛らしい写真を目にしたとき、

「そうか。君はコッペパンだったのか」

と思わず吹き出してしまった。

菊花賞を制し、ジャパンカップでウオッカと死闘を演じた名馬が、今度はみんなに愛されるコッペパンになっている。格好よくて、強くて、少し不器用で、やっぱりどこか愛くるしい。どこまでもオウケンブルースリらしいと思った。

そうやって、走り終わったあとも、彼はたくさんの笑顔を生み出し、愛され続けていた。

オウケンブルースリ。

少し寸足らずなその名前も、大きな流星を揺らして駆けた勇姿も、放牧地でのんびり草を食む穏やかな横顔も。

たくさんのワクワクと笑顔を、ありがとう。どうか、安らかに。

写真:Horse Memorys、norauma、ぼん(@Jordan_Jorvon)

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