卓越した能力により、新しいジャンルを築き上げてしまう者が、世界には存在する。
2007年に産駒がデビューした2頭の種牡馬もまた、そうした才能を持っていた。
ゴールドアリュールと、サウスヴィグラス。
2007年6月5日に旭川競馬場でサウスヴィグラス産駒マイアミフェスタが勝利、7月12日に旭川競馬場でゴールドアリュール産駒コバルトブルーが勝利。今はなき旭川競馬場で始まった2頭の種牡馬による快進撃は、その後『ダート種牡馬』という存在を確固たるものにした。
サウスヴィグラスの初年度産駒は、秋には中央勝利をあげる。さらに2009年には地方出身のアイドルホース・ラブミーチャンが全日本2歳優駿を制覇。その後も産駒からは、牝馬として初めてJBCスプリントを制するコーリンベリー、地方所属で同じくJBCスプリントを制するサブノジュニア、JDD勝ち馬ヒガシウィルウィンなどが登場。特にダート短距離では無類の強さを誇った。重賞での華々しい勝ち星だけでなく地方での安定した活躍もあり、サウスヴィグラスは毎年多くの牝馬を集める人気種牡馬となる。
ゴールドアリュールの初年度産駒からは、GI競走・JpnI競走合計で9勝をあげたエスポワールシチー、JpnI競走6勝のスマートファルコン、南部杯勝ち馬オーロマイスター、皐月賞2着馬タケミカヅチらが登場。
一躍、ダートのマイル〜中距離は、ゴールドアリュール産駒抜きでは語れない時代に突入した。
特に交流JpnI・かしわ記念では圧倒的な強さを発揮し、エスポワールシチーとコパノリッキーの2頭がそれぞれ3勝ずつをあげた。
また、同じくマイル戦であるGI・フェブラリーSでも同様に、2012年〜2015年まで連続して連対するなど好成績を残していた。
──しかし2016年、フェブラリーS。
勝ち馬モーニン(父ヘニーヒューズ)をはじめ、2着ノンコノユメ(父トワイニング)、3着アスカノロマン(父アグネスデジタル)、4着ベストウォーリア(父マジェスティックウォリアー)と、他の血統馬たちによる逆襲にあった。同レースの3連覇に挑んだコパノリッキーは7着と奮わず。エスポワールシチー、コパノリッキーと続いてきた「ゴールドアリュール産駒王朝」の終焉が近づいたかに思えた。
だが、そのフェブラリーSが開催された同日・同競馬場のヒヤシンスSにて、新たなる王の座を目指す1頭が勝利をあげていたのだ。
ゴールドアリュール9年目の産駒、ゴールドドリームである。
強さは見せつつも、大舞台で惨敗。
不安定さの残る若駒時代。
ゴールドドリームは関東オークス3着のモンヴェールを母に持つ期待馬で、その5代母Specialは歴史的名牝でもある。当時すでにダート種牡馬としての地位を確立していたゴールドアリュールとの配合とあって、ダートの道での活躍が期待されていたことだろう。
デビュー初戦を3番人気ながら快勝すると、続く条件戦で1番人気で勝利。実はこれがゴールドドリームにとって早くも、現役時代における最初で最後の「1番人気での勝利」となる。
続くヒヤシンスステークスを5番人気で快勝すると、交流重賞・兵庫CSでは単勝1.3倍の圧倒的人気を集める。しかしここで前に立ちはだかったのが、のちに帝王賞やJBCクラシックを制覇するケイティブレイブ。
なんと、7馬身差で敗れてしまったのだ。
ユニコーンSでの重賞初制覇を挟み、ケイティブレイブにリベンジをと挑んだJDDでは、ケイティブレイブに負けただけではなくさらにその4馬身先にキョウエイギアがゴールするという悔しい結果に。初めてのJpnI競走は、1番人気3着という悔しい結果に終わった。
夏を越して秋初戦は、古馬との初対戦となる武蔵野S。
数々の名馬が古馬との初対戦に選んできた絶好の舞台で、ゴールドドリームは2番人気2着と、デビューから7戦連続で馬券圏内に食い込む安定感を見せる。
良くも悪くも、大崩れせず、しかしどこか勝利には届かない──そんなもどかしさが残る戦績だった。
ただ、その次走に選ばれたのは、ゴールドアリュール産駒にとっての鬼門・チャンピオンズCだった。
チャンピオンズCの前身であるジャパンCダートは、当時のダート界の大将格・エスポワールシチーが1勝3着1度という戦績を残している。しかしそれ以外は、馬券圏内には食い込めずに苦戦を強いられていた。
さらに中京・チャンピオンズCに移転後は壊滅状態で、創設2年間で馬券圏内に絡んだゴールドアリュール産駒はいないという状況だった。特にゴールドアリュール産駒の稼ぎ頭であったコパノリッキーは2014年に1番人気12着、2015年に1番人気7着と大きく負けていたのも、その印象を強めた。
ゴールドドリームはそのイヤな流れを断ち切れるのか?
答えは、非情にも「NO」だった。
ゴールドドリームは後方で、コパノリッキーとほぼ並んでゴール。ゴールドドリーム12着、コパノリッキー13着という結果に終わった。
善戦馬が次に手にしたのは、驚くような快勝ではなく、悔しさの残る惨敗だったのだ。
デビュー初の馬券圏外、そして二桁着順を経験し、ゴールドドリームは3歳シーズンを終えた。