未来を変える勝利 - アジアエクスプレス

競馬という競技にはさまざまな側面があります。ギャンブルであったり、スポーツであったり、時には小説を超えるようなドラマを魅せてくれることもあり、本当に奥深い競技だなと常々感じさせます。

その多様な側面の一つに「子孫を残す馬を決める選定」と言う部分もあります。特に生産者にとっては生産した馬が高く売れるかどうか、活躍するかどうかは死活問題にもかかわるので、優秀な馬、種牡馬となるような馬の動向には常に目を光らせているのは疑いのないところだろうと思います。

種牡馬の価値をはかるレースとは基本的にはGⅠレースになるのではないでしょうか。ダービーは年に1万頭近く生産される同世代の頂点を決めるレースで、そこを勝つような馬は「この馬の血を残すべき」と言うことに説得力を持たせる最たる競走でしょう。

しかし、時にはGⅠではないところで「種牡馬としての価値」をアピールする馬もいます。今回紹介するアジアエクスプレスなどはその一頭と言えるのではないでしょうか。

アジアエクスプレスはストームキャット系種牡馬ヘニーヒューズ産駒の外国産馬で、中山競馬場で行われた最後の朝日杯フューチュリティSの覇者としても知られています。

先の「種牡馬としての価値のアピール」と言う観点で見ると、朝日杯フューチュリティSはややインパクトに欠けるのか、このレースを勝つだけでは種牡馬としての評価が上がるとは言い難いかもしれません。

3歳以降も常に求められる成績を残せるかどうか、そして、成長力があるかどうか──。2歳GⅠである朝日杯フューチュリティSを制したあと、種牡馬としての価値を見出されるかという点では、そういうところを見られるのかもしれません。

この時点でやや早熟と見られていた感のあるヘニーヒューズ産駒のアジアエクスプレスはスプリングS2着、皐月賞6着と今一つ煮え切らないレースが続いていました。満を持してデビューから2連勝を飾ったダートに戻ったユニコーンSでは良いところなく12着と大敗。このレースを見て「あぁ、アジアエクスプレスって早熟なのかもな」と感じたファンも多かったかもしれません。

もし生産者も同じように考えれば、アジアエクスプレスの種牡馬としての路は閉ざされてしまう可能性もある。アジアエクスプレスはサラブレッドとして、大きな岐路に立たされていました。

そんなアジアエクスプレスの次走に選ばれたのが、新潟で行われる3歳のダート重賞レパードS。ユニコーンSの大敗後でしたが、この馬の底力を信じたファンも多かったのか、アジアエクスプレスは1番人気に支持されました。

レースは、デビューから2戦2勝のクライスマイル、ダートのオープン競走青竜Sを制したノースショアビーチ、アジアエクスプレスの3頭が先頭を争うように1コーナーから2コーナーへ。アジアエクスプレスは、馬群の中に閉じ込められ砂をかぶってやる気をそがれたようにも見えたユニコーンSとは違い、外枠から砂をかぶらないような位置を取り気持ちよく先頭を追走していきました。

このレースで初めて着用したブリンカーの効果もあったのでしょう、前走より明らかに良い手応えで4コーナーを回ってきたアジアエクスプレスは、その手応え通りの伸び脚で後続を完封。「力が違う」と言わんばかりのレースで、終わってみれば2着馬に3馬身半の差をつける完勝劇で、「やっぱりGⅠホースは強い」と万人に感じさせる勝ちっぷりでした。

このレースでアジアエクスプレスは3つのことを示したと思います。

ひとつめは、確かなポテンシャル。朝日杯を制したのは単に完成度の高さだけでなく、しっかりとした能力の裏付けがあってのものだったと改めて感じさせるそれくらい強いインパクトのあるレースでした。

ふたつめは、3歳戦でも重賞を勝てる成長力。一度大敗を喫してもそこからきっちりと巻き返せる精神力と体力は単なる早熟馬とは一線を画していると多くの人に印象付けました。

みっつめは、高いダート適性。デビュー2戦はダートで勝っていたとはいえそれはあくまで条件戦での話。それだけで「この馬を種牡馬入りさせればダートでも期待できる」と言うアピールとしては若干弱かったかもしれません。

しかし、ダートの重賞でこれだけの勝ち方が出来るならば、芝ダート兼用の種牡馬としての需要をさらに高めたと言えるのでないでしょうか。

同時期に同じ馬主、同じヘニーヒューズ産駒のモーニンがフェブラリーSを制するなど活躍したことも追い風となってか、アジアエクスプレスはその後5戦未勝利だったものの、引退後の2017年春シーズンから種付けを開始。初年度から175頭に種付けする人気種牡馬となりました。そこからコンスタントに活躍馬を出し続け、2026年7月末現在でスプリント重賞を4勝しているピューロマジックに、父と同じレパードSを制したドンインザムードと2頭の重賞勝ち馬を輩出しています。

産駒は、全体を見ればダートで活躍する馬が多いものの、先のピューロマジックやオープンの北九州短距離Sを勝ったキタノエクスプレスなど、配合次第では芝で活躍する馬を出せるポテンシャルも秘めています。

また、古馬になってからの勝率も高く、ブレイクフォースやサイモンザナドゥなど、年を重ねてからオープン入りし重賞で好走する馬も見られ、高い成長力を示しています。

このように種牡馬としてはすっかり軌道に乗った感のあるアジアエクスプレスですが、もしレパードSに勝てなかったり、出走していなかったりしたらどうなっていたでしょうか?

芝・ダート兼用の高いポテンシャルや、完成度の高さでだけでない確かな成長力を示すことが出来ず、もしかしたらこれほどまでの数の牝馬は集められなかったかもしれません。

アジアエクスプレスにとって「代表的な勝ち鞍」は朝日杯フューチュリティSだと思います。しかし、「運命を変えた勝ち鞍」はレパードSと言えるのではないでしょうか。

今年のレパードSも「運命を変えた勝ち鞍」の出現を期待したいと思います。

写真:Horse Memorys、H.Kaneko

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