[連載・馬主は語る]レイニーデイ・イン・盛岡(シーズン2-17)

翌朝、窓を開けてみると、雨が降っていました。あらかじめ分かっていたけれど、朝からため息がひとつ。最近の天気予報は正確で、良くも悪くも予測どおりになります。午後からは雨が上がる予定ですが、午前中の雨はどこまで馬場を濡らしてしまうのでしょうか。それによっては、芝で行われるべきレースがダートに変更になってしまいます。

クエスチョンマークが浮かんだ方も多いと思いますが、これしきの雨で盛岡競馬場は芝のレースを中止して、ダートに変更してしまうのです。中央競馬では雨の中でも当たり前のように競馬が行われますが、あれは芝のメインテナンスが生き届くからであって、盛岡競馬場は雨でぬかるんだ馬場を馬が走ると芝が傷んでしまい、翌日以降の開催で修復することができなくなることを危惧して、馬場の保全のためという名目のもと、芝のレースを避けたがる傾向にあるのです。お金も人員も足りないのは分かりますが、エコロテッチャンにとっては、芝からダートへのコース替わりはマイナスでしかありません。

ため息が出たのは、あくまでもエコロテッチャンが芝でレースをしたかったからであって、僕は決して雨が嫌いではありません。正確に言うと、濡れてしまったりするのも嫌ですし、邪魔になりがちな傘を持ち歩かなければならないのも面倒くさく、かつては雨は好きではありませんでしたが、「レイニーデイ・イン・ニューヨーク」という映画を観てから雨が好きになりました。ウッディー・アレン監督による、ニューヨークを舞台とした、映画の中のほとんどのシーンで雨が降っているという作品です。この映画を観たことで、雨に対するイメージが、じめじめとした鬱陶しいものから、美しく風情のあるものへと180度変わりました。今となっては、雨が降ると近くのスターバックスコーヒーのテラス席にわざわざ行って、雨の音を聞きながら仕事をするほどです。

しばらくすると志村厩務員からLINEが入ってきました。「ダートに変更になりました」の一文を読み、ため息がふたつ出ました。先週のハーベストカップ(芝1000m)にあと1頭で出走できず、仕方なく芝のマイル戦に矛先を切り替えたのに、まさか台風による雨の影響でダート1600mに変更になってしまったのです。競馬が開催されたことを喜ばなければならないのかもしれませんが、あまりにも条件が二転三転してしまい、そんなことを露知らないエコロテッチャンには申し訳ない気持ちです。テッチャン、今日はダートの1600m戦になったよ。

上手獣医師の車に乗り込み、僕たちが競馬場に向かう頃には、雨はすっかりと降りやみ、道路も乾きつつあります。天気予報を見てから芝→ダートの変更の判断をしたのか、主催者に対して疑問を抱きました。競馬場に着くと、風が強く、肌寒いを通り越して寒い。雨避けにウインドブレーカーを持ってきて正解でした。上手先生に従って、入場門をくぐり、そのまま4階にある馬主席へと直行しました。正直に言うと、水沢競馬場の馬主席を知っていたので、盛岡競馬場の馬主席には全く期待していませんでしたが、エレベーターが開くと前には豪華な空間が広がっていました。

大人数で貸し切れるホールもあれば、大きな窓から自然の山々の風景が見える自由席もあり、豪華な雰囲気は中央競馬の馬主席と比べても遜色ありません。しかも飲み物は無料で頼めますし(自動販売機ではないですよ)、なんと美味しいお弁当まで出てきます(これも無料)。岩手競馬の馬主会には年間で7万円ほど納めなければならないのですが、この素晴らしい馬主席は岩手で馬主になる理由のひとつになるのではないでしょうか。エコロテッチャンの出走するレースは第4レースです。コーヒーを飲んだり、お弁当を食べたりして馬主気分を堪能しながら、出走時刻を待ちます。

馬主席の外にはベランダがあって、そこからも競馬を観ることができます。ここならば蹄や鞭の音が聞こえて、臨場感が味わえそうです。見渡してみると、盛岡競馬場はダートコースが外、芝コースが内にあります。中央競馬の逆ですね。エコロテッチャンが走る予定であった芝の1600mコースは、スタートしてからコーナーを4つ回りながらゴールを目指す、小回りのコース形態です。対して、変更となったダート1600mは、向こう正面の引き込み線の奥からスタートして、ワンターンで最後の直線を向く広々としたそれです。ただ単純に芝からダートに替わったということではなく、小回りの4つコーナーから広いワンターンに変わってしまったのです。ベランダからコースを一望してみたことで、僕は変更の深い意味に気づいてしまい、愕然としました。

気を取り直し、今日の悪条件でエコロテッチャンがどこまでやれるのか見てみましょうということで上手獣医師と意見が一致しました。ダートのワンターンの1600mがこなせるのであれば、芝の1600mからダートの1200mまでの選択肢が広がることにもなります。芝の1000mがベストかもしれませんが、その条件ばかりを使おうと思っても、今回のように出走できなかったり、天候によって条件が変わってしまったりすることもあるはずです。そうしたときにも、自信を持ってレースに臨むことができる方が良いに決まっています。そもそも盛岡競馬場は芝の短距離の番組が少ないため、ダートやマイルの距離のレースでも走れる方がチャンスは広がるのです。そう考えると少し希望が湧いてきました。

(次回へ続く→)

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