指名馬が発表になるたびに「おお〜」「とられた!」という声が教室に響く。
和やかなムードでありつつも、真剣にPOG対策本のページをめくっていく彼らは「JRA-VAN POG × うまカレ 大学対抗POG大会 2019-2020」の参加者だ。
今や全国から29大学が集う、大学競馬界の一大イベントとなった「大学対抗POG大会」。
今回はそんな「大学対抗POG大会」の、ドラフトの模様を取材してきた。
彼らの熱意とこだわり、そして競馬愛に迫る。
※今回の大学対抗POG大会のルールは以下の通り。
- 各大学がドラフトで合計7頭を指名
- 牡馬牝馬をどちらも少なくとも3頭ずつ指名
- 新種牡馬の産駒を少なくとも1頭指名
筋肉質な馬が好きです!──横浜国立大学
競馬を見始めたのは中学一年生から、という横浜国立大学のTさん。
横浜国立大学は2018年にはワグネリアン、2019年にはサートゥルナーリア・ヴェロックスを指名した、大学対抗POG大会における『超名門』だ。
「サートゥルナーリアは1位指名でした。人気馬だったので重複したのですが、くじ引きをして獲得出来ました。でもヴェロックスは、新種牡馬を指名しなくちゃいけないというルールだったので、仕方なく最下位で指名した馬でした。こんなに活躍してくれるとは……。ダービーもどちらかが勝ってくれるものだと思っています!」
そうやって快活に笑う青年の、今年の一巡指名馬はシルヴェリオ(母:シルヴァースカヤ、父:ハーツクライ)。
「(POG対策本で)写真をみてビビッときた馬をリストアップして、その後は競馬サイトなどで評判を調べています。今年はシルヴェリオが一番よく見えました。どこがいいか説明するのは難しいんですが……なんか、良かったんですよね。個人的には筋肉質な馬が好きです」
しかしシルヴェリオは3大学で競合して抽選に。サートゥルナーリアを引き当てた勢いで今年も……と意気込んだものの、結果ははずれ。
「まあ、こんなもんですよね」と笑いながら帰ってきた姿が印象的だった。
一方で、そうした先輩たちの流れを受け継いでいく後輩たちも、着々と成長を続けている。
「血統に興味があるので、ニックス等を調べていきたいと思っています」
2018年・エポカドーロが勝利した皐月賞で初めて競馬を見た競馬歴約1年のKさん(横浜国立大学)も、そうした後輩の1人だ。
一気に競馬の魅力にとりつかれたKさん(横浜国立大学)は、今ではほぼ毎週競馬新聞を買っているほどの競馬ファンとなった。キタサンブラックの現役時代を知らない彼だったが、この1年間で動画サイトの競馬映像を見尽くしたという。今ではオルフェーヴルの逸走やラストランについても笑いながら話せるほどで、先輩たちもどこか嬉しそうに彼を紹介してくれた。
「POGは今年が初めてです。普段あまりみないような『血統の傾向』を調べるきっかけになるので面白いですね。今年注目しているのはイグニタス(母:ガーネットチャーム、父:ハービンジャー)です!」
一、二巡目のくじ引きを外した横浜国立大学。三巡目でも競合してしまったが、そこではようやく当たりを引いた。
二巡目で外した時は「(前年度は)優勝ほぼ確実なんだから、ハンデでしょ」と他大生から笑い声も起こっていたが、三巡目で指名出来た時には拍手が起こっていたのも微笑ましい光景だった。
将来は馬主になりたいです!──北海道大学
「競馬もPOGドラフトも、生参戦が一番楽しいですね!」というFさん。
当初は北海道からメールでの参加予定だったが、ドラフト会議前日の夕方に「やっぱり(POGドラフトも)現地、行こうか」という話になり、その場ですぐ航空券をとってしまったそうだ。ドラフト会議が終わったあとの夜に泊まるホテルも決まっていないが、オークス観戦も兼ねて東京を楽しんでいく予定だ。
そんなFさんは、一巡目は母ラスティングソング(父:ロードカナロア)を指名。
「馬体が綺麗でした。パドックで馬体をみるのが好きなので、やはりPOGも馬体派です」
北大医学部で学ぶFくんは、将来馬主として競馬界に関わっていきたいという。
8歳から親御さんの影響で競馬を観戦していたキャリアに加えて、現在はセリにも顔を出して目を養っている。門別競馬も、開催中は毎週のように通っているそうだ。
馬主になった開業医や、馬主になってからのキャリアについても調査は欠かさない。
しかし同時に、大学生活中にしか体験できない競馬の楽しみ方も大切に思っているとのことだった。
「週明けはテストがあるんですが、今回はどうしても参戦したかったです。最初、帰りの飛行機は満席だったのですが、勢いで来てしまいました。その後なんとか空席が出ましたので、留年はしないで済みそうです(笑)」
そんなFさんの注目する新種牡馬はアメリカンファラオ。今年のダート界は彼の産駒が席巻すると感じているそうだ。
地元の馬を応援したい!──九州連合
九州にある複数の大学(福岡大学・西南学院大学・九州国際大学・久留米大学・九州大学など)による合同サークル「九州連合」の代表をつとめるHさんは、Twitterで九州のメンバーとやり取りをしながら指名馬を決めていた。
3年連続でドラフト会議の現地参戦とあって、気合いは十分。
実際にドラフトに参加するのは、他大学の雰囲気を知れること、そしてドラフトの緊張感を味わえることが魅力なのだという。
今年はラインベック(母:アパパネ、父:ディープインパクト)を一巡指名。競合したもの、なんとかくじ引きで勝ち取った。
「ジナンボーたちが堅実に走っていること、そして馬体が綺麗なことが魅力的でした。母のアパパネも、牝馬三冠を達成した頃はまだ競馬ファンではなかったのですが、ヴィクトリアマイル制覇などはみていました。好きな馬だったので、指名できて嬉しいです!」
競馬歴8年のHさんは、月に一度佐賀競馬・九州産馬についてのネットラジオをしている。
「一昨年は九州産馬を指名しました。やはり地元の馬を応援したいという気持ちが強いですね。POGとしても独自路線でいけますし、ひまわり賞を勝てた場合は早いうちに賞金が増えるのも強みです。あとは、小倉競馬場で現地応援しやすいのも魅力的ですね」
そんな彼は、最終の七巡目で熊本県産の母アイスウィッチ(父:パイロ)を指名した。
ひまわり賞制覇を目指し、地元九州で声援を送る。
名前がカッコいいことも大切です!──上智大学
先輩たちとLINEグループで相談しながら指名馬を決めているAさん。
祖父が浦和で騎手・調教師をしていたという、ある意味、競馬界における「サラブレッド」の彼女は、子供の頃から競馬に慣れ親しんできたという。しかし「競馬は大人になってから」という想いから、なかなか生観戦とまではいかないまま、いつしか大学生に。初訪問はウマ娘を見て競馬熱が再燃した、2018年・菊花賞の日だった。そこで競馬に夢中になった彼女は、11月にはサークルに入り、翌年の3月からは競馬メディアでアルバイトを始めたのだという。
そんなAさんは、一巡目でラインベック(母:アパパネ、父:ディープインパクト)を指名。
母が三冠牝馬だという血統背景、6月デビューという仕上がりの早さ──しかし、魅力はそれだけではないのだとか。
「名前もカッコ良かったです。カッコ良い名前も、個人的には大切ですね(笑)」
しかしくじ引きではずれを引くと、その「外れ一巡指名」で、先輩がサッと決めたサクセッション(父:キングカメハメハ、母:アディクティド)を指名した。
「キングカメハメハ産駒は減ってきていますけど、未だに魅力はありますからね!それにしても、ラインベックを指名できなかったのは本当に悔しいです」
二巡目はアドマイヤミモザ(母:キラモサ、父:ハーツクライ)が欲しかったが、それも競合の末に落選。
三巡目も競合したが「次は確率的にいけるとは思っていたので」という発言通り、しっかりと当たりを引き当てていた。
「ドイツ血統が好きです。現役馬でも、ワールドプレミアとかが好きで。カッコいいじゃないですか!でも今日はドイツ血統馬が指名できず……なかなかドラフトは難しいですね」
そんな上智大学の七巡目指名馬はモグモグモグ(父:ローエングリン、母:キッスオブドラゴン)だった。
今年はハーツクライ産駒の大物が多い印象です!──一橋大学
「今日指名できた馬の自己評価は、Aです。さすがにA +とまではいきませんけれど……」
そう話すYさん(一橋大学)は、大のハーツクライファン。そのため「ディープインパクト産駒は一切指名しない」という縛りを自らに課した。そんな中、2019年はアドマイヤジャスタ(父の父がハーツクライ)を指名してダービー出走までこぎつけている。
「ハーツクライは馬体が美しいですし、流星も綺麗です。その特徴が多くの産駒に受け継がれているのも好きですね。一巡目でハーツクライ産駒の注目馬・シルヴェリオ母:シルヴァースカヤ)が欲しかったのですが、くじで外れてしまいました。今回のドラフトは、それだけが悔やまれます」
Yさんは高校二年生のときに、マリアライトが勝利した宝塚記念をTVで見て競馬に興味を持ち、キタサンブラックのジャパンカップで夢中になったのだという。
「中でも思うのは、競馬を生観戦するときの魅力のすごさです。何万人ものファンがひとつの場所に集まるというだけでもとんでもないことですよね!その興奮を味わうために、関東で開催されるG1は、なるべく現地観戦するようにしています」
アドマイヤミモザ(母:キラモサ、父:ハーツクライ)も指名候補にあったものの、二巡目で消えてしまった。しかしYさんは、それを見てニヤっと笑う。
「今年はハーツクライ産駒の大物が多い印象です。ハーツクライも高齢ですが、なんとかこの世代で、ジャスタウェイに続けるような後継種牡馬を増やして欲しいです。活躍する馬が登場することを期待しています!」
そんな彼は、ラストの七巡目でクラヴァシュドール(母:バスオブドリームズ、父:ハーツクライ)を指名。早くデビューできそうだということが魅力で、厩舎・馬主・生産牧場を加味した上で、穴狙いの指名だという。
馬主を目指す大学生、ラジオで情報発信する大学生、競馬メディアで働く大学生……様々な方法で競馬を楽しむ大学生たち。競馬歴は様々ではあるものの、どの学生の目からも真剣に競馬・POGを楽しんでいることが伝わって来た。来年のダービー、そして日本競馬界の未来が楽しみになるようなイベントだった。
さあ、1年間かけて頂点を掴むのは、一体どの大学だろうか!?
写真・うまカレ、緒方きしん