血統のシンギュラリティ・ポイント - アドマイヤムーン

競馬を長くやっていると、どうしても血統に対してイメージというか先入観が生まれてくると思います。

例えば、ディープインパクトの血が入っていると切れ味とスピードがありそうであるとか、ステイゴールドの血が入っているとパワーがあって中山競馬場が得意そうだなとか、多くの人が特定の血統に対するイメージというのを少なからず持っているのではないでしょうか。

そして、これもまた競馬を長くやっているとそういう血統のイメージからは大きく外れる、もしくはそれすら変えてしまうような「特異点(singular point)」のような名馬に出会うこともしばしばあります。筆者にとっては2007年の宝塚記念とジャパンカップを制したアドマイヤムーンがその「名馬」にあたります。

アドマイヤムーンの血統を見ると、母系には3代母に1994年のエリザベス女王杯を制したヒシアマゾンを筆頭に、3頭のJRA重賞勝ち馬を輩出したKatiesがいます。つまり、いわゆる芝を中心とした日本競馬にマッチした牝系でした。

一方で父エンドスウィープ。同馬は2000年から日本での供用が開始されましたが、それ以前に我が国で走った外国産の産駒だと、2003年のJBCスプリント勝ち馬サウスヴィグラスなどが代表産駒でした。そのため個人的には「ダートの短距離で活躍する種牡馬」というイメージが強く、クラシックの王道を歩むというよりも、交流重賞で無双することを目指すのが同馬の子どもたちにとっては理想像と思えていました。

しかし、日本で供用されるようになって以降、つまり2001年以降に生まれた産駒からは2004年の秋華賞を制したスイープトウショウや、2005年の桜花賞を制したラインクラフトなど、芝の大舞台で活躍する馬が出始めます。これにより、エンドスウィープ産駒に対するイメージは少しずつ変わってきていました。

そしてラインクラフトの桜花賞制覇から2か月後、スイープトウショウが宝塚記念を勝利。その2週間後の7月10日に、アドマイヤムーンは函館芝1800mでデビューします。

そしてこの新馬戦は、2年続けて牝馬クラシックで活躍する子を送り出したエンドスウィープが、ついに牡馬クラシックを席巻する可能性がある子を出した、と印象付けられるレースでした。

夏の新馬戦としては比較的珍しいフルゲート16頭立てで行われた1戦。アドマイヤムーンは最初の1コーナーで最後方という位置取りになってしまいます。

新馬戦というのは、各馬の成長度合いによる仕上がりの差がはっきりしていることも多く、前半のペースについていけるかが勝負の分かれ目になることも非常によく見られます。そのため前に行った馬だけでそのまま決着することも全く珍しくないです。

そんななかで最後方からのレース、しかも多頭数という展開になってしまうと、いくら力があったとしても早めにバテてきた馬をさばくのに手間取ったりしているうちにレースが終わってしまう、なんてこともあるため、勝ち切るのは難しい展開と言って差し支えないと思います。

しかし、アドマイヤムーンは4コーナーまでに上手くバテてきた馬をさばいて外に出すと、直線入り口では2馬身ほど前にいた先頭を残り200mでとらえ、そこからさらに2馬身半突き放すという圧巻の勝ちっぷりを見せました。

そのあと、アドマイヤムーンは1か月以上のレース間隔を空け、札幌競馬場で行われていたオープン特別クローバー賞を制すると、北海道シリーズの最後を締めくくる重賞・札幌2歳Sに出走することになりました。

このレースには、札幌の新馬戦で2着に7馬身差をつける圧勝劇を演じたサンデーサイレンス産駒マツリダゴッホ、伯母にエアグルーヴを持つクロフネ産駒の良血馬フラムドパシオン、函館2歳Sを制した道営所属の強豪、モエレジーニアスなど骨っぽいメンバーが出走していました。

そんなメンバーのなかでもアドマイヤムーンは単勝オッズ2.9倍の1番人気に推され、ファンの強い支持を受けていました。

レースは、ここ2戦とは一転してスタートをスムーズに決めると、やや行きたがるそぶりを見せていました。しかし、向正面までには落ち着き、中団でばっちり折り合いをつけると、3角手前から進出。ここでアドマイヤムーン以外にもモエレジーニアス、マツリダゴッホ、フラムドパシオンあたりの人気馬が一斉に仕掛けだす、捲りあいの様相を呈していきます。

しかし、そんななかでもアドマイヤムーンの手応えは他馬のそれを一枚も二枚も上回っていました。

そして、4コーナー出口で先頭に立つと、直線では後続を全く寄せ付けない末脚で後続を完封。2着との着差は1馬身半差でしたが、それ以上に力の差を感じさせる「強い馬」しかできない勝ち方だったように思います。

さて、ここで改めて「種牡馬のイメージ」の話に戻りますが、この勝利を見るまで私はまだエンドスウィープを「ダート短距離向きの種牡馬」というイメージを拭えていませんでした。

スイープトウショウやラインクラフトの活躍をもってしても、どこかで「まぁ2頭とも牝馬だし、軽いスピードが良い方に作用したのだろう」と思っていました。

しかし、アドマイヤムーンが単なるスピードだけでなく力強さも兼ね備えた「牡馬クラシックでも十分勝負になる」と思わせる勝ち方は、私のエンドスウィープの種牡馬としての認識を「牝馬クラシックだけでなく牡馬クラシックでも勝ち負けできる種牡馬」に改めるに至りました。それくらい、この札幌2歳Sの勝ちっぷりは私にとってのエポックメーキング的レースとして印象に残っています。

そのあとのアドマイヤムーンは、クラシックこそ勝つことが出来ませんでしたが、古馬になってからはドバイデューティーフリー、宝塚記念、ジャパンCとGⅠを3勝。宝塚記念のあとには、当時の日本競馬界にとっては破格となる40億円という高額で所有権が世界有数の馬主であるダーレーグループに売却されるなど、話題の面でも事欠かない活躍を見せました。

種牡馬としてもそのダーレーの期待に応えるように、高松宮記念を制したセイウンコウセイ、2018年に春秋のスプリントGⅠを連覇したファインニードル、スプリント路線で長きにわたって活躍したハクサンムーンなど、芝のスプリント路線を中心に活躍馬をコンスタントに輩出しました。

一方で、ダートに関しては、地方競馬の重賞を勝った馬はいるものの、JRAのダート重賞や地方のダートグレード競走を勝った馬はおらず、JRAオープン級での勝利も、2014年に霜月Sを制したジョヴァンニが唯一という成績になっています。

後継種牡馬であるファインニードルもコンスタントに芝の重賞勝ち馬を輩出し、日本における芝のエンドスウィープ系の礎を築いています。そういった意味でも、アドマイヤムーンはエンドスウィープ系の特異点と言えるのではないでしょうか。

写真:H.Kaneko、Horse Memorys、しんや

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