「絆を紡いだ仲間たち」続・Horse Space 紡の挑戦
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2024年3月にクラウドファンディングに挑戦した『Horse Space 紡』。その取り組みは大きな反響を呼び、第一目標である越生町の乗馬クラブ跡地に引っ越すための費用拠出だけでなく、第二目標である施設のライフライン復旧まで達成した。最終的には8,158,000円が集まり、世間の関心が競走馬や乗馬のその後に向かっていることを感じさせた。

その引っ越しが終わり、『Horse Space 紡』は現在、新たなクラウドファンディングに挑戦している。越生町に足を運び、そこで再スタートを切った『Horse Space 紡』の"今"を見てきた。

長閑な越生・瓦屋根の新厩舎!

到着するとまず、引越し前と変わらないポストが、私を出迎えてくれた。
紡ぎっ子たちはこの奥で待っている。

引っ越し先は越生町の元乗馬クラブの跡地だが、更にその前は料亭として使われたそうだ。
そのため、敷地内には和風の建築と瓦屋根の建物が何棟も建っている。紡っ子たちは敷地内の奥の厩舎で暮らしていた。

入ってすぐの駐車スペースに車を止めて、以前よりも広くなったスペースを散歩する。斜面を下り、一番奥のパドック付きのスペースに辿り着くと、仲嶺さんと紡っ子たちが出迎えてくれた。

まるで祖父母の家に行くかのような、懐かしい雰囲気を感じずにはいられない佇まいの中に、人馬が共生するスペースが再建されていた。

きゅう舎では、各馬の個室が余裕をもって仕切られている。外を眺める窓も空いていることから通気性にも優れているようだ。実際に取材に訪れた日はこの週で最も暑い日だったが、きゅう舎や木陰にいれば涼しく感じられた。また、各馬の部屋には扇風機が備え付けられ、それぞれに午後の風を浴びて涼んでいた。

久しぶりに再会した紡っ子たちに挨拶をして回ると、顔を寄せてくれる紡っ子たちの目は穏やかで、和やかに歓迎してくれた。きゅう舎の横にはパドックがあり、パドックで過ごす紡っ子の様子を、他の仲間が見ることが出来るようになっている。

羽生時代と変わったのは、パドックの仕切りが鉄パイプになったことだ。

馬を入れてから空いている部分の2本のパイプを通して、ネジを閉めて塞ぐようになっている。実際に開閉してみると、このパイプが重く、開閉だけでも苦労するのだが、紡っ子たちはこの場所を好んでいるそうだ。それはパドックにいながらにしてお互いの様子を見ることが出来るからなのだとか。

私がパドックに入ってみると、きゅう舎の紡っ子たちが様子を見ようと一斉に顔を出してくれたので、思わずカメラを向けた。

『Horse Space 紡』代表の仲嶺さんに最近の各馬の様子や敷地内の案内を受けながら、芦毛のブランレーヌをパドックに放牧に出す。ブランレーヌは腰痿(腰フラ)を患っていて、病名の字のごとく腰から先、後脚にまひや運動障害が出るため、日々経過を見守りながら適度に身体を動かす必要がある。

また、敏感で繊細な性格ゆえに触れることが出来ない人もいるのだと伺ったが…パドックでマロンに見守られながらごろごろし始めた。力強く立ち上がる姿は、とても療養中とは思えないほど元気そうにも見えた。

紡っ子たちはお互いの様子を見守りながら、日々を過ごしている。見守られて安心するのか、元気な姿を見て欲しいのか、ブランレーヌはきゅう舎の様子を見に行ったり、写真を撮影した位置で見守っていた仲嶺さんと私に近寄り「虫が飛んでるから身体がかゆいの」と主張するように振る舞ってみたりする。久しぶりに再会した私にも、思っていることを伝えてくれるようになっていた。

私がしばらくブランレーヌの身体をかいてあげた後、仲嶺さんに馬着を着せてもらい満足したのか、ブランレーヌはまたパドックへ駆け出して行った。

ここで終わりじゃない! 紡っ子たちに立ちはだかる課題

現在は、紡っ子たちが暮らしている厩舎と厩舎前のパドックが使えるようになり、交代で屋外に出たり、お互いを見守りながら生活できるようになった。設備は整ってきているが、これで終わりではない。むしろ、ここから先の道程の方が長いのかもしれない。

先述の通り、この場所は元乗馬クラブであり広大なスペースがある。活用したいという想いはありつつも、まだ活用しきれていないスペースもあるのだ。そのうちいくつかをご紹介いただいた。

造られたけど…使われなかった洗い場

この敷地内で元オーナーが最後に建てたとされる洗い場は、先ほどの厩舎から程近い場所にある。

洗い場には扉があり、開けると馬1頭分のスペースがあるのだが、きゅう舎とは異なり真っ暗で使い勝手に課題が残る。また、洗い場の屋根も小柄なマロンやパインであれば十分だが、サラブレッドや乗用馬では首を振ったら頭が当たってしまいそうな高さだ。

コンクリートの上に鉄パイプで組まれている屋根部分の嵩増しをして、どんな馬でも心地よく使えるようにしたい場所だ。

まるでお化け屋敷…きゅう舎跡地

まずは、この写真をご覧頂きたい。

取材時間は午後2~3時頃、蛍光灯をつけた状態での撮影だが、ここは紡っ子たちが暮らすきゅう舎とは別のきゅう舎跡地で、かつてここで生活していた馬たちがいたそうだ。電気と換気扇は動くが、外の様子は伺い知れず、カビが生えたりところどころ朽ちている箇所もある。

仲嶺さんを中心に、ミントキャンディ、アオちゃん、パイン、マロン、ブランレーヌ(ブーちゃま)、さくら、そしてこの春から新規預託馬として紡っ子に加わったミセスプリンの7頭が共に生活しているが、このお化け屋敷厩舎も将来誰かが「安心して暮らす」場所になる可能性を秘めている。

広く使うように改築したならば、2~3頭が入居できると想定される。

せっかく広いのに…修繕が必要な牧柵が建つ放牧地

紡っ子たちがメインで使うパドックとは別に、入り口ポストの横に広い放牧地がある。
そこには牧柵こそ組まれていたが、活用するには修繕が必要な状態である。

例えば、入り口の塩ビ管と鉄パイプを結束バンドで固定しているのだが、その隙間は木っ端で埋められていて、素手で簡単に外れてしまう(実際に、触れているうちに位置がずれてしまい、戻してから撮影した)。

また、鉄パイプを切った上にキャップが被せてあるだけの状態なので、金属部分に触れれば人馬共にケガをしてしまうリスクもある。

紡っ子たちのパドックも同様の素材で作られているため、決して万全の状態ではない。

また、放牧場にはゴムチップと砂利が敷き詰められているが、その下からコンクリートが露出し、素手で簡単に柵が動いてしまう。

人の力で動くのだから、当然人よりも力のある馬がもたれたり体当たりでもしようものならひとたまりもない。こちらも安全面での課題のひとつだ。

改修して、より良い未来を目指す~Horce Spaceへの挑戦を継続中!!~

実際に越生の地を訪れて、紡っ子たちの穏やかな生活をほんの僅かな時間であるが共に過ごしてみた。

都心部の喧騒も無ければ、車通りも少なく、木々が風に揺れる音、虫の声、山に住む鹿の蹄音、仲嶺さんが流していたラジオの音…市街地から1時間強の距離感とは思えないほど長閑で居心地の良い空間だ。

しかし、この空間は新生Horce Space 紡のほんの一部分でしかない。先に紹介した紡っ子が暮らすきゅう舎は写真の赤丸で囲った場所、駐車スペースとの間にある白い屋根の建物が洗い場、改修が必要なスペースは写真左上の部分だ。写真左下の馬場は、ワークショップを行い、人馬の交流の場になっている。

そこで、この越生の地での人馬のQOLを更に高めるべく、第2回のクラウドファンディングが現在進行中だ。

紡っ子たちが皆様の力を借りて手に入れた生活をより豊かにするべく、次の挑戦を行う。

挑戦の詳細は下の写真からクラウドファンディングページを是非ご覧いただきたい。

前回のプロジェクト実施時、牧柵修繕のやり直しにかかる費用は「プラス100万円ほど」の想定が、改めて見積もりを取り直したところ、実際には倍以上の金額を要することが判明した。そこで今回のクラウドファンディングでは本取材でも明らかにした牧柵の修繕を目的として、300万円を目標に支援を募ることになったが、10月22日には前回から引き続き支援している人や、紡っ子たちに関心を寄せる人たちの支援が再び集まり、目標を達成することが出来た。

パリオリンピックで馬術日本代表の『初老ジャパン』と馬たちが脚光を浴び、乗馬にも多くの人の関心が向いている最中である。一方で乗馬は定期的にクラブに通ったり、道具をそろえるのにそれなりの初期投資が必要だったりと一般にはハードルの高いスポーツである。そこでこれから活躍すると期待するのが「人は乗せなくてもフレンドリーに触れ合うことが出来る」紡っ子たちの存在ではないだろうか。

10月末までの短い期間ではあるが、屋根が低い現在のスペースよりも使いやすい洗い場の新築と、配電盤の修理のための費用を第2目標に掲げ、ネクストゴールの500万円を目指した挑戦が続いている。勿論、クラウドファンディングが終わっても、今いる紡っ子たちや、ミセスプリンのように新たに紡っ子になる仲間たちのより良い未来の馬生のための挑戦は、これからも続いていく。


以前の記事にも書いた通り、馬には競馬、乗馬以外にも生きる道がある。

その門戸を広く開いて「いきいきと」馬たちが過ごせる場所を目指す姿は、あの日も今も変わらない。

そして紡っ子たちは以前よりも瞳に明るい輝きを灯して、Horce Space 紡に興味を持ってくれたファンを迎え入れるだろう。

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